23、『歩くカタストロフ』
「へっ……。ジャップのキッズは見分けがつかねぇしテキトーに拐っちまおうぜ」
「テキトーはダメだ。年齢18歳以下、顔はイケメン男か可愛らしい女。オプションでギフト持ちがいるなら賞金は倍。量より質がお望みってわけだ」
「ヘイヘイ。まぁ、そういうみみっちいのは兄貴に任せるぜ」
ジョン・シェルバー。
アフォルス・シェルバー。
アメリカで『歩くカタストロフ』との異名を持つ2人は
「ギフトを使うことは無さそうだが、タバコは用意している。好きに暴れるぞアフォルス」
兄であるジョンは海のギャングであるサメのように狙った獲物は必ず仕留めるという矜持を掲げ、『ジョーズファイター』の異名を持っていた。
現役の同国のプロレスラー相手に、動かないで倒した
地元どころか、『世界では負け知らず』の異名は、アメリカでは
「わかってるぜ兄貴。ちゃちゃっとビジネス終わらせてよ、またロサンゼルスでカジノで暴れまわろうぜ」
スキンヘッドで髭面な弟のアフォルスは誘拐の天才であった。
誘拐ミッションの成功率100パーセントにこなす様は『誘拐スキンヘッド』として各国では恐れられていた。
『スキンヘッドが光る時、人は消える』をキャッチコピーとし、誘拐や人身売買のビジネスをこなす姿は悪人の鏡であった。
──『歩くカタストロフ』、ジャパン上陸はひっそりと成し遂げられた。
「シシシッ。人ってのは良いねぇ。俺らが何かをしなくても勝手に溢れ出る化石燃料みてぇなもんよ。ほら、聞こえるだろう?耳を澄ますと、どこかで人の産声を上げる姿が浮かぶようだ」
「残念ながら俺たち兄弟にとっちゃ人間は小麦みてぇなもんだがな。小麦は万能よ、どんな形になっても稼げるのだからな」
小麦が、パンや麺に変わってもビジネスが執り行われるように。
人間もどんな姿になってもビジネスは成功する。
死んでしまったとしても臓器を売買、生きていたら金持ちに売ったり、と。
彼らにとっては小麦を刈るように、人間を刈る。
ただ、それだけなのだ。
「はぁぁ……。とりあえず3年ぶりのジャップだ。10人は抱きたいねぇ」
「アフォルス、そういうのは後だ。まったく、お前は金と女と酒とギャンブルとシャブと日焼けサロンと登山とテニスと募金とツーリングと靴集めとカバディとお菓子開発としりとりと撮り鉄とカラオケと大食いと野球観戦とあや取りしか遊びを知らない野蛮人め。我が弟ながら単細胞だな」
「兄貴は得意の異名集めか」
「異名集めではない。名誉集めだよ」
1万を越える異名を持つジョンは、『名誉持ちのスモーカー』としての異名を持っている。
彼は本当に多彩な名誉に溢れていて、ギネスにすら掲載されているのだ。
『白い蛇』
『億本ネギ』
『フィクション注射針』
『フロリダのピエロ』
『世界最強キックマン・アスタリスク』
誰もが知っているあの異名、すべてがジョンだというのは誰も知らないのだ。
「ふふっ。ここは例のUQが管轄する第5ギフトアカデミーの地」
「それはそれは。世界から見ても稀なギフト持ちがこぞって集まりやすい場所ってことだな」
「ギフトはギフトに引き寄せられる。それは運命だ。ベートーヴェンなのだよ」
「出たよ、兄貴の『バキューム理論』。聞き飽きたぜ」
弟のアフォルスが「ガッハッハ」と高笑いするのを、ムッとした顔でジョンは横目で見ていた。
「俺はギフトを配る神がこの辺に滞在しているからギフト持ちが集まりやすいと踏んでいるがね」
「おいおい、兄貴。ギフトを配る神なんか居るわけないだろ?俺が言えた義理じゃねぇが……、ちょっとシャブのやり過ぎなんじゃねぇのか?」
「俺はギフトを受け取った時、確かに『クハッ』と嗤うクソガキの声を聞いたんだよ」
「キャハハハ!シャブの幻覚作用だってのぉ!俺は聞いてねぇよ!そんなガキが俺んとこに現れたとしたらパコパコ中出し決めてやってるよぉ!」
「4年前、確かにバビリィからも同じ体験をしたことを告白してくれた」
「バビリィは幻覚で死んだ母ちゃんを見ながら道路出てトラックに轢かれて死んじまったよ!今頃異世界に転生してチート生活を楽しんでるよぉ!アヒャヒャヒャヒャ、バビリィ様素敵ぃ!抱いてぇ、てなぁ!」
アフォルスが兄の背中を叩きながら笑い人通りの少ない道に入る。
監視カメラも少なく、街灯も少ないこの路地は彼らにとって都合の良い道でしかなかった。
兄弟2人でこれから人を誘拐する手順の打ち合わせをしようとしていた時だ。
「む?何者だ!?」
人を察知する能力に長けていて『気配察知』の異名を持つジョンは立ち止まり、真面目な声を上げた。
薄暗い街灯の光のもとに2人の人物が立ち塞がった。
「たまたまここに居たって面じゃねぇな。なんだ、待ち伏せか?舐められたもんじゃない俺たち?」
「キャハハハ!てかガキじゃん!舐めてると犯して殺しちまうぜ」
「…………」
「…………」
待ち伏せをしていた2人は感情を殺しながら、彼らの話を受け流していた。
彼女らの頭にあるのは、『ギフトを狩る』。
ただそれだけであった。
◆
「はぁ?てか、なんでアタシが後輩のお守りなわけぇ?そういうのは関がやるって言ってたじゃん」
岬麻衣は、渋々とギフト狩りの指令を出してきた瀧口の指令に対し、面倒そうに後輩に愚痴りはじめた。
瀧口も関もいない。
完全な陰口であった。
「関先輩は失恋のショックでしばらくギフト狩りを休ませて欲しいと連絡があったと」
「なんだよ関の奴!上松に本格的に振られたのか!なんだよウケるなぁー、あいつ。なら許すよ。変わりにクソ雑魚なミッションくらいアタシが変わってやるし、あんたのお守りくらいしてやるっての」
「そーいうところが岬先輩が嫌われる原因なんすよ。でも自分は岬先輩のこと嫌いじゃないっすよ。……好きでもないけど」
「うわっ、生意気」
五月雨茜はジト目をしながら、岬麻衣に本音をぶちまける。
瀧口からも、関からも嫌われているのを知っている麻衣であったが、それが後輩に突き付けられるというのも結構イライラするところであった。
「アタシは親友を選ぶタイプだから。クソ雑魚は友達にカウントしないから」
「みんなをクソ雑魚扱いする岬先輩に、親友とかいるんすか……?」
「クソ雑魚の癖に生意気。アタシには頼子という魂の親友がいるんだから」
「あっ、そうすか。とりあえず時間ないんでターゲットの確認しましょう」
「その淡々としているあんた、嫌いだわぁ……」
好き勝手に動く五月雨茜は、岬麻衣に資料の紙を渡し、受け取るはしたが読みはしない麻衣は、資料を横に置いた。
お互いに無言のイラつきが走ったのであった。
「2人以上で行動する。ターゲットは必ず話し合う。ギフト狩りのルールですよ岬先輩」
「ギフト狩りの
「……では、勝手に進めます。ターゲットに命乞いでもして殺されれば良いんだ」
「何その隠す気もない本音」
五月雨茜の毒に麻衣が突っかかるも、涼しい顔をして茜はターゲットについての報告をはじめる。
「『歩くカタストロフ』。兄弟のターゲットですね。人拐い、人身売買、奴隷商人、シャブ、万引き、恐喝、詐欺、殺し、インサイダー取引、会社の金の横領、窃盗、イタリアのビーチで
「……何、その愉快な兄弟?」
「『生きてりゃお笑い芸人』の異名を持つ兄弟ですね。『人生エンジョイ』の異名を持つ通り、あらゆる悪いことに精通してます」
「いや、異名多過ぎでしょ」
真面目に敵の情報など聞く気が無かった麻衣であったが、笑いもせずに淡々と報告書を音読し始める茜の態度にも、読み上げられる資料にもつい口を出してしまう。
「じゃあ、まぁ……。今夜、ギフト狩り執行しますか。あと、今回の出撃メンバーはアタシら2人だけ。関や他の先輩たちのギフト狩りの応援はないからね。クソ雑魚の援軍なんて必要もないしね」
麻衣が首をコキコキと動かしながら、ギフトを使えるように気持ちを切り替える。
そんなやる気を出した先輩に、『扱いが面倒な先輩だ……』と頭で愚痴った。
「そういや、茜。あんた、殺ししたことないだろう?」
「な、無いですよ……。なんですか?自分舐められてますか?」
「もしギフト狩りにとって都合が悪いギフト持ちであるならば
「っ!?」
「殺しのやり方なんてね、覚える必要なんかないんだよ……。あんた、その辺のクソ雑魚みたいに優しいし、人を同情出来る心あるし。ギフト狩りなんかに居場所に置くべきじゃねぇんだけどね」
「…………」
茜は、──迷ってしまっていた。
本来の原作の流れでは、乙葉を殺したことにより冷酷なギフト狩りに覚醒を果たす。
その結果、シェルバー兄弟をあっさり殺害するほどのギフト狩りにまで成長を果たす。
しかし、赤坂乙葉を殺害していない今、ギフト狩りへの覚醒はまだ果たしていない。
ギフトを憎むだけのただの少女なのだ。
果たして、ギフト狩りとして中途半端な彼女の行く末はどうなるのか……。
それはまだ誰にもわからない。
それから数時間が経ち、五月雨茜と岬麻衣は『歩くカタストロフ』の2人と対峙することになる。
†
前回掲載したクズゲスバッドエンドでは、この任務に駆り出される前に茜はヨルに殺害されています。
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