22、島咲碧の加入

「師匠の話とはなんだ?何かわかるか絵美?」

「わたしも円もみんな聞かされてないんだよね」


部活終わり。

概念さんや、アヤ氏などの部員が全員が帰ったのを確認し、俺は付き合っている全員の彼女を部室に留まらせた。

いつまでもズルズル引き伸ばすにも限度があった。

これからのことを思うと、緊張でトイレに籠りたくなるくらいにお腹が痛くなる出来事が待ち構えていた。


「それで、どうしましたか明智さん?」

「うん。三島にみんな……。聞いてくれ……」

「おい、待てよ明智。まさかあたしたち全員を振るわけじゃねーよな!?」


俺が真面目な表情をしていること、付き合っている全員の彼女を集めたことの共通点に気付いたヨルは目ざとく指摘をする。

「お兄ちゃん……」と、星子が泣きそうになる表情を浮かべ縋る声を上げる。

ざわざわとしだしたみんなを制止させるようにすると、咳払いをして、宙ぶらりんになっていたことを発表することにした。


「実は……、付き合っている人が1人増えました」

「…………え?」

「秀頼さん?」


頭を深々と下げると、当事者の彼女が「やめてください!私が悪いんです!」と俺に駆け寄ってきた。


「島咲さん?」

「私が……、私が無理言って明智さんに告白したんです。その……、私も明智さんが大好きで彼と恋愛をしたいです!だから、仲間に入れてください!」

「いや、断らなかった俺が悪いんだ!島咲さんのことも俺は好きになって付き合っているんだ……」


島咲さんと一緒に彼女らに暴露をした。

本当に俺の意思が薄弱過ぎて、何回も自問自答をした。

結局、俺は馬鹿だからこうするしか方法はなかったのだ……。


「はぁ……。またですかという気持ちは強いですが……」


絵美が真っ先に俺に近付きながら、困惑した声を上げる。

なんやかんやいつも最初に文句を言いながらも俺を助けてくれる佐々木絵美という女は本当に最高の女の子だ。

今回も彼女に助けられた。


「わたしたちは文句を言えませんよ……。別れろと言われれば全力で拒否しますが、別れるよりは増える方がマシですからね……」

「そうですよ!私たちに隠すくらいなら正直に言ってください!」

「そうそう。それに明智君の魅力がみんなに伝わっていくのも自慢に思うところの1つなんだから」

「我はみんなとギスギスするくらいなら仲良くしたいぞ」

「美鈴たち全員で将来のことを考えていきましょう!」

「みんな……」


絵美、永遠ちゃん、円、ゆりか、美鈴がそれぞれの意見を口にする。

健気な彼女たちのためにも報いたい。

そんな気持ちが心の底から溢れてくる。


「よろしくお願いします島咲さん」

「ふっ、ふつつか者ですがよろしくお願いしますっ!」


理沙から優しく声を掛けられ、赤くなりながら島咲さんは頭を下げた。

ふぅ……、無難な感じに島咲さんを紹介出来たと自画自賛しても誰も咎めないだろうと考えていた時だ。


「うわっ!?」と、つい先ほどまで島咲さんと向かい合っていた理沙の戸惑いと悲鳴が混ざった声が上がった。

「えっ!?」「あれっ!?」と、咲夜と星子の戸惑う声がする。

理沙に何か異常事態が起きたのかと焦りながら振り返るとその原因がわかった。


「姉共々、ミドリもよろしくお願いしまぁーす!」

「あれ!?島咲さん!?島咲さんは!?」

「せーちゃんのギフト?」

「わ、私は何もしてないよ!?というか私にそんなエクストラスキルみたいな能力ないよ!?」


島咲さんが立っていた位置には、彼女の姿が消えていた。

何故ならその位置にはチョコンとミドリちゃんが姿を現していたのだから。

当然、島咲さんの姿が消えているわけである。


そして、和は星子にギフトを使ったのか問い詰めているが能力の内容に『他人の変身は含まれない』星子は慌てて首を横に振っていた。


「な、なら千姫か?」

「いや、ここに居ないだろ」


ヨルは千姫の仕業かと疑うが、ゆりかの指摘通りこのなん場に千姫の姿はない。

『可愛くなっちゃえ』っぽいがそれも一切関係ないギフトなのを当事者と俺だけが知っている。


「あれぇ?さっきまで島咲さんと話していたのに……」

「はい!島咲です!ミドリです!」

「??????????????????????????????????????????????????????」



理沙が理解出来ないようにミドリちゃんを眺めている。

彼女の子供の純真無垢な笑顔は、理沙であっても表情から何かを察することも難しいらしかった。

仕方ないので、すべての事情を知っている俺が助け船を出すことにする。

コホンと咳払いをして、みんなの注目を集める。


「実は、島咲さんは亡くなった妹のミドリちゃんと身体を入れ替えるギフトがあるんだ」

「秀頼ちゃん……」

「大丈夫。君は本物のミドリちゃんだよ。島咲さんのギフトで、再びこちらの世界で活動出来るんだ」

「……そっか。ミドリは本物なんだ」


イマジナリーフレンドなど言わせない。

ミドリちゃんはミドリちゃん。

生まれた時から島咲の妹のミドリちゃんなんだ。

そこが本物だろうと、偽物だろうと、ギフトだろうと関係ないんだ。


「島咲……翠です。気軽に呼んでね」


ミドリちゃんが理沙に緊張しながら近付くと、彼女は涙目になって彼女の手を取った。


「亡くなったなんて……。大丈夫です。あなたの居場所をここに作りますから。だから、よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします!理沙姉ちゃん!」

「明智くぅぅん!可愛いよぉこの子ぉぉ!」

「そ、そっか……」


同じ妹キャラである理沙がミドリに何かを感じ取ったのかいたく彼女を気に入ったらしい。

他のみんなもミドリちゃんに近寄りながら、輪に溶け込んでいった。

新人がもみくちゃにされるのは、どこの組織や集まりでも変わらないらしい。


「まったく……。秀頼君はいつも変わった人ばかり連れて来るんだから」

「ははは……。わりぃな、絵美……」

「大丈夫です。慣れっこですから。それにわたしもみんなと仲良くなりたいですから」

「そうか。ありがとう」


こうして、正式に島咲碧とミドリの2人が彼女に加入したのであった。






─────







「…………」


乙葉は部活が終わりトボトボと帰っていた。

大好きなタケルと理沙とは家の方向は違うので、一緒に帰りたくても帰れない。

だから1人で歩かざるを得なかった。

1人で黙って脚を動かしていた時であった。

強い衝撃が彼女を襲った。


「ねぇ、おっ・とっ・はっ・ちゃん!」

「…………!?」


その衝撃は抱き付きの衝撃だと気付いた。

馴れ馴れしい声に安堵をした時だった。

それは、すぐにクラスで友達になった朱と蒼の眼を持つ五月雨茜だと気付いたのだから。


「これから一緒にスタヴァに……」


『五月雨茜に乙葉ちゃんが殺害されるからと直接言えるならどれだけ楽か……』

秀頼の考えていたことが頭によぎる。


「っ……!?」


あれ以降。

真偽はどうあれ、五月雨茜と明智秀頼の両方に不信感が募り、誰も信じられないという想いが強くなった。

乙葉はわからなくなっていた。

ただ、明智秀頼を信じられないと、その彼と親友の十文字タケルも信じられなくなる。

大好きなタケルを信じられないなら、五月雨茜を切り捨てる。

そういった思考になった乙葉は数日間、茜に対して拒絶していた。


「ごめん。今日、これから用事があるんだ」

「用事……?」


ギフトで心が頭に入る乙葉。

(部活で呑気にしていて、これから用事……?)と、彼女の考えていることが頭にスルスルと入ってくる。

それがたくさんの不信感が襲い、被害妄想すら彼女を膨らませていた。


「美味しい夕食をお母さんが用意してるから!じゃっ!ごめんね!」

「…………うん」


茜の目が寂しいものになり、後ろ髪を引っ張られる想いが込み上がる。

でも、怖い。

葛藤が無限に広がる中、乙葉は逃げるように茜の元から消えたのだ。


「…………自分が話しかけるまで歩いてたよね。…………自分のこと、嫌いですか……?」


茜の呟きは小さく消えていく。

先ほど抱き付いた感触は、もう残っていない。








そして、この日……。

五月雨茜が赤坂乙葉を殺害するという運命を回避した日でもあった。

それでも、世界はゲームのようにリセットされず、その続きがまたプレイされていく。

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