21、宮村永遠の圧勝
永遠ちゃんのブレンドコーヒーと一緒に、俺のエスプレッソも運ばれてきた。
2人して一緒に啜ると「はぁ……」とコーヒーに酔いしれた声を同時に上げた。
「やっぱりマスターのコーヒーは最高ですね!」
「本当に宮村さんは良い子だよ。こういう生娘にたくさんコーヒーを振る舞う人生にしたかったね!」
永遠ちゃんの目映いような感想を前にして、満更でもないようにマスターがうんうんと頷きながら感動していた。
彼のストレスの多さを物語っているようであった。
「やっぱりマスターのコーヒーは最高ですね!」
「君の言葉は皮肉にしか感じないんだよ」
「そんな馬鹿な!?」
俺の褒めの言葉にはなんの感情も沸かないらしく、白い目で見られただけであった。
「はぁぁぁぁ、噂の明智先生はやっぱり彼女いたのか……」
「そりゃあ噂の明智先生だぜ」
ため息を吐く関を慰めるようにタケルが宥める言葉を送る。
関の魂からの叫びとため息が混ざった「はぁぁぁぁ」はインパクトがデカイ。
因みに関翔の声は、前世ではイケボで女性ファンをきゃあきゃあ沸かせた人気声優さんであった。
イケボで放たれるモテないオーラはなんか敗北者感が凄い。
「抱かれたい男子部門・女子の部1位のカリスマだ」
「変な持ち上げ方やめろよ。真面目にやりあったら3組の池麺君が優勝だよ」
絵美や理沙、円らの彼女たちがこぞって悪ふざけで投票しまくったのが原因である。
せいぜい彼女たちの票を抜くと池麺君がぶっちぎり1位だろう。
名は体を表すを体現する池麺君はテニス部のスターである。
「でも抱かれたい男子部門・男子の部1位も同時にゲットだからな。池麺はランクすら入ってないのに」
「顔が良いだけの偽物のイケメンは嫉妬されるからな。本物のイケメンは中身も伴って評価されるもんさ」
「だから変な持ち上げ方やめろって。絶対頼子のせいだから!」
学校での俺の評価は『たまに女になる』というわけのわからないものがある。
そりゃあノンケなら無難に息子が付いてない頼子を支持するでしょ。
あと、タケルと山本とターザンと白田と鹿野と川本武蔵がこぞって大量に票を入れたのも原因である。
「秀頼さんは愛されてますね」
「そんなにこやかな話ではないよ……」
「自慢の彼氏ですから」
「……!?」
「……!?」
「……!?」
永遠ちゃんの薄目になって微笑んだ笑顔は野郎3人の注目を一斉に浴びた。
それくらいに、彼女の笑顔は飛び抜けて可愛い……。
心臓がバクバクと脈打つくらいにロマンティックが止まらなかった。
「クソッ……!羨ましい、明智にこんな可愛い美人な彼女がいるなんて!」
「なーに、関も想い人を諦めたら良い彼女見付かるよ」
「想い人ですか?」
「彼、恋愛に悩んでいるんだって」
「なら私に任せてください!女の子の意見、私が教えてあげますよ」
「そうだ関!宮村なら絶対にお前の力になるぞ!」
永遠ちゃんが胸を張りながら関に相談を促す。
タケルの後押しもあり、関が先ほどまで俺らに語っていたことと同じ話をはじめた。
俺、タケル、永遠ちゃんはコーヒーを飲みながら彼の話に耳を傾けた。
関が同じ話を彼女に披露すると、「うんうん」と頷いていた。
5分程度の彼の恋愛相談が終わると、ゆっくりと永遠ちゃんが口を開いた。
「…………彼氏いますよ、それ」
ハッキリと彼に告げた。
「そのお師匠さんという人に身も心も委ねています。残念ながら関さんに入る余地は無さそうです」
「そっかぁ……」
「諦めが肝心ですよ。もう、女の私から見ても、彼女は彼に濡れ濡れです」
「濡れ濡れ!?」
「毎日ひいひい言わされてますよ。本当の修行でも、夜のベッドでも」
「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」
関が顔芸をしながら永遠ちゃんの身も蓋もない言葉にダメージを受けていた。
「それに『今喜ぶこと・師匠に会いたい』なんて関さんに送る時点でお師匠さんしか見えてないですよ。私の知り合いにも師匠と男に慕っている人がいますけどその彼にしか見てないですもん」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ──(゚Д゚; )→ グサッ!!」
「もうやめろ宮村!」
「止めないで!」
「とっくに関のライフは0だ!?もう勝負は付いたんだよ!?」
「関さんが彼女で喜ばれることがあるとすれば、素直に身を引くことよ!」
「(o_ _)o...返事がない、ただのしかばねのようだ」
責める側が女で、止める側が男という珍しい光景が繰り広げられていた。
「やりました!私、大勝利です!」
「やっぱりエイエンちゃんは最強だ!」
「なんだこのバカップルは!?」
多分審判役を任されていた俺は圧倒的に宮村永遠の勝利と宣言していただろう。
それほどに鮮やかな勝利であった。
「わかった……。俺……、彼女を諦めるよ……」
「関……、お前は漢だ……」
「わかってくれるのは十文字だけだ」
「秀頼さん、近々新しいスタヴァがオープンするみたいですよ」
「当然行くしかないな」
「行こっ、行こっ!」
「カップルなんか!カップルなんかぁぁぁ!」
関は心に大ダメージを受けたようであった。
タケルからは背中をポンポンと叩かれ労れていた。
本当に俺の知人の優しい男ランキング10年連続1位を更新続けるタケルは最強である。
スキル・【無能S+】さえなければハイスペック男子なのに……。
「因みにその関の想い人以外で気になる女子はいないのか?」
「……ふむ。実は去年に同じクラスだった三島遥香という女子は結構お気に入りだったな。彼女に乗り換えるか……」
「三島、彼氏いるよ」
「(゜ロ゜)うそぉぉぉぉぉぉ!?((((;゜Д゜)))ウソだぁぁぁぁ!(;゜∀゜)嘘だと言ってくれよ十文字!?( ・`д・´)いやさタケルよ」
「俺、彼氏知ってるもん」
「な、なら深森美月とか」
「深森姉、彼氏いるよ」
「(゜ロ゜;ノ)ノファッ!?確か1年前は男の影がないって詠美が言ってたのに!?」
「情報が古いんだよ。深森姉が付き合ったのは半年くらい前だし。俺、彼氏知ってるもん」
「( ゚д゚)ポカーン(´;ω;`)そんなバナナ……」
関が思いっきりヘナヘナになってしまった。
心も身体も目付きも一気に老け込んだようだ……。
なんかごめんと俺が謝らなくてはいけないようだ……。
三島も美月も俺の彼女である……。
「あと、俺が気になるのは1年の文芸部の……」
「あ?」
「赤坂ちゃんって子。なんかちっこくてさ。五月雨と一緒に居て可愛いなぁって狙ってんだよね」
「…………おい、関」
「じゅ、十文字……?」
タケルが指の骨をポキポキと折りながら威嚇をしてくる。
それは地雷だって……。
シスコン身内大好き主人公の地雷をどうして踏んでしまうのか……。
「理沙は仕方ないが乙葉はダメだっ!理沙も取られて乙葉も取られたら俺はっ……!俺はっ!」
「あの、ちょっ……!?」
「ぜってぇ、許さねぇ!」
「こええぇぇぇぇぇ!?」
関がブルブルと震えながらタケルに圧倒される。
無能だけど、こいつ鍛えてないのに強いんだよ。
主人公補正の塊だから。
他人事のように関を見ながら、心で合掌した。
「十文字さん、やっぱり理沙が取られてるの根に持っているんだね」
「ははっ……、はは……」
そして、永遠ちゃんの呟きが俺にとって笑えない話であり、渇いた笑い仕方ない出なかった……。
タケルを怒らせたら理沙と別れろと強要してきそうで……。
──この日、俺は自分の弱点を見付けてしまった気がしたのであった……。
†
かなり珍しいタケルが永遠ちゃんを名字で呼ぶシーン。
主人公とヒロインの絡みが少ない物語である。
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