32、津軽和は褒める

「えー?本気で和が入るのー?」

「まあまあ。そんな邪険にしなさんなよ姉者。まだ仮入部期間」

「まぁ、確かに」


嫌がる姉に説得を試みる和。

津軽家の長女である円的には、あんまり姉妹同じ部活というのは避けたいところであった。


「因みに私は文芸部に入るか、部活無所属の2択の予定です」

「入る気満々じゃないの」

「『入る気満々か?』と聞かれたら、入る気満々ですよ」

「はぁ……。話すだけで疲れる妹だわ……」

「私、姉者大好きシスコンなんで!」

「ダウト」


「そんな仲じゃないでしょ」と冷たく言いながら、軽く小突かれる和。

「う!?1ダメージ入った!」と言いながら仰け反り、微弱なダメージを受けていた。


「今時シスコンなんか流行んないっての」

「何を言う円!わたくしは美鈴が大好きシスコンだぞ」

「美鈴もお姉様大好きシスコンですわ!」

「俺も理沙大好きシスコンだ」

「わ、私も妹大好きシスコンです」

「この場にシスコン多すぎない!?」


美月、美鈴、タケル、碧と次々にシスコンカミングアウトが始まる。

これで秀頼も混ざるとなると、今この場に不在で助かったと考えてしまう円。


「大丈夫、我は弟大好きブラコンだ」

「もっと聞いてない」

「あたしはファザコンだ」

「もっともっともっと関係ない!」


ゆりかとヨルの便乗?したような告白であったが、それもすっぱりと切っていく。

「なんで私ばっかり突っ込まなくちゃいけないの……」と円に疲労の色が見えてきた。

「お疲れ……」と、遠い目をした絵美が円にポンポンと肩を叩く。


「なぁ、理沙はブラコンじゃないの?俺のこと嫌い?」

「なんでブラコンかどうか兄さんに言わないといけないんですか?」

「連れねー!」


理沙から冷たくあしらわれるタケルを見て、少し引いたゆりかとヨルと遥香であった。


「咲夜先輩もファザコンじゃ?」

「違う」


ファザコンコミュ障娘は全力で和の問いかけを首を振りながら拒否する。

本当に秀頼だけ不在なんだなと部室全体を見渡す。

そんな和の後を追うように「早いよのーちゃん……」と閉められたドアをまた開ける音がした。


「星子ちゃん!」

「こんにちはです絵美先輩!永遠先輩もこんにちは」


礼儀正しく頭をペコリと下げているのは、明智秀頼の実の妹である細川星子であった。

それからも、絵美から永遠、理沙……と順番にお辞儀をしていく。


「一応仮入部期間ですけど、本命で来ました!」

「クハッ!採用!」

「あ、ありがとうございます。細川星子です」

「黒幕概念。……そうか、お主が明智秀頼の妹」

「あれ?名字違うのによくわかりましたね?」

「クハッ、ウチにかかればすぐわかる」

「そ、そうなんですね……。す、すごい」


概念と秀頼は深い気はするけどそんなことはないくらいの因縁がある。

この場のメンバーでは、秀頼に聞かされている津軽円以外は黒幕概念のことは知らないのである。

原作知識のないタケルや絵美らには、『ギフトを配っている神様』などと説明しても理解出来ないのをわかっているからである。


「あれ?あの2人は?」

「違う部も見てみるって。仮入部期間で色々まわるって」

「2人?」

「私らのクラスメートで部員候補があと2人いるんす。姉者や先輩たちも知らない人だと思うっすけど来たら仲良くしてあげてください」


和は、赤坂乙葉と五月雨茜を思い浮かべながら千姫に説明した。

乙葉がタケルと理沙の従妹なのは、まだ和も星子も知らない事実である。


「か、仮入部ですか?」

「は、はい。えっと……」

「あぁ、すいません!島咲碧です!よろしくお願いいたします!」

「島咲先輩ですね。よろしくお願いします」

「2年生からですけど入部しようかな?って感じで来ました」

「そうなんですね」


星子は普段から絵美や理沙に滅茶苦茶可愛がられている影響で、特に先輩らに関しては恐縮せずに話せる。

スターチャイルドというアイドルであれば、嫌でもコミュニケーション能力は身に付く。

むしろ、先輩である島咲碧の方が緊張してしまいおどおどしているのであった。


「こっちもよろっす!」

「よ、よろっす……?」

「『よろしくっす』を略してよろっす!っすよ」

「こ、こっそ!」

「こっそ?」

「こ、『こちらこそ』を略してみました……」

「通じないっすよ。面白い先輩っすね」

「うぅ……、すいません」


初対面の和と碧では、既に和の方が主導権を握り、ヒエラルキーが高いのが決定してしまったのである。


「へぇ……、良い雰囲気の部室ですね」

「クハッ!ただの空き教室じゃ」


星子の一言に補足をしつつ、ちょっと満更でもない風に概念は答える。

星子の一言で、新入部員予定の和と碧もキョロキョロと部室を見渡していた。


「しっかし、タケパイのナレーション上手っしたね!」

「そ、そうか?」

「はい!タケパイはアナウンサーとか声優向いてるっすよ!」

「なんじゃそりゃ?ちょっとテレるじゃねーか!」

「照れちゃえ、照れちゃえ」

「テレるぅぅぅ!」

「タケルぅぅぅ!」

「津軽妹、お前バカにしてんだろ?」

「はい」


秀頼が居ないので、もう1人の男であるタケルを弄る和。

(そりゃあ、声優向いてるでしょ)と、前世では大ベテランの人気声優を務めたタケルの中の人を円は思い浮かべていた。













…………結局この日、解散時間になっても秀頼は帰って来ないのであった。

因みに、悠久にガッツリ掴まっていた秀頼は野球部の練習が終わる19時まで恋愛の愚痴やらアドバイスやら相談に乗っていたという。








「これもう一種のパワハラだろ……」


秀頼は1人虚しく、暗くなった学校から駅まで歩くことになったのであった。

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