31、近城悠久は気に入っている

1つのノックがあり、全員が雑談をピタッと止める。


『来た来た?』

『来たっぽいです』


静かになった部室にタケルと理沙が小声でノックされたドアに視線を送る。

『ちょっと恥ずかしいですね……』と照れながら理沙が前髪を弄る。


「クハッ!明智秀頼、出迎えろ」


概念さんが部活の出入口のドアに1番近い席で宿題をしていた俺を名指しで顎で使う。

こうなるんだったらもうちょっと前の席を陣取っていたらヨルかゆりかが近かったのに……と不満が出ながらも仕方なく立ち上がる。


「……クハッ」

「真似すんな」


一言返事をすると、概念さんから白けた声の突っ込みを右から左へ受け流しながらドアをスライドさせる。

すると予期せぬ相手が廊下に立っていた。


「げ!?」

「あらあら?秀頼くぅぅぅん?『げ!?』って何かなー?」

「あ、Under9アンダーナイン!?」

「近城悠久学園長先生でしょぉぉぉ?何かな?Under9って?変なアダナ付けてるねぇぇぇ?」

「ひぃぃぃ!?」


達裄さんのU9の口癖が移ってしまっていた……。

しかも、何やらかなり機嫌が悪いらしい。


「た、タケルならあそこいますよ」

「おい、俺を生け贄にするな!?」

「十文字君に用事はないかなー。秀頼に用事あるんだけどいるかなー?」

「秀頼なら帰ったっすよ」

「じゃああんた誰よ!?」


なんでタケルは君付けで、俺は呼び捨て?

そういえば、原作の悠久もタケルがお気に入りで、明智秀頼は『あいつクズじゃん』とか堂々と陰口叩いていたのを思い出す。

そりゃ、そうか……。

ヨルが生まれた未来の世界ではタケルを息子の様に面倒見ていた上司に対し、秀頼に関しては『ギフトアカデミーの恥。黒歴史』とまで貶すくらいに嫌悪していたんだっけな……。

ハッタリも通用せずに、ぐいっと腕を掴まれた。


「はい、職員室に行きますよー。ギフトアカデミーの恥。教え子の中の黒歴史。問題児の中の問題児」

「あーれー」


あれ?

原作の秀頼以上に俺の評価ががた下がりしている気がする。


「あ、秀頼君!?」

「助けて絵美ぃぃぃぃぃ!」


絵美に助けを求めたが、悠久がドアを閉めてしまう。

そして一直線に目的地に歩かされてしまった……。

何人かの生徒にじろじろ見られながら、職員室に連れて行かれて連行される。

担任や、瀧口などの先生にも困った目で見られながら悠久の机の前に立たされた。


「文芸部の部活発表内容はフリップではなく紙芝居って聞いてたんですけど!?どうなってるのかな秀頼?」

「あはは……。紙芝居作る時間無くて……」


『紙芝居じゃなくて、フリップみたいにしましょう!ちょっとの違いくらい学園長先生なら許してくれますよ!』という永遠ちゃんの意見は残念ながら頭が固い学園長には通用しなかったらしい。


「良いプレゼンでした。十文字君のナレーションも良かったし、盛り上がったし。100点あげるくらいの出来。でも、秀頼が提出した内容くらいは守ろう。ルールくらいはきちんとしよう」

「なんでタケルちゃんは君付けで、秀頼は呼び捨てなんですかね……?」

「だって秀頼も私を呼び捨てにするしぃ!達裄さんも秀頼って呼んでるしぃ!」

「後者だろ」


俺も達裄さんに影響されてるし、悠久も達裄さんに影響されてるらしい。


「何がルールだよ。俺と織田の決闘の際にガバガバルール押し通して俺が負けそうになる遠因作りやがってよぉ!」

「ぅぅ……。あ、あれはルールの穴を掻い潜った織田君が上手だったの!」

「その話を誇張しまくって達裄さんに教えたら、悠久に対し『ないわー』って引いてたよ」

「あわわわわわわわ!?次から気を付けなさいね秀頼様!わたくし、寛容な決断を下す壮大な女、悠久ですから!」

「必死だな」

「達裄さんの印象良くしといて!」

「考えとく」

「そんなぁぁぁ!?」


ちょっとサディストを演じるのも楽しい。

悠久のおかげで、新しい性癖の扉を開けてしまったかもしれない。

そんな出来事であった。






─────





「秀頼さん、連れて行かれましたね……」

「あの学園長、絶対秀頼をお気に入りだよな」

「明智さんに対し、生徒というより友達かなんかと認識しているみたいですよね」


永遠、タケル、遥香は顧問であり、学園長の悠久の話で盛り上がる。


「悠久先生も秀頼様が好きならどうしよう……?」

「それはないよ」


達裄のことが好きなことを知っている悠久の事情を知っているタケルは美鈴の意見を否定する。

ちょっとだけ、親友の師匠を大変そうだと同情していた。

しばらく悠久の話題で盛り上がりを見せていた時であった。




『す、すいませーん……』




か細い女の声が聞こえる。

「ん?」とヨルが反応した時であった。


「ぶ、部活に興味があって来ましたぁ」


青い髪色をした前髪パッツンな姫カットをしたおどおどしま美少女が廊下から入ってきた。

「いらっしゃい」と、ヨルが彼女を出迎えた。


「ん?リボンが2年?」

「あははー。私は新入生じゃないんですけど文芸部に興味があって……」

「おお!歓迎歓迎!」

「クハッ!別に畏まらずとも楽にせい」


部長の概念さんが部活に興味を持った少女に近付いていく。

「あ、ありがとうございます!」とお礼を言いながら頭を下げた。


「あ、碧ちゃん!」

「遥香ちゃん?」

「久し振りー!」


三島遥香が島咲碧という友達に気付き、手を取った。

「高校入ってからクラス違うから中々話せなかったねー」と碧も遥香に嬉しそうな声を出す。


「遥香と同じ中学なんですかね?」

「多分?」


美鈴と美月がそんな状況を整理してやり取りをしていた。

遥香と碧で手を取り合っていた。

そこに割り込むように元気な声が響く。





『たのもー!』






この部室に集まっているほとんどの者が聞き覚えのある声が響き渡る。

というか、毎日聞き飽きるほどに聞いている女の声だと気付いた円は「まさか……」と、キッとした目をドアに向ける。





「頼んだらやらせてくれそうな女子ランキングでまた1位を取った私登場です!ゴミクズ先輩!」

「あはは……。秀頼さんはちょっと不在です……」

「あら残念」


円と同じ緑色の髪の女が現れた。

「な、なんでここに来るの!?」と、円が恥ずかしさと驚きが混ざった声で少女へ投げ掛ける。








「津軽和!参戦!」















秀頼は織田の決闘でガバガバルールを下した悠久を恨んでいます。

>>「……ギフトの使用にはの制限もなし。やられたね。ルールの穴を付かれてわたくしは何も反則が取れない」


第13章 因縁

14、潰れた花は立ち上がる

こちらを参照。

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