27、明智秀頼はダウナー

初恋を引きずる女々しい思い出を鹿野と共有し、大分テンションが低くなっていた。


「はぁ……」とお互いにため息を吐きながら、気まずい感じで別れた。

鹿野が島咲碧と付き合う流れになったら、ある意味原作ブレイカーでハッピーエンドな気もする。

この際、明智秀頼死亡エンドさえならなければ多少のバッドエンドも許せてしまう。

…………というか、本編的にタケルと島咲は既に出会っていなければならないのではないだろうか?


「…………初恋か」




俺は複数回の初恋をしているが、果たしてどれが本当の初恋なのだろう?


前世では来栖さん。

前世を思い出す前は詠美。

前世を思い出してからは…………絵美?


なんてこったい。

3回くらい初恋をしている自分に気付いたのであった。


段々俺が豊臣光秀として生きてきた感覚が失くなってきてしまっているのだろうか……?

その感覚が失くなってしまった時、俺は俺でいられるのだろうか……。

クズでゲスな悪役になってしまうのではないか……。


そんな不安が頭に過り、拳を握りしめていた。








─────






すべての授業を終えて、放課後になる。

部活もなく、達裄さんとの修行もない日なので、1人で学園の屋上に来ていた。


一筋の風が頬を撫でる。

気持ちの良い冷たい風が歓迎してくれた。

地面にブルーシートを敷き、ゴロンとシートの上に横になる。

見上げた先は青い空。

前世と変わらない形の雲が動いていた。


「あの空の向こうに宇宙があって、その宇宙の果てに俺が住んでいた世界があるのかな……」


異世界のようなゲーム世界。

日本とジャパンなど微妙に違う呼称。

ギフトの存在。

いつの間にかこっちの世界に慣れ過ぎて、豊臣光秀の存在が希薄になってきた……。

豊臣光秀と呼ばれていた時間と、明智秀頼と呼ばれている時間が並ぼうとしている。


じゃあ、俺は誰だ?


豊臣か?

明智か?



「はぁ……、マジでダウナーだぜ……」


明智秀頼が死亡した先は、またギャルゲーの世界に転生でもするのか?

この世界の神に、そんな意地悪な暴言を吐き捨てたくなる。

目を瞑り、考え事を滅却する。

そのまま意識を離したら、俺はどうなるのか……。


この屋上から飛び降りて死んだら何かわかるのかな?


目を開き、柵を視界に入れる。

その柵の向こう側が輝いて見える。











『はぁ……、マジでダウナーだぜ……』

「…………は?」


ガバッとブルーシートの上で体勢を変えて、上半身だけを起こす。

どこからか聞こえた声は、よく知っている人物であった。


「ま、円!?」

「おはよう、明智君。面白いこと言ってたわね。『マジでダウナーだぜ……』」

「真似すんなよ」

「関係ないけど急に『ダウナー』とかいう単語が出て驚いたわ」

「じゃあ横文字NGだね」


いつ彼女の横文字苦手は治るのか、見ものである。


「なんか久し振りにこれ言ったわね。思い出したかのようにすっと口に出た感じ」

「思いだしたからじゃない?」


最近、このやり取りを1年近くしていなかった気さえしてくる。


「いや、違うわ。今の明智君がどことなく豊臣君に見えたのよ」

「は?何言ってんの?」

「それのおかげで私も津軽円から来栖由美になったの!だから来栖由美の口癖がすっと口に出たみたい。不思議……、私って円なのか由美なのかわかんなくなっちゃった」

「なんで同じこと考えてんだよ!」

「やーん!運命だよ!豊臣クゥゥゥゥン」

「そうだね、運命だね」


ちょっと明るいしゃべり方をしている辺りクールビューティーな円から、ポンコツな来栖さんの波長が来たらしい。


「お隣、失礼するね豊臣君」

「いいよ。……く、来栖さん」

「もう、恥ずかしいよ豊臣君」

「来栖さんから言ってきたんだよ」


最近まで死んでいた豊臣光秀のノリに合わせてみる。

豊臣って呼ばれるのが恥ずかしいくらいである。


「失礼しまーす」と、広げたブルーシートで俺の隣に寝っ転がる円。

いや、今だけは来栖さんと呼んだ方が正しいかもしれない。


「それで、どうして来栖さんも屋上に?」

「豊臣君が1人でこそこそしていたから後つけちゃった」

「見られてたのか……」


油断からか、周りにアンテナを張り巡らせていなかったからか、全然気付かなかった。

別に見られてはいけない行動をするわけじゃなかったからな。


「ふふっ。豊臣君の後をつけるのが私の日課だったんだから!」

「俺は後をつけている来栖さんの反応を見るのが日課だったから」

「え!?気付いてたの!?」

「男子トイレに入ると『きゃぁぁ!』って逃げていく声とか聞こえたし……」

「きゃぁぁ!」

「そう、そんな声!」

「じ、実践したわけじゃないから!というかば、バレてたのね……」

「吉田が『よく由美が豊臣君の近くにいるよ』って言ってた」

「おい、吉田!ペラペラペラペラと……。あいつの口は紙かよ!」


なんか吉田とか前世の名前が出てくると、『そういえば俺は豊臣光秀だったんだ!』と変な自覚が芽生えてくる。


なんかギフト関係ないのに、島咲碧とミドリみたいに身体1つで2つの魂が入れ替わるみたいなことになっているな……。


「なんか落ち着くなぁ……。髪とか弄っても髪質とか髪色とか全然違うのに『豊臣君だ!』ってすぐ気付くもん」

「逆にその能力凄すぎない!?」

「豊臣君って髪質固めだったけど、明智君って柔らかめの髪だよね」

「…………う、うん。よくわかるね」

「私の豊臣君と明智君の察知能力はギフト並みだからね!」


横になっている来栖さんに髪を弄られ、揉みくちゃにされていた……。












豊臣光秀はストーキングされているのを黙認していた。

光秀モードの時の秀頼は、何仕出かすかわからない怖さがある。

彼の素は光秀の方。


秀頼モードの時は、少しでも死亡フラグを抹消させるために良い子ちゃん気質。

男にはサド、女にはマゾないつもの男。


光秀の方が多少性格が悪く、少し狂人が混ざっている。

部屋を爆発させる仕組みを作っている時など、1人で家に籠ったりしている時は光秀気質である。


絵美やみんなと一緒になると秀頼寄り。

この辺を使い分ける辺りが、星子と似てます。

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