26、引きずる初恋

「なぁ、マイフレンド秀頼よ……」

「いつお前とそんな気安い仲になったんだよ」


転校してしまった島咲碧の席は空席になったところを見て、鹿野が嘆くように話しかける。

変な人付き合いが増えてしまった……、と自分を客観的に見ながら鹿野の隣の席に座っていた。


「あーぁ……。俺、島咲のこと好きだったんだぜ……」

「知ってるよ」

「知ってた?」

「知ってるっての」


鈍感鈍感と周りから弄られまくっている俺だが、鈍感とはかけ離れた鋭さを持っていることは自負している。

鹿野の初対面時の島咲碧にやたら優しい態度から察していた。


「見ているだけでさ、癒しになってたのよ。彼女が悲しい顔をしていると悲しいし、嬉しそうにしていると嬉しいし。わかるか?」

「わかるよ。話しかけてもらえると天に昇るくらいご機嫌になるし」

「わかるねぇ!わかるねぇぇ!はぁぁ……、初恋終わった……」

「初恋終わった気持ちもわかるっての……」

「なんだよこいつ……。お前は俺かよ……。『マイフレンド』って呼んで良い?」

「さっき呼んでなかった?」


つまるところ、鹿野にとっての島咲碧は……。

俺にとっての来栖さんのようなもんだったのだろう……。


そりゃあ、しょげるよね……。

俺なんか、どうやったって来栖さんとは会えないし、来栖さんの気持ちすら確かめられないんだから……。


「俺、転校する最終日告白しようと呼び止めたんよ」

「ふーん…………。ファッ!?え?告白したの!?」


鹿野との愚痴り合いを脳内リソースを裂かないで聞いていた時に、爆弾をぶん投げてきて、目が一緒にして冴えた。

え?

鹿野が告白したの?


こ、この小学生積極的過ぎぃぃぃぃぃぃ!

こ、こいつも転生者か!?


「て、転生したことある?」

「ねーよ。てか、どんな反応?」


あ、違った。


「告白しようとしただけだっての。でも、俺に気がないのがわかって『またな』って言って別れちまったよ……」

「なんだよ、気がない相手から告白されることにより気がある状態にさせんだよ」

「バァカ!つい最近別の男に恋に落ちた相手に告白したところで気がある状態なんかなるかよ」

「へぇ。彼女好きな子いるんだ」

「…………」


もしかしてタケルか?

ふっ、相変わらず親友はモテモテで俺も鼻が高いよ。


「………………」

「めっちゃジロジロ見るじゃん……。なんだよ?」

「いや、なんでもない……」


鹿野が何か言いたげな目を向けるが、それを言おうか黙ろうか葛藤している。

自分で拳を作り、自分の頬を殴っていた。


「何やってんのお前?」

「黙ってようという結論が出ただけ」

「は?答えになってねーよ」


自分を殴る意味が『黙ってよう』は本気で意味がわからなかった。


「だぁかぁらぁ!島咲に手を差し出す勇気がなかった自分への罰ってことだよ」

「そう……」


なんとなく、鹿野という人物像が理解出来た気がした。

責任感が強いけど、力が追い付いてないという印象が残る。

嫌いじゃない性格である。

原作キャラクターではない鹿野だけど、面白い人物である。


そんな評価を下していると、廊下から自分の教室に戻ってきた竹本とバッチリ目が合った。

彼は顔を青くしながら猛ダッシュをして、鹿野の席の前に立つ。

動きが俊敏だ……。


「あ、明智さん!鹿野さん!な、何か僕にご用っすか!?」

「なんもねーよ」


鹿野にすら用事もなく、ただお喋りに付き合っていただけなのに、竹本に用事なんかもっとない。

本当であれば同じクラスの十文字タケルと2人ドッジボールの決着を付けたいくらいに貴重な昼休みを雑談に付き合うのはもったいないと思う。




『おい、見ろよ!ガキ大将の竹本がペコペコしてるぞ!』

『あの中学生の野球部を血祭りにして病院送りにしたあの竹本より強いのか……?』

『そういや、こないだ島咲虐めてた竹本を泣かせてた奴じゃね!?』

『学校中の生徒を恐喝しているやべぇ竹本が改心したのか!?』

『い、言われてみれば鹿野の隣に座ってる人目付きこわぁ』

『えー?格好良くて素敵じゃなーい?』


小さくなった竹本が現れると、教室中がざわざわし出す。

あれ?

なんで急に俺たちに注目浴びてるんだ?


「……なんも用事無かったけど、お前まだ暴力とか虐めとかしてんの?」

「い、いえ!してないですよ!あ、明智さんの説得で僕は改心したんです!竹本改心を社会の教科書に書き込んでくださいよ!」

「竹本改心の変」

「ちょっと鹿野さん!?本能寺の変みたいな表現やめてくださいよ!」


なんか竹本の奴、調子に乗ってる感じするんだよな……。

基本は誰とでも仲良くなりたいけど、仲良くなりたくない人というのもいるのである。


「へへ……。そんなわけなんで明智さん。僕は一切これから虐めはやりませんと誓いますよ!」

「俺じゃなくて虐めてた奴全員に頭下げて来いよ。別に俺、竹本からなんの被害も受けてないし」

「そんな!突き放さないでくださいよぉ!」


だりぃ……。

マジで竹本面倒だぁ……、と心で愚痴った時であった。

閉まっていた教室のドアがピッシャともの凄い勢いで開け放たれる。

全員がそちらに視線を送ると、鹿野のクラスの担任の先生が真剣な顔で現れた。

やべっ、昼休み終了の時間かを時計で確認するがまだ10分は余裕がある。

どうしたのだろうか?





「竹本!?竹本はいるかっ!?」

「は、はい!先生!俺っす」

「来い竹本!お前に警察が来てるんだよ!先生はこれから竹本と警察と大事な話があるから自習だ!さぁ、来い竹本!」

「な、なんで警察が俺んとこ来るんすか!?」

「お前が怪我させた中学生は後遺症が残り、訴えたんだよ!ほら、責任から逃げるな!」

「そ、そんなぁぁぁ!?」


クラス中が白い目で竹本を見送った。

鹿野も「えぇ……」とドン引きしている。


俺に謝ったところで罪は失くならないのだ。



こうして、島咲碧を虐めていた男は、親が支払うことになった賠償金が凄い額らしく引っ越しをすることになり、この学校から竹本という男の名前は消えたのであった……。

11歳という年齢的に少年院に入る可能性は低いと思われるが、竹本がどうなったのか俺の知る由はなかった……。








─────








「そういや色々あった小学生時代だけど、竹本って結局どうなったん?」

「あいつ、結局中学生になっても事件起こして少年院に入ったって噂」

「…………」


救いようがない話である。


「今は島咲さんと同じクラスになったわけだろ?付き合ったりしねぇの?」

「ないない。俺はいつまでも初恋を引っ張らないのよ。わかる?初恋は引きずらないタイプなのぉ!引きずらないの!」

「そ、そうか。引きずらないか……。でも島咲さん、小学生よりもっとモテる容姿になったよなー」


広末が嫉妬するレベルだからな。






「そうなんだよぉぉぉぉっ!めっちゃ好きだけど、やっぱり俺を異性として認識されてない……。泣ける……、死にたい……」

「やっぱり初恋引きずってんじゃねぇか」


男の初恋なんて女々しいものである。

俺も鹿野も変わらなかった。

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