22、ミドリ

「学園長の許可が降りたので、次走りましょう」と体育委員の人からようやく準備が終わったことを告げられる。

最初に走り幅飛びをしていた白田が50メートル走も終わらせたという完全に周回遅れが発生してしまった俺たち4人である。


「ではいきまーす!」


俺の右にタケル。

俺の左に山本、山本の左にターザンというど真ん中の位置を取り全員火花をバチバチに燃やしていた。


「位置について!……よーい、スタート!」


体育委員が旗を下ろした瞬間だった。

全員がグランドを駆け抜ける。


「は、はえぇぇぇ!」

「なんだよあのエグいスピード!?」

「全員ギフト使ってないんだよな!?早すぎんだろ!?」

「明智の走り、気持ちよすぎだろ!」


死ぬほど足を上げながら走り抜く。

横を振り替えるものなら抜かされるんじゃないかってくらいターザンと山本の殺気が強い。

中学時代なら負けていただろってくらい、コンディションに左右されるくらいにギリギリだ。


「明智5秒60、山本6秒05、ターザン6秒11、十文字6秒20」

「うぉぉぉ、みんなはえぇぇぇ!」

「みんな頑張ったぁぁぁぁ!」

「熱い戦いに拍手喝采!」


本気でこんなに走った……。

基本的に走るのはそんなに好きじゃないのだが、悠久の脅迫バフのおかげでなんか自己最速を記録をだした。

6秒切ったの初めてなんだけど。


「…………あれ?明智、もしかして世界記録並みないですかね?マッスルな私ですら驚愕してるんですが……」

「彼の弟子なら当然の結果ですね!グッジョブです、明智君。そして、儲けが出ました」


マッスル先生と悠久も惜しみない拍手をくれた。

記録達成の報告を聞きながら前世よりも体力が上がった気がする……。









─────






大騒ぎな体育を終えて、制服に着替えて、昼休みになる。

熱くなった額に付いた汗を新品のようになったハンカチで拭いていた。

使い心地も良いし、良い匂いするし、なんかここまでハンカチに手入れしてもらうと遠慮してしまう。

島咲さん、良い人!


今日の昼飯のコッペパンをかじり、すぐに食べ終える。

ふぅ……、体育の後はこれだけじゃ足んないぜ。


ペットボトルに入った味のしない炭酸水を飲みながら、腹を膨らませる。

良い具合に満腹になった気がする。


「くっそぉぉぉ!明智に負けたぁぁぁぁ!」

「ターザンが惨敗したァァァァァ!」

「みんなに負けたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


クラスでは山本、ターザン、タケルの敗者が机に突っ伏して叫んでいたのであった。

優越感に浸るよりも、なんかごめんという謝罪の気持ちが大きく罪悪感が凄かった。


「…………」


俺含め、クラスの視線を集めているので今日の昼休みは教室ではなく、外で時間を潰そう。

どうしようかな?

違うクラスになったことで不足した永遠ちゃん成分を摂取しに彼女のクラスにでも遊びに行こうかな?

でも、違うクラスの円とも理沙とも三島とも美月とも美鈴ともゆりかとも咲夜とも会いたい!

学年が違う星子とも和にも会いたい!

学校が違う楓さんにも会いたい!


「…………」


駄目だ……。

誰かを嫌いになるより、みんなが大好きになるペースの方が早くなりつつある。

こうなったら国に反逆して『多重婚』を認めさせる法律を作らせるしかないだろうか……。

みんなに迷惑をかけると悪いから、仮面を被ってテロリストになるのが次の進路になるかもしれない。


誰か彼女を捨てるくらいなら『コードギフト反逆の秀頼』の計画を練るのも、1つの手段かもしれない。

すると少しでも戦力が欲しいし、エニアと和解して、達裄さんを巻き込めばジャパンの法律1つくらいなら変えられるかもしれない。


将来の構想を考えながら、とりあえず目を瞑って誰のクラスに行くかランダムにしようとした時であった。


「あ!秀頼ちゃんだ!秀頼ちゃぁぁぁん!」

「あ、ミドリちゃん」


島咲碧の妹のエメラルドグリーンの結った髪がバチャバチャと暴れるくらいに元気なミドリちゃんと出会うのであった。

残念ながら、永遠ちゃんや円たちとランダムに会いに行くサプライズはまた明日以降に持ち越しになる。


「お姉ちゃんが喜んでいました!ハンカチ貸してくれてありがとうね、秀頼ちゃん!」

「うん。こっちこそハンカチを洗濯してくれてありがとう。柔軟剤のおかげで新品みたいになって帰ってきたしこっちが感謝だよ」

「土日にたくさんデパートとかモールとか6軒くらい探しまわったよ!」

「そ、そんなに!?」


そんなに人気の高級柔軟剤だったのかと思うと、ガチで申し訳ない。

島咲さんの心遣いに頭が上がらない。


「でも、お姉ちゃん嬉しそうにしてたし見ているこっちも嬉しくなるよ!」

「そう。なら良かったよ。姉思いなんだね」

「うん!お姉ちゃんのおかげでミドリは今こうやって自由に動けるわけだからね!ジャンプ!ジャーンプ!」


制服姿のまま跳び跳ねるミドリちゃん。

彼女がこんなに身体を動かせて喜んでいるのにも、理由を知っている側から考えると、胸が苦しいところがある。


「こないだの金曜日、同じクラスの木瀬さんにミドリも謝ってもらえたよ!」


木瀬……?

あぁ、広末のことか。

全然木瀬って名字が頭に入らなくてわからなくなる。


「そっか」

「秀頼ちゃんのおかげだね!」

「別に何もしてないよ。広す…………、木瀬さんの恋愛相談しただけだし」

「恋愛相談……。ミドリは秀頼ちゃんが好きぃ!大好きぃぃ!」

「そっか、そっか。ありがとうねミドリちゃん」

「あー!軽く流すぅ!不本意だよ。誠に遺憾であります!」


ミドリちゃんがプリプリと頬を膨らませて拗ねている。

うんうん、ミドリちゃんは可愛いね。


「そうだ。最近はギフトどうだい?今もギフト使っているんでしょ」

「どうとは?」

「うーん、なんて説明しよ……。じゃあ、ギフトが発動している時ってミドリちゃんはどんな感じ?」

「全然わかんないかな……?自然な感じ。違和感とか、ギフト使ってる感じは一切ないよ!」

「珍しいギフトだね」


実際ギフトの能力も珍しい。

本人に自覚がないのは、三島遥香に近い……のかな?


『エナジードレイン』と違い、危険度はそんなに高いギフトではないんだけど……。

でも本人は既に幸せそうである。


「じゃあね、秀頼ちゃん!またお姉ちゃんに構ってあげてね!こないだから『会いたい会いたい』ってよく呟いているから」

「うん、会ったらまた絡んでみるよ」


ミドリちゃんが手を振りながら廊下の奥へ消えていく。

性格は全然似てない姉妹だなぁと幼いミドリちゃんを見送る。










「お?どうしたマイフレンド秀頼?島咲妹と会話終わったか?」

「盗み聞きなんて趣味が悪いじゃねぇか」

「かかか!いつもいつも面倒ごとを押し掛ける明智に対してのささやかな報復ってやつよ」

「あっそ」


ミドリちゃんとの会話が終わるのを見計るように鹿野が後ろから現れる。

俺と彼の出会い自体が、島咲碧がきっかけなので、彼も思うところがあるのだろうか。

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