23、明智秀頼は思い出す

鹿野と出会ったのは確か……、小学5年生だっただろうか。

俺はその辺りの記憶を思い返してみることにする。







─────




【小学5年生秀頼】







「秀頼君!秀頼くん!秀頼きゅぅぅん!」

「どうした絵美?俺は3人も存在しないぞ?」

「知ってるー!」

「それとも自分に似ている人が世界には3人いるという。まさか、その2人がすぐ近くに!?」

「違うー!」


2度目のクラス替え。

また絵美と違うクラスになった。

最近、何に焦っているのか、2人きりになるとよく話しかけてくる。


「見て!見て!ほら、わたし見て何か思うところあるでしょ!?」

「あぁ、髪留め新しいのに変えた?」

「変えたー!けど、それじゃない!ほら、ほーら!」


ピラピラとスカートを手に持ち揺らす。

何故か絵美はスカートに視線を持っていかせたいらしい。

手品やマジック、イカサマなど前世でのカードゲーム最強の名を欲しいままにした俺が、この絵美の奇妙な姿を見るとスカートに注目させておきながら何か準備をしているのではないかと勘ぐってしまう。

実際マジックでは、相手に不都合な物事を隠したい場合には、気を引かせる動きをすることで認識させないというテクニックがある。


絵美のスカートに注目させておきながら、違うことをしているのではないかと警戒するが、あえてその彼女の目論見に乗ろうではないか。

ジロジロジロジロスカートを見ようではないか。


「…………」

「どう?わかった?」


スカートを揺らす絵美が『わかった?』と聞くものだから、本当にマジックでも始まったのではないかと顔が強ばる。

それでも尚、揺れるスカートを一点に見続けた。


「…………」


可愛らしいおニューな絵美のスカートである。

さぞや、その中身はもっと可愛いのだろう。

スカートを見ながら、何をわかって欲しいのか考える。

決してパンチラを期待してスカートを見続けているわけではない。

俺はアクシデントを期待しているだけである。


「もう!わかんないの!?」

「!?」


絵美がスカートから手を離す。

待て!?

まだアクシデントが始まってない!

『間違って強くスカートが揺れちゃった!』のアクシデントがない!


くっ……、主人公のタケルになら起こりそうなラッキースケベも、悪役親友の秀頼には起こり得ないということか……。

運命に嫌われた男ということか……。


「絵美のスカートが新しいのに変わった……しかわかんなかった……」

「…………」


絵美がプルプルと身体を震わせている。

な、なんか地雷を踏んでしまっただろうか……?


「流石秀頼君だね!髪留めもスカートもちゃんと気付くなんてやっぱり秀頼君はわたしのことなんでもわかるね!」

「う、うん」


あ、そんなことで良かったのか。

最近、雰囲気が大人っぽくなってきた絵美だから一目でわかる。


「恥ずかしいのよ、あんた達」

「あ、津軽」


見下したような、引いたような目を向ける彼女は、ちょっとげんなりしている。


「ただのコミュニケーションってやつだよ」

「あっそ。……関係ないけど急に『コミュニケーション』とかいう単語が出て驚いたわ」

「じゃあ横文字NGだね」


相変わらず突然横文字が苦手なところは面白い。

…………前世のあの人も横文字が苦手だったけど、そんな人はたくさんいるな。


その日は、普通の朝だったことを覚えている。

3人並んで通学から廊下を歩いていた。

その廊下を歩いていた時だった。


「…………」


下を向きながら、誰とも視線を合わせないように歩みを進める女の子が目に入る。

あぁ、この人から逃げる感じ……。

虐めってやつだな。

前世の過去を思いだしながら、怒りが込み上げてくる。


……にしても、なんか見覚えがあるような……。

ゲームのヒロインか?

なんとなく島咲碧とかの名前だったヒロインのような面影がある。


十文字タケルと同じ小学校のヒロインは理沙だけの筈だ。

足を止めながら前世の知識を思い出しながら、深い思考の海に落ちる。


「…………」

「…………ねぇ、円。秀頼君、もしかしてさっき通りかかった女の子に一目惚れしたかな?」

「明智君なんか知らないわよ。そういう時は明智君をビックリさせてやりましょう!」

「ビックリ?」

「明智君に抱き付いて、胸を当ててみなさい」

「うん!」


わかんねぇ……。

小学校のタケルと島咲碧の接点の設定とか聞いたことねーよ……。

調査するしかないか?


自分の学校に誰がいるかとかなんか把握してねーし……。

もし、島咲碧や俺の把握してないヒロインがこの小学校に在籍していたら、中学と高校に進学したら全校生徒の名前を把握しておくようにしておかないとな……。


「わっ!?秀頼君足が滑ったよー!あー、転んじゃうよー!抱き付いちゃったらごめんねー!」

「ん?」


やたら余裕のありそうな説明口調の絵美が全身を使って俺に抱き付いてくる。

ボスっ、と音を立てて左腕に絵美がくっついた。


……………………スン。


小学生女子に抱き付かれてもな……。

スタヴァとか、車屋の受け付けとか、ケータイ屋の受け付けとかのもっと年上巨乳の姉ちゃんとか、来栖さんとかならドキドキしているだろうけど……。

原作みたいに高校生になった絵美が抱き付いてきたならドキドキするのかな?


残念ながら、中身は25前後の俺。

小学生女子に欲情するほど歪んだ恋愛観は持っていない。


「大丈夫か?怪我ないか?」

「う、うん」

「絵美に怪我なくて良かったよ。安心した」

「あ、ありがとう」


でも絵美は大事な友達だからな。

恋愛相手としては見れないけど、末永い縁にはしたいなと思う。






──こうして、島咲碧が学校にいるのでは?という疑念を抱き、その日の午後に自分のクラスを1つ1つ見回ることになる。

絵美、理沙、円のクラスにそんな子がいるのを聞いたことがないので、そこを外しながら知らないクラスを覗き見ていくことにした。


そして、7組という一切俺と絡みがないクラスで虐めをしている姿を確認してしまう。

青い髪の女の子を見て、島咲碧と断定する。

『竹本』という、色んなクラスの乱暴者という噂のブタゴリラみたいな奴が主犯なのを目撃する。


「部長みたいなタイプか。はぁ、嫌だねぇ」


死んでも仲良くなれないタイプって奴である。


「嫌だよなぁ、このクラス」

「あ?」

「あのゴリラ見てそう思ったんだろ?同意見って奴よ」

「…………誰だよお前?」

「鹿野だよ。鹿野」

「へぇ」

「いや、お前も名乗って!?」


こうして、島咲碧とブタゴリラと同じクラスであった鹿野と知り合うのであった……。

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