16、深森美鈴は距離を縮めたい
「秀頼様と違うクラス……。まさかこんな事態になるなんて……」
「もう今更だろう?わたくしなんか去年も秀頼と違うクラスなんだぞ」
美鈴はぶつぶつと不満を垂れ流しにしながら、姉の美月と歩いていた。
仲良し双子姉妹は、よくこうやって街を歩くことが多い。
「これは、来ますわ……倦怠期!」
「ケンタッッキィー?」
「花より団子ですね、お姉様……」
「な、なんで姉をそんな諦めた目で見るのだ!?」
(自分の姉ってこんなにポンコツだっけ?)と、美鈴はちょっと不安になってきているのであった。
仲が悪かった時は優秀で嫌味なところしか視界に入らなかったのだなと、姉を可愛く感じていた。
「倦怠期ですわ、け・ん・た・い・き!」
「由々しき事態だな」
「ケンタッッキィーと間違った後でシリアス顔しても遅いですわよ」
美鈴は既に両親に対し『秀頼様が婚約者ですわ!』と宣言していた。
そう言った手前、『倦怠期になりました』とは口が避けても言えない美鈴であった。
因みに、秀頼本人は一切知らない話である。
美月の婚約者も秀頼だと話した時には、父親の血管が壊れるんじゃないかってくらいに青筋が浮かび出ていた。
『美鈴の紋章を消してくれたことには感謝するが、それとこれとは別。今度、私のところへそのバカ男を連れて来なさい』とぶちギレの一言を2人に口にしていた。
当然、秀頼本人は一切合切知らない話である。
美鈴は『秀頼様をお父様にご紹介しますわ!』とバチバチに火花を散らしていた。
ほぼ捨てられていたも同然だった美鈴のささやかな復讐劇が始まっていた。
美月は2人の板挟みに、胃がキリキリしていた。
「秀頼様をあと2年弱で完全に落とさないといけないんですのよ!このままでは……、このままでは絵美や円に負けてしまいますわ!」
「しかも特に仲良しな2人が同じクラスというのも不公平感が強い」
「この世界に神がいるなら性格が悪い奴だと思いますわ」
多分この話を本物の神が盗み聞きをしていたなら『クハッ!』と笑っていただろう。
「どうにか……、どうにか秀頼様を美鈴のお婿様にしたい!もっともっと距離を縮めたい!」
「わたくしも一応ライバルなんだがな……」
「どうにかならないでしょうかね……」
2人がトボトボと道を歩いていた。
普通の彼氏彼女の付き合いをしていないので、変に焦る。
この秀頼が不在な瞬間ですら、誰かが抜け駆けしている可能性も否定できないのだから。
「恋愛の神様とか居ないかなぁ……。占い師とかに見てもらいたいですわね」
「あ、見ろ美鈴。なんかちょうどそこに占いしてる店があるぞ」
「え?こんな何もない道に占い師いるんですか?」
「『暗黒真珠佐山』だと。ほら、小さく『占いしてます』って書いてる」
「宝石商の間違いでは?」
2人の姉妹は偶然目に入った古い家っぽい店に駆け寄る。
『学割あり!』だの『ペイペイペイ使えます』など、商売をしているらしいのは伝わってくる。
「…………レビュー見ましょ、レビュー」
「星3.6だ。公式サイトもあるぞ」
「サイトがオシャレ過ぎて実物とのギャップが凄いですわ!」
「どうする美鈴?」
「よし、秀頼様との仲を占ってもらいますわ!」
「本気か美鈴!?」
『暗黒真珠佐山』の店に入ろうとした美鈴の肩を美月が掴む。
そうされると美鈴の意気込みが100くらいあった気持ちが、27程度まで減少する。
「こんなの怪しいぞ!ぼったくり占い師という可能性もあるぞ」
「た、確かにぼったくりしてそうな店ですわね」
明らかに占いなんかしてなさそうな店構えを見て、美鈴の気持ちも萎えてきた。
どうしてこの店に入ろうかと思ってしまったのだろうと後悔までしてくる。
「帰るか」と美月が声をかけた瞬間であった。
ベルの音とともに、誰かが店の中から退出するところなのか、出入口が開く。
「ふんふんふーん。るんるーん」
「あ、ノアさん……」
「めっちゃご機嫌ですわ」
「はっ!?美月ちゃんに美鈴ちゃん!?」
「何か鼻歌を歌っていましたね?」
「あらあら、ノアさんに春が来ちゃいました?」
「ちがっ、違うよぉ!フリー、フリー!全然フリーだから!」
いつかの廃墟で一緒になったノアとバッタリ再会した3人である。
そして、美鈴は彼女の変化に目ざとく気付く。
「オシャレなネックレスを付けてますわね」
「あ?わかる?幸せになれるネックレスを3万円で売ってもらったんだー。へへへっ、良いでしょ!」
「幸せになれるネックレス?」
「なんか、イギリスのなんちゃら女王が付けていたらしくて持ち主を幸せにする効果があるんだって。凄いね!」
「イギリスのなんちゃら女王?」
美月が怪訝そうな顔を浮かべる。
なんだその吟い文句は?と売る気があるのかとすら思ってしまう。
「凄いですわねノアさん!」
「え?」
美鈴がその話に滅茶苦茶食い付いた。
ノアも「えっへん」と満更でもない様子である。
「アドバイス通り、ガチャ3連まわしたら全部SSR出たよ」
「すごぉっ!?」
「え、えすえすあーる?」
美鈴に凄さは伝わっても美月には全然凄さは伝わっていない。
それを察したノアは『イケメン戦国』というソシャゲの画面を2人に見せてくる。
「さっそく、今からガチャしてみようと思います」
「確か、ガチャ1回200円くらいのゲームですわね。円や咲夜、遥香、楓さんがはまってるやつ」
「そ、そうなのか……」
美月はソシャゲ知識ゼロなので、なんとなくで話を合わせていた。
「では1回のガチャ回します。ポチッ!」
「あ!演出来てますよ!?これ星4以上確定じゃないですか!」
「演出?確定?パチンコみたいだな……」
「なんでパチンコはわかるの?」
「聞いたことあるだけだっ!」
ノアに美月が突っ込んでいると、ノアのスマホからボイスが流れる。
『俺の女になれ……、千姫』
「あ、豊臣秀頼来た!嘘ッ、マジッ!?私の推し来たぁぁぁ!」
「なんか秀頼様似で格好良いキャラですわね」
「こういう俺様な秀頼……、良いな」
「別にこのキャラ、あんたらの彼氏関係ないからね!?」
円たちが『めっちゃ欲しい』と騒いでいたキャラクターがこの豊臣秀頼だなとすぐに察してしまったのである。
「これも幸せになれるネックレスのおかげだね。何かに悩んでいたらサーヤに相談してみると良いよ」
「サーヤ?」
「佐山を略してサーヤ」
「全然略されてないじゃないか」
「気持ちの問題!じゃあ、私これからバイトだからまたねー」
そう言いながら満足したほくほく顔でノアは南の方向へ歩いていく。
知人の幸せな姿を見ると『効果あるのでは?』と変な気持ちが沸く2人。
美鈴が期待した顔で、『暗黒真珠佐山』の入り口を開く。
「あら、よく来たわね愚民が」
「帰りましょうお姉様」
「あぁ」
「待ってぇぇぇぇ!冗談!冗談だよぉぉ!サーヤジョーク!」
せっかく入店したのに2秒で帰りそうになった姉妹をサーヤが引き留めたのであった。
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