17、深森美月は揉まれる
「なんなんですのあなた!?」
「あら?天才占い師サーヤをご存知ではないこと?」
全く知らない深森姉妹であった……。
「遠野川江なら知ってるが……」
「マジもんの有名占い師と比べるんじゃないでしょ!あんたが野球プレイヤーだったとして、世界の大谷と比べられたらイラっとするでしょ!?」
「す、すいません……」
「世界の大谷より投げれないし、走れないし、打てないあんたはゴミとか言われたらムッカーってなるでしょ!?」
「そこまでは言ってない。だが、本当にすいません」
美月が平謝りをする。
サーヤもキレているわけではなく、これでも優しくレクチャーをしているつもりなのだが、表現が下手なだけである。
「とりあえず占って欲しいのですわ。さっきのノアさんみたいにわたくしたちを満足させて欲しいです」
「え?ノアと知り合い?」
「客を呼び捨てで良いのか、この店?」
「か、彼女は妾の大学の友達だから……」
「そうなんですね」
ノアも友達に会ってちょっとテンションが上がっていたのかもしれないと、店を出た時の彼女の姿を思い出す。
美鈴が「前にノアさん、小鳥さん、楓さんと知り合いました」と答えたら「すげぇ!」とサーヤが驚愕の声を上げていた。
「とりあえずわかりました。ぐ……2人を占いましょう」
「次愚民って呼んだら帰りますわよ」
サーヤのポンコツさは咲夜やゆりかで見慣れていた2人であった。
「そ、それでだな……。れ、恋愛占いをして欲しいです」
「お?やっちゃう?やっちゃう?」
「やっちゃいましょう!」
「お互いに好きな人が居たり?」
「美鈴には婚約者が居ますわ」
「わ、わたくしにも婚約者みたいな……。て、照れるな……」
「お、乙女ぇぇ!恋してる楓や千夏みたいな顔してる!」
「片方誰?」
サーヤは現在進行形で恋愛をしている親友2人を思いだしながら、占い師モードから女子モードに切り替わっていた。
因みに、当然ながらサーヤは姉妹の婚約者が同じという発想はなく、ましてや知り合いである秀頼が婚約者を差しているとは微塵も考えていなかった。
「それでは、この紙に名前と生年月日、血液型を記入してください。当然、これらの情報はプライバシーなので、悪用することは絶対にないので安心してくださいまし」
「……振り?」
「妾は絶対悪用しないからぁ!誓う、誓う、誓うっ!」
申し訳ない涙目と涙声の接客に、深森姉妹は圧倒されてしまい、自分の名前から順番に記入していく。
1分後には書き終わったのか、ほぼ同時に記入用紙を返された。
「深森美月……、深森美鈴……。あら、同じ誕生日に同じ血液型じゃない。もしかして双子?」
「そうですね」
「そう言われると似てるわねあなたたち」
「自慢のお姉様ですわ!」
「美鈴……。この通り、自慢の妹なんだっ!」
「あぁ、はい。シスコンってやつですね」
「ふふっ」
「ふふーん」
「なんで嬉しそう?」
ドヤ顔でシスコンを受け入れる。
秀頼と同じシスコン呼ばわりが、お揃いで誇らしく思えたのである。
サーヤは困惑しながら、自分の髪型であるドリルを弄りながら心を落ち着かせる。
「それでは手相を見せてください。えっと……、姉の美月さんから行きましょう」
「よ、よろしくお願いします。掌をじっと見られるのも……な、なんか照れるな……」
サーヤがじっとその手相を見る。
そして、「むむっ」と言いながら手を揉み始める。
「ほどほどに鍛えていますね。もう少し鍛えればアスリート系狙える筋肉ですわね!」
「え?」
「しゅっと引き締まり、こうシリコンみたいな弾力性がある……。良い筋肉だわぁ」
「…………」
「あらあらぁ?中々触りがいのある腕で良いわね!」
「もう手相見てないじゃないか!」
「はっ!?」
手の上の腕にまで、揉まれた美月が突っ込みを入れている。
「ごめんなさい」と謝り、次に美鈴の手相観察に移る。
「へぇ……、奇特な運命ですね。ありがとうございます。下ろしてください」
「あ、美鈴の筋肉には興味ないですのね……」
「そ、そんなことはありません!ま、真面目に仕事してるだけです」
実際、美鈴の筋肉は一般女性と大差なく、惹かれる要素がないのも事実である。
サーヤが分厚い本を読みながら、「そんなこともあるのねぇ……」と感心していた。
「何が奇特な運命なんですか?」
「美月さんの手相のこれと、美鈴さんの手相のここ。この手相同士の相性は実はあんまりよく無いのよね……」
「そ、そうなんですか?」
真面目な顔をして、2人にわかるように手相の線を解説していくサーヤ。
「出会ってすぐは仲良しなんだけど、美月さんのこの線が入り組んでいるのが原因で仲は凄く拗れる運命にあるわ。というか、実際最近まで仲が良くなかったのでは?」
「え……?」
「ひ、否定出来ませんわ……」
美鈴が非を認めるように頷く。
「それからは低下の一途。同じ人を好きになり破滅するんじゃないかしら」
「…………」
「そんな……」
「そのはずなんだけど、今のあなたたちを見るとそれを乗り越えた強い絆があるように感じられます。まぁ、あり得たかもしれない未来ですね。運命を壊すような良い出会いがあったのかもしれません」
「運命を壊すような出会い……」
口に出すと恥ずかしいけど、しっくり来る。
そんなむず痒い表現に、美鈴は照れくさく頬をかく。
「実際、双子だからなのか同じ人を好きになる傾向が高いですね」
「え、えっと……」
「あ、図星?……これは凄いわね。マイナスな陰の力が完全に反転していて陽の気がドバドバよ。誰かが決められた運命をねじ曲げたように不可能な未来をあなたたちに創りあげたんじゃない?ってくらいの神に抗う力があるわね」
サーヤはそう締めくくる。
「おめでとう、あなたたちは幸せですね」と姉妹を祝福したように言う。
美月と美鈴は顔を見合わせて、頬が赤く染まる。
お互い気持ちは同じ。
──嬉しさを共有していた。
(すっげぇ、盛っちゃった……)
サーヤの告げた事実は大体本当であるが、『運命を壊すような良い出会い』だの『神に抗う力』だの恥ずかしい厨二発言をしちゃったと心の中で恥ずかしくなった。
実際サーヤは占い師モードになると、盛り盛りに盛りまくる商売上手である。
(だ、大丈夫!平常心、平常心)
知り合いに見られたら笑われそうな盛り具合を真実にするために真顔を崩さないのであった。
†
Q.千夏って誰?
A.あの子の名前
第15章 初デートはホラーゲーム
8、サーヤはお人好し
こちらで名前が明かされています。
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