番外編、一緒に
「正当防衛になりおめでとう。完全釈放だよ、上松ゆりか君」
しばらく牢屋に入っていたが、男の頭がイカれていた証拠や、私と優希を誘拐しようとしていた証言なども得られて、解放されたところへ1人の男が現れた。
彼は自分を瀧口と名乗った。
「ありがとうございます……」
「君はギフトについてどう思うかね?」
「醜い力。不要な力……」
ギフトへの憎しみは、牢屋の中で募っていくばかりであった。
私がギフトを持ったとわかった瞬間から、被害者の私まで加害者のような目で見られたのだから。
良い印象など抱くはずもない。
「ならば、私のところへ来ないか?ギフトによる事件の被害者を集めて保護をしているのだよ」
「……ギフト事件の被害者」
「より良い世界に創り変えるためにも、誰かが立ち上がらないといけない。ゆりか君、君の弟のような犠牲者を出さないためにも、君のような痛みがわかる者が我々には必要なのだ。どうかね、一緒に来ないかね?君と年齢が近い人も少ないながら揃っているよ」
そう言いながら資料もたくさん渡される。
ギフト事件の被害者が生活していくための保護、施設など子供だけではどうにも出来ないことが保証されているらしかった。
優希が居ない。
もう、既に心が耐えられなかった。
だから、何かに縋りたい……。
「よろしくお願いいたします」
「歓迎するよ、上松ゆりか君」
瀧口という男はにこやかに嗤う。
なんの利益もなく、自分をこんなことに誘うわけがない。
それがわかっていて、私は自分でそれを受けた。
瀧口についてきて、自分が求められた理由がすぐにわかった。
ギフト狩りとして、時には危険なギフト所持者を無力化する行為をしているらしい。
「少しでも、自分が力になれるなら……」
優希のような被害者が居なくなれば、みんな救われる。
そんな世界に憧れた。
『優希はどんな強い人になりたいんだ?』
『忍者みたいになりたい!』
いつかの言葉がまだ残っている。
ならば、私は女を捨てて、優希が憧れた強い人を目指そう。
「忍者というと一人称は我か?……ふふっ。自分が自分じゃなくなった気分だ」
優希の意思を継いで、優希を守れなかった自分を捨てて我は忍になろう。
だから、死にもの狂いで走り込み、体力を付けて、ギフトの正しい使い方を学んだ。
学校にも通わず、ひたすら修行修行修行の日々。
これが、自分の正義のためだと信じて──。
「ぎゃはははははは!お前はゴミなんだよ!ほらほらほら、偽善的な正義を貫いた結果がコレなんだよ、バァァカ!」
「おえっ……。おえっ」
「俺はいくらでもお前の尊厳を破壊してやる」
ギフトで被害を出さないように鍛えた我は、優希を殺害した男よりも異常で、傲慢な男に返り討ちにされていた。
抗えない。
その力で誰も不幸にさせたくないだけだったのに、結局は力に淘汰される。
「可愛い弟ちゃんに会えなくて寂しいでちゅねー。会わしてやろうか?会いたいよなぁ?」
「ぐっ……、死ね」
髪を掴まれながら、何から何までギフトで命令されて、ベラベラと動機を吐かされた。
他人の不幸が何が面白いのか?
初対面から明智秀頼のヤバさは伝わっていたが、こんな人の皮を被った悪魔がこないだまで中学生をしていたという事実に震えた。
「【俺を死んじまった自分の弟と認識しろ。俺が可愛い可愛い弟だ】」
「は……?」
幻覚……?
悪魔の姿を優希と重ねてしまう。
「お姉ちゃん?姉ちゃん?姉貴?まぁ、なんでも良いか」
「や、やめろ……。優希の姿で、お前は何をやってる……?」
「ただ、ベルト外してズボン脱いでるだけ。くははっ、最愛な弟に抱かれながら幸せな夢でも見るんだな」
「やめろ……。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ」
「ぶっ壊れろよお姉ちゃん?」
そこからの記憶はない。
ただ、優希の姿をした何かにおぞましいことをされただけ……。
「【認識解除】、どうよ?」
「はぁはぁはぁ……」
「あらあら、疲れ果てちまったか。おい、絵美。お疲れのお客さんだ。キノコ準備しろ」
数時間、我は悪魔の道具にされ、尊厳を破壊されていく。
気付けば川の水で溺れていた。
「………………、……。ダメな姉ちゃんでごめんな優希……」
そのまま、すぅーと意識が途切れた。
─────
「師匠!見て見て!このSASUKENの動画凄いぞ!」
「すげぇ、このステージクリア出来るんだな」
「我もSASUKENに出演して、自分の可能性に挑戦してみたい所存」
「こういうのは見てるのが楽しいんであって、やるのはキツイんじゃないか?ほら、失敗するとこうなるぞ」
運動得意な俳優が、汚い泥水に落ちて『あんなん無理っすよぉ!』とコメントをしていた。
惜しみないナレーターが、彼を褒め称えている。
「我は師匠とならびしゃびしゃになっても良い!一緒に川で泳ごう師匠」
「こらこら、危ないことはダメ!ゆりかも美人なんだからちょっとは大人しくしよ?」
「び、美人だなんて……」
師匠の明智にそう言われると照れくさい。
本当に強くて憧れただけだったのに、こんなに彼を好きになるとは初対面の時には考えられなかった。
「師匠!大好き!」
「俺も……、ゆりかが大好きだよ」
嬉しさが込み上げて、やっぱりいつものように彼に抱き付いていたのであった。
優希。
今度師匠も連れて、墓参りに行くからな。
我の自慢の恋人を連れて──。
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