7、アリア・ファン・レースト

「アリアさん……。彼女が……」


山本の後ろの席に座るヨルが、運命を感じたように呟く。

心臓がバクバクバクと、周囲の席に聞こえるんじゃないかってくらいにうるさく胸で鼓動を打つ。

ヨルが、アリアを知らないはずがないのだ。


「…………タケル」


首にかけている銀のペンダントを大事そうに握るヨル。

大事な、タケルの形見なのだから。

そのタケルに、銀のペンダントを託したのがアリア・ファン・レースト。


彼女の首にも、それがある。

ヨルと同じ、銀色のペンダントが光る。






─────





うわぁ、ガチアリアじゃん!


ふわっとしたような柔らかそうな髪質の金髪。

全てを統べるような、蒼いサファイアのような瞳。

ピシッと整った、あまりにも美しい姿勢。

まだ幼いような童顔。

髪をかきあげる仕草だけでも絵になる。


原作でも、めっちゃ人気ヒロインだからなぁ……。

眼福……。

美で溶ける……。

彼女を神様みたいに思えてきた。


「…………」


あとは胸元に光る銀色。

ヨルが、首にしているペンダントと同じ物。

ただ、明らかに今の状態の方が新しく見えて、より磨かれているようで光が強い気がする。



「…………」


なんかアリア様が、誰か知人と似てる気がしてきた……。

同じ金髪の美月と美鈴か?

いや、どちらかというとアリアの方がクリーム色に近い金髪だ。

どちらかというと……。



──アイリーンなんとかさんに似てる?



あの人の名字なんだっけ?

よく覚えてないや。


「…………」


清楚なアリアと、野蛮そうなアイリーンなんとかさんが似てると思った自分が憎い。

ぐぅっ……。


しかしなぁ……。

もしかしたらアリアがタケルの彼女になるかもしれないのか。

タケアリのカップリングネタが浮かんでくるじゃないか。

リアル本能寺は、そういうの好きよ。


タケルとアリアが付き合うのが楽しみななってくる新学期の始まりである。


「出席番号の席順になっているから、アリアはそこの空いてる前の席、仮面の騎士はそこの後ろの席だ」

「わかりました」

「承知」


担任が仮面の騎士でごり押ししているなら、そういうことなのだろう。

声は中性的な女ということしかわからない、原作屈指の謎キャラクターである。


アリア・ファン・レーストということで、出席番号は2番らしい。

俺の机付近にアリアが近付いた時であった。





「あら、もしかしてあなたが……」

「え?」


アリアが俺を見て驚いたように声をかけて、バッチリと目があう。

な、何がどうしたんだろう?




「ふふっ。明智秀頼さんですよね。よろしくお願いいたします」

「よ、よろしく……」



ど、どうしてアリアが俺の名前を把握しているのかわからない。

ただ、呆然としながら、アリアが横切って自分の席に座る音を聞きながら硬直してしまったのであった。


「…………」


アリアに挨拶をされて、ものすごい視線を感じる。

そちらを振り返ると、仮面の騎士のオペラ座の怪人ファントムのような白くて無機質な仮面がじーっとこちらを見つめていた。


なんで!?

なんで俺はアリアとその従者に目を付けられてるの!?



波乱なセカンドシーズンが起こりそうで、サーヤに占いで厄払いでもしてもらおうかと思うくらいには嫌な予感しかしないのであった。




「はぁ……、早く入学式にならねぇかなぁ……」


午後からは星子と和の晴れ舞台の入学式が待っている。

今日のビッグイベントってやつだ。


悠久へ事前に『入学式に可愛い彼女たちの写真撮影して良い?』って聞いたら、『無理』って一蹴されたので、この目でしっかり焼き付けていきたいよなぁ。



「じゃあ、今年1年を仲良く過ごしていくためのクラスメートの自己紹介をしていきましょう。そうねぇ……出席番号順でやりましょ!じゃあ、明智君!スタンダップ」

「ですよねー」


こうして、俺スタートのヨルゴールの自己紹介が始まったのであった。

無難に行こう、無難に。

『明智でーす、ヨロ』、これくらいで良い。


こういうのは1番最初が3分とかの長い紹介をすると、2番以降もそれに引っ張られて長々とした自己紹介になるのだ。

そんなの眠たくなる。


つまり、俺が3秒くらいの自己紹介をしたら、それが基準になり、40人の平均で10秒以内の自己紹介で終わる計算になる。

完璧な計算だ。

俺は立ち上がりながら、トップバッターの自己紹介をはじめる。


「明智でーす、ヨロ」

『うおおおお!明智先生来たぁぁぁぁ!』

『ほんで、ほんで!明智先生は何カップの女が好き!?』

『頼子ちゃん呼んでよ明智先生!』

『あっけっち!あっけっち!』

『秀頼君素敵ぃぃぃぃぃ!』

『明智先生!カラオケやってカラオケ!』

『すげぇ、決闘を制した男だ……。貫禄が違う……』

『僕、明智先生の大ファンなんです!同じクラスになれて光栄です!』

「…………え?」

「人気者だなー、明智。職員室でもお前人気なんだぞ。じゃあ、明智!どんどん質問答えてやれ」

「え?」


自己紹介を終えたはずなのに、クラスメートは終わったと認識してくれなかったのであった。

しかも、担任からもゴーサインが下されるのであった……。


全員の質問責めから解放されたのは、10分が過ぎた頃であった……。

なんなら、転校生のアリアと仮面の騎士よりも長い自己紹介になったのである。

どうして毎回こうなるんだ……?

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