8、細川星子は緊張する
「にゅ、入学式だ……。緊張するなぁ……」
「何言ってんの、せーちゃん!あんたはこれ以上に緊張することを何回もこなしているでしょ!」
ギフトアカデミーの入学式を控えて、和と星子は雑談をしながら式の開始を待っていた。
親や兄にジロジロ見られるということに、星子はガチガチに固まっていた。
「あれはスタチャであって……、素の私はダメなの……。ギフト使って良いなら緊張せずに入学式をこなせるよ」
スターチャイルドになるとアイドルスイッチが入り、星子の能力値にバフがかかる。
それに星子はスターチャイルドと自分は別人と認識することで、アイドルとして派手に動ける。
そのテンションを、細川星子として爆発させるのは、まだ1度もやったことがないのであった。
「スタチャが入学式に来たら大騒ぎだよ。入学式よりコンサート始まるからね」
「スタチャならこなせるよ」
「じゃあ、細川星子のスタチャカラオケコンサートにしようか」
「無理ぃぃ……」
「あんた、カラオケになるとスタチャ本人の声になるじゃん」
秀頼や理沙らが、泣いて星子を称える会になるのもお約束だ。
「誰もそんなの見ないって……」
「少なくとも秀頼先輩と、西軍グループはみんな応援するよ」
「ありがとうのーちゃん!」
「今日はいつになく喋るわね」
会話が一区切り終えて、周りを見る余裕が出てきた星子。
この2人は同じクラスということで、お互い安心感が生まれていた。
「とりあえず、体育館に行く?」と、和が促すと「そうだね」と雑談していた廊下を動き出す。
「ん?」と、2人が疑問になり、足を止める。
「うっはぁ!来た来た来た!ギフトアカデミー来たぁ!『悲しみの連鎖を断ち切り』の聖地巡礼来たぁぁ!生アリア様とか見てぇ!」
1人の女性新入生が、やたらハイテンションで騒いでいた生徒を、離れた位置から引いた目で和が見ていた。
「な、なんかゴミクズオーラがする……」
「お兄ちゃんとあんな変な人を一緒にしないでっ!」
彼女を見なかったことにして、2人は止めた足を再び動かす。
「そういえば聖地巡礼とかなんか言ってたけど、この学校でなんか撮影してたっけ?」
「なんかの映画のワンシーンで使われたのがあるって咲夜先輩が言ってた気がするよ」
「へぇ、サクパイ詳しいね」
新入生がたくさん集まっている会場にようやくたどり着く。
まだ会場入り出来ないが、その向こうに兄や姉、先輩がいると思うと妙に意識する2人であった。
「…………高校生になったんだね、私たち」
「なったねー」
実感が沸いてきて、高揚してきた2人であった……。
─────
「あなたは、要注意人物なので疑いたくはないですが、スマホで入学式を撮影なんかしないかマークしてます」
「だからしないっての!」
「そもそもそんな許可をもらいに来た生徒が始めてだもの。最近の君は、学園長であり、壮大な私、悠久に舐めた口ききすぎるもの」
「でも保護者は良くて、生徒はダメってのはおかしくないか?」
「お?ロジハラ?」
「生き辛いな、この世の中!正論言うだけでロジハラ扱いかよ!」
山本といい、悠久といいロジハラに敏感らしい。
別にハラスメントなんか何もしてないじゃないか!
クソッ……。
悠久に呼び出されただけで『明智先生が学園長に連れて行かれた』だの、『学園長まで友達かよ、流石明智先生だ!』だの、俺の学校での扱いがドンドン不審者に舵を切りはじめた気がする。
「これだけ言っておくけど、下手な不良よりも、あんた問題児だからね」
「え?マジ?」
「本当」
マジに対し、本当と返す辺り、悠久の育ちの良さが見えた。
「じゃあ、上手な不良よりは問題児じゃないと?」
「上手な不良って何?……確かに下手な優等生よりも優秀ではあるんだけど……。問題児と優等生のサラブレッドってところね」
「悪魔と天使みたいな異名ですね」
「いや、悪魔と死神みたいな」
「マジかよ」
学園長である悠久からそんな認識だったとは……。
「大体、ハーフデッドゲームの時からずっと君をマークしてたの!本当に破天荒ね、君は!」
「ハーフデッドゲームって何ですか?」
達裄さんといい、たまに登場するハーフデッドゲームの単語の意味をイマイチ理解していない。
なんか学校でそんな行事あったっけ?
カレンダーでも後で見返しておこう。
「いやいやいや、ハーフデッドゲームは君が解決した」
「お?居た、秀頼じゃん」
「あ、達裄さん。こんちは」
「な、な、な、な、な……?た、達裄さん!?」
入学式が始まるということで、スーツをびっしりと着込んだ通りすがりのイケメン兄ちゃんが俺と悠久の会話しているところに割り込んできた。
「なんで、達裄さんがここに!?はっ、そういえばわたくしと達裄さんの子供って高校生になるんだっけ!?」
「え?達裄さん、子持ち?」
「んなわけないだろ。俺と悠久の間に子供なんかいないから」
「あっ、今お腹蹴った」
「こんなこと言ってますが?」
「彼女なりのブラックジョークだろ」
「いけずぅぅぅぅ!いけず冷血サディストぉぉぉ!」
いけず冷血サディストぉぉぉ!、な異名を授けられた達裄さん。
その手にはしっかり例の物があった。
「ところで、なんで達裄さんがギフトアカデミーに?もしかしてわたくしに会いたくなっちゃった!?」
「いや、別に……。秀頼に頼まれて星子ちゃんと和ちゃんの入学式のカメラマンしに来た」
「あんたは達裄さんに何を頼んでいるんですか!?そもそも、この人は遊んでいる時間がないくらいに忙しい人なんですよ!?学校の先生の3倍は忙しいんですよ!?」
「え?そうなの?」
365日、常に暇な姿しか見たことなかった……。
「良いんだ、悠久。俺が好きでカメラマンになってんだ。女子高生をたっぷり3時間も拝めるならどんな仕事だって後回しにするよ」
「こんなこと言ってる人ですけど、むしろ先回りして仕事仕上げているんですからね!この人、努力してる姿とか絶対見せないの!」
「あー、はい」
それは知ってる。
この人、ツンデレサディストだから。
それくらい察することが出来るくらいには、達裄さんとの付き合いは長い。
「あぁ、達裄さんが来るなんて知ってたらVIP席用意してたのに……。PTAの席場所移動して、VIP席設置しなきゃ」
「しなくて良いよ。入学式でVIP席座っている保護者見たことねーよ」
達裄さんが悠久を食い止める。
……なんか悠久の恋愛の努力が泣ける。
頑張れよ、学園長……。
悠久の達裄攻略楽しみにしてるからな。
「あ、達裄さんだ!久し振りです!前にコーヒー奢ってもらってありがとうございました」
「本当だ。こないだ直してもらったPCめっちゃ起動早くて最高っす!」
「山本にタケルじゃん。ははっ、お前らが高校生してるとかウケる」
「お願いだから達裄さんを便利屋さんみたいな認識にしないで!本当に、ほんっっとうに忙しい人なんだから!」
山本とタケルに慌てながら頭を下げる悠久。
達裄さん本人はまったく気にしてなさそうに、鼻歌をうたいながらビデオカメラを弄っている。
「なんで学園長キレてるんすか?」
「そりゃあ、アレだよ。ジェラシーってやつじゃね?」
「あー、学園長って達裄さん好きなんだ」
「お暑いっすねぇ」
「もうなんなの、この学校の生徒!?頭おかしいんじゃないの!」
「その頭おかしい生徒のトップはお前なんだぞ」
達裄さんは面白そうに悠久と山本とタケルの3人のやり取りを撮影している。
なんか、ずっと学生みたいなノリの2人を見ながら羨ましく思うのであった。
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