15、三島遥香は託される

にじり寄ってくる甲冑。

窮地に陥る遥香。

先に動いたのは、甲冑の方からであった。


『成敗!』

「う、うわわっ!?」


剣が遥香の首をはねようと剣を振りかぶろうとした時であった。



──無自覚に高濃度な『エナジードレイン』を放っていた。

そのドレイン領域に踏み込んだ甲冑は突然悲鳴をあげだした……。



『ぐっ!?あああぁぁぁぁぁぁ!』

「え?」

『な、何をしたぁぁ!?し、死ぬ!?死んでしまう!?』

「そ、そもそも生きてるの?」

『生きて…………る……。騎士道精神……、無念』


兜のない甲冑はさらさらと灰に変貌していく。

遥香はどうして自分が勝ったのかもよくわからずポカーンとしている。


『入り口のコンクリートも……灰になった…………。騎士道試練……、合格……』

「いや、騎士道試練とか知らないし……」

『これが敗北か……?なんて清々しい……。人々の怨霊は灰になり、散りゆくのみ……』

「甲冑さん……」

怨霊騎士おんりょうナイトだ……。ふっ、我が名を知る者はこの世でお主のみ……。今まで何人殺してきたか……』

「カードゲームのモンスターみたいな名前……」


小学生の時、弟がはまっていたカードゲームみたいなネーミングセンスに、ちょっと笑ってしまう遥香。


(漢字とカタカナが混ざっているのが最高にセンスが小学生並み……)


心では鬼のようにネーミングセンスのダメ出しをしていた。


『それから……』

「死に際脳に語りかけ過ぎない!?どんだけ遺言あるの!?」

『そのエニアの力……、まだまだ荒削りが過ぎる』

「エニア?エニアって何!?」


滅びかけた甲冑の身体が最後の力を振り絞るように指を差す。


『我が力を……騎士道試練に乗っとり与えようぞ。この力……、必ず大事な者を守るべき時に必要になる』

「ねぇ!エニアって何!?エニアが気になって話が入ってこないのっ!」

『必ずお主なら、我の力を使いこなせる……』

「エニアって何!?エニアって…………ん?」


消滅した甲冑の灰が三島遥香を包み、身体に溶け込んでいく。

その瞬間、自身のギフトを操る力に違和感が過った。


「…………え?ボク『エナジードレイン』で甲冑さんを倒しちゃったの!?なんか力託された感があるんだけど意味わかんない……」


遥香は行き止まりになった壁を見上げながら、今までの不可解な出来事を振り返っていた……。







─────







「きゃああ!秀頼君!幽霊いる!幽霊いる!」

「明智君、怖いぃぃ」

「ちょ、ちょっと!?私も怖いんだから私も明智君の近く寄る」

「ね、ねぇ?3人密着して熱くない?」

「全然」

「そ、そうか……」


秀頼は額の汗を気にしながら、片目がない独眼竜女性の霊を見ない振りをしながらホテル内を探索する。

秀頼は『灰になる君へ』本編をプレイ済みなので、幽霊は現れるがラスボスの甲冑以外はほぼ無害なので気にしないようにしていた。

そして、絵美と円と楓に密着され腕の使用が封じられていて汗を拭うことも出来ない。




(秀頼君と合法抱き付き!)

(幽霊に見向きもしない明智君素敵!)

(見た目からは全然わかんないけどめっちゃ筋肉質じゃん……。ワイルドで好み……)



日陰気味でひんやりとした廃墟の中、4人はうっすらと汗をかきながら密着していた。



『バトルロワイアルさえなければ、今頃サーフィン松山木電工は俺のものだったのにぃぃぃ!』

『死にたくない、死にたくない、死にたくない』

『壊れろ…………』


変な幽霊の雑音がいっぱい聞こえる。

霊感がないと思ってた俺ですら、変な幽霊が見えるもん……。


「あっ!見て明智君!火の玉!」

「え?」


騒がしい声が一瞬で止み、円の指摘に3人が左側へ顔を向ける。

そこには確かに光が見える……。

が。


「あれ、火の玉じゃないよ。ライトの光でよ……」

「津軽さんおっちょこちょいですね……」


絵美と楓に苦笑されて、かーっと円が赤面をする。


「あけちくぅぅぅん!」

「大丈夫だよ。俺は攻めないよ。円の天然なところはずっと大好きだよ。泣かない泣かない」

「私もずっと好き……」


苦笑したコンビがスンとした目で円を見ていた。

しかし、周りは暗いので秀頼も円もそういう目で見られていたことには一切気付いてなかった。



「あっ!なんかライトがピカピカ光って点灯するを繰り返しています」

「こっちの懐中電灯の光に気付いたわね。なるほど、モールス信号ってわけね。メッセージを伝えてきている」


楓の自信満々な推理に絵美が「そうか!」と納得し、尊敬の眼差しで彼女を見ていた。

確かにドラマや映画で、モールス信号を使う場面があるのと状況が一致している。


「意味はわかるんですか楓さん!?」

「いえ、まったく」

「えー……、そこ大事なところでしょ……」

「ろ・く・に・ん・い・る・よ、ってメッセージ送ってる」

「ここに解読している人いるんだけど……」

「えっと俺もメッセージ送るか。貸してください楓さん」


よ・に・ん・い・る・よとチカチカしながら秀頼も相手にモールス信号をメッセージに添えて送る。


「さも当然のように使いこなしているけど、なんで知ってるの?」

「無人島行く時、モールス信号あると便利なんすよ」

「出た、秀頼君の無人島話。行ったことない無人島ジョークですよ」


しれっと絵美に流された前世の話。

当然ながら無人島話は円すら知らない出来事である。

そのモールス信号で会話を仕合いながらお互い合流するために近付いていく。


「あっ!お兄ちゃんだ!」

「流石秀頼様!美鈴のモールス信号に気付いてくれましたわぁ!」


こうして、肝だめしでバラバラになった秀頼チームと美鈴チームが合流。

はぐれたメンバーの約半数以上と再会したのであった。

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