14、甲冑領域

「君たちの中で頼りになる人って誰なの?」


楓の何気ない一言で、秀頼と絵美と円が問われる。

すると躊躇せず、「そんなの決まってますよ!」と絵美が返事をする。


「秀頼君ですよ!秀頼きゅぅぅぅぅん!」

「まぁ。当然明智君よね」

「あ、ありがとう絵美、円……」


赤くなった秀頼は遠慮がちにお礼を言うが、内心ではガッツポーズをするくらいにはテンションが上がっていた。


「誰がノロケなんか聞くためにこんな質問するか!リア充は滅んでなさい!」


楓がイライラした口調で3人に突っ込んだ。

なんでイライラするのかわからない。

ただただ秀頼がデレデレしているだけで、彼女はなんかムカムカしてくるのだ。


(あー、よっぽどこの男が嫌いなんだわ。こんな奴相手にドキドキしたのも本当にムカつく……。…………甲冑に襲われろ!…………そんで、また助けてくれないかな……?……じゃなくて、甲冑に襲われて死んでしまえ!……あ、でも死ぬの願っちゃダメか?あれ?何の話だっけ?)


楓の心はミキサーに掛けられてしまったようにぐちゃぐちゃになってしまった。

頼りになる人を聞いたんだったと、自分から振った内容を思い出す。


(うんうん。明智君頼りになるのわかる!そりゃあ、あんなに好かれるのもわかr…………アレ!?)


絵美と円は急に黙ってどうしたんだろう?と、短髪の大学生を心配そうな目で見ていた。

(よっぽど2人が心配なんだね……)と、楓が混乱していると勘違いしているのであった。


(よっぽど俺が嫌いなんだな……)と、秀頼は秀頼で急に黙った楓の原因が自分だと気付いたが、意味はまったく違うことを心配をするのであった。



「と、とりあえずノアと小鳥が心配だから。だ、誰が頼りになるのか聞きたいだけ」

「あぁ、そうですね。ゆりかとか頼りになるんじゃない?」

「本気でわたしと秀頼君を殺しに来るくらいには頼りになるけど……。ちょっと言動がね……」

「こ、殺っ!?」


楓は(え?)って思うが、ちょっとスキンシップが激しいくらいかと気付き、落ち着く。

(マジで殺そうとするわけないか!)と、マジで殺そうとしていたゆりかの過去を比喩の表現と落ち着かせる。


「ヨルとかも頼りになるんじゃない?ねぇ、明智君」

「あいつも初対面時に俺を殺そうとするくらいには頼りになるけど……。まぁ、言動がな……」

「こ、殺っ!?」


(いや、子供なんだから死ぬとか殺すとか日常茶飯事ね!)と、3つ違う彼らの発言をマイルドに捉える。


「あ、明智君は?明智君は誰が頼りになると思う?」

「みんな頼りにしてるよ」

「はぅ、秀頼君に頼りにされてる!」

「明智君に頼りにされてた!」

「だから!そういうノロケ要らないっての!」


隙あらばノロケを始める2人に突っ込みを入れてしまい、無駄に体力を使う楓。


「大丈夫、ノアさんも小鳥さんも楓さんも頼りにしてますよ」

「…………あ、ありがと。…………って、そういうところなんじゃないですか!?」

「え?」

「な、なんでもない!あと、そういうことを聞きたいんじゃなくて明智君が彼女らで甲冑に襲われても頼れる人は誰かって話!」

「あぁ。なるほど」


秀頼はこくこくと頷く。


「三島とかだいぶ頼りになると思うけど」

「三島?えっと……、あの自分をボクって呼ぶ子?」

「うん。俺を殺そうとしたくらいだし、頼りがいは俺が1番わかってるから」

「殺っ!?」


(何回殺されそうになってんの!?3連とかマジで死にかけたことあるの!?)と、秀頼がさらっと流す壮絶な過去に驚愕する。


「というか、遥香ってゆりかやヨルと並んで頼りになるの?」

「さ、さぁ……?」


絵美は半信半疑にその答えを聞いていた。

円は理由を知っているが、知らない体でいるのでやんわりと惚けて見せた。

彼女と秀頼だけが知る、三島遥香の切り札。

それがまさに……。






─────






『騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!騎士道精神!』

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


その頃……。

三島遥香は悲鳴を上げながら甲冑に追われていた。

なるべく悲鳴を上げながらそれを聞き届けた秀頼や美月たちに聞こえるようにSOSの緊急サイン、マーキングを撒き散らしながら。


『ふっ、哀れなり小娘。騎士道精神に乗っ取りタイマンを所望す。甲冑領域が作動し、我の半径3メートル以内の音は遮断され聞こえないようにしている。残念ながらその悲鳴は防音中だ!さぁ、騎士道精神!騎士道精神!』

「インチキぃぃぃぃ!」

『騎士の情けよ……。そこに別れ道が2つあろう』

「あ、ある!」

『好きな方を選べ。騎士道精神に乗っとり正々堂々と納得の行く死に方を選ばせてやる』


徐々に縮まっていく遥香と甲冑の距離 (物理的な意味で)。

焦りながら三島は右側の通路を目掛けて走り出す。


『フハハハハ!残念なり、ボッチな小娘!そっちは行き止まりぞ!キシキシキシ!』

「うわぁぁぁぁ!?」


甲冑は「キシキシキシ!」と嗤い、勝利を確信していた。


「くっ、左側に行けば……」

『キシキシキシ!左側も行き止まりだ!つまり、騎士的な言語で言うなら『積み』』

「あ……」


人間、死ぬ直前になると走馬灯が過るという。

そしてそれは三島遥香も例外ではなく、とある記憶が開く。











「ちょっと姉ちゃん!何、普通にボス戦行こうとしてんだよ!」

「え?だって『山の魔神』を倒すんじゃないの?」

「絶対ダメ!ちゃんとダンジョンを隅々探して!ほら、行き止まりに『はやぶさのドリル』あんじゃん!これ装備すると主人公の攻撃力が84倍になるんだぜ!」

「へぇ……」


遥香の弟の和馬はそう言いながらせっかくボス戦前までたどり着いたダンジョンの道を引き返して、行き止まりを目指していた。


「ほらぁ!『鉄壁フルガードアーマーサイクロンヒールバージョンγVer.6507』の装備品落ちてる!これ付けると1000以下の攻撃無効、10ダメージ食らう度に5回復、相手が攻撃してきた時8割の確率でサイクロンで返り討ちするんだよ!まったく、いつまでバニラ装備の『プラスチックの鎧』なんか付けてるんだよ!外すよ」

「う、うん」

「行き止まり!ダンジョンは行き止まりには大抵宝箱あるんだからきちんと探索して!あっ!?『ドラゴンの加護の護符』落ちてる!これ付けるとドラゴン以外からダメージ受けなくなる貴重なアクセサリーだよ」

「もう好きにして……」


弟がすいすいーっと装備品やダンジョンの解説をしながらゲームを進めていた。

遥香はそれを既に視界にすら入れずに本を読んでいて、ボス戦直後になってようやく弟からゲームのコントローラーを返してもらった。



という、走馬灯を見た。










─────





「って、リアルな行き止まりには宝箱なんか無い!バカ和馬ぁ!帰ったらネコ助ミサイルするぅぅぅ!」

『キシキシキシ、まだ帰れるつもりでいるとは。騎士道精神に乗っとり、お命ちょうだい!』

「くっ、ネコ助がいないからボクの必殺技『ネコ助ミサイル』が使えないなんて……」

『必殺技が使えないとは!なんとも間抜けなボッチ小娘よ!』


三島遥香は、ついに行き止まりの壁に身体が着くくらいに追い詰められた。



──そして、彼女は無自覚にどす黒い何かを身に纏っていたが誰もその存在には気付かず……。

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