13、ヨル・ヒルは追いかけられる
「今どきよぉ、バラバラだってよぉ!バラバラだよ!どんだけ古典的な展開なんだってんだよ!」
「ホラーゲームみたいね!なんだっけ?ブルーオーガみたいなあったよねー!青い鬼から追いかけられるやつ!あんなシチュエーションみたい」
「ははは……」
秀頼は目が笑っていない状態で円の指摘に乾いた笑いを浮かべる。
ゲームの世界だと気付いて欲しかったが、どうやらそこまで彼女は察知することは出来なかったみたいだ。
「そんな呑気にホラーゲームみたいなんて言ってる場合じゃないよ?結構わたしたちヤバイ状況だよ?」
「ヤバイだろうね……」
絵美のいうヤバイ状況なのは、バトルホテルに入る前から秀頼は察していたのだ。
ヨルの邪魔で不発したが、秀頼がギフトを使おうとするくらいには焦る状況だったのだ。
このホテル内はパニック探索ホラーな世界観という、秀頼と円の前世ではそういうゲームが乱立されるくらいにはメジャーな作品だったのだから。
「じゃあ、いつ死ぬかもわかんないんだ!は、ははっ……。なんだったんだろ、私の人生……。殺されそうになって偶然助けられたけど、もう次は……」
「大丈夫ですよ、楓さん。秀頼君が近くにいれば必然的に何回でも助けてくれますから!」
「いや、まぁ、何回でも助けるけど……。危険なめに遭わない努力は惜しまないでね」
「明智さん、優しい……」
「なんか一ノ瀬さんの好感度上がってない?大丈夫?」
とりあえず気分まで暗く落ち込まないようにするため、秀頼・絵美・円は明るく普段通りに接してショックから抜け出せない楓を冷静になるように努める。
(さて……。俺たちは4人。俺の見立てでは確か4グループにバラバラになっていたが……。星子や永遠ちゃん、ゆりかや美鈴たちみんなは大丈夫か?)
この場にいない彼女たち全員の心配をしていた。
─────
「見て見て!スマホが圏外!」
「何もテンション上がんないですわ!」
和の呑気な態度に美鈴は突っ込む。
しかし、非日常に飢えているのかやたら和はハイテンションだった。
「大丈夫か和は……?」
「のーちゃんは刺激が足りない系ギャル女子なんで通常運行です」
「あははぁ……。た、頼りになるなぁ……」
スポット参戦枠の小鳥が1人じゃなくて良かったと安心して笑う。
だが、危機感が無いんじゃないのとも思うが、ギフトで甲冑を壊したゆりかがいるなら少しばかり心強い。
「頼りになるって言うか……バカ?」
咲夜がボソッと突っ込む。
小鳥の周りには初対面であるゆりか、美鈴、星子、和、咲夜が集まっていた。
「早くお姉様や秀頼様と合流しましょう!」
美鈴は息巻いていた。
─────
「ヨルちゃぁぁぁぁん!また一緒だね!お母さんが守ってあげるからね!」
「だぁぁぁぁ!うざってぇぇぇ!」
ヨルは戸籍上は母親になっている悠久から追いかけ回されていた。
普通に周りに騒音をばらまく2人に、ノアがポカーンと口を開いていた。
お互いライトを付けないで走りまわっている辺り、夜目がすげぇと理沙は感心していた。
「というか、こんなに騒いで大丈夫なのか永遠?こんなの甲冑に見付かるじゃないか?」
「諸刃の剣ってやつだよ」
「永遠?どういうことだ?」
「これは悠久先生の作戦ですよ。確かに甲冑に見付かる危険性はありますが、秀頼さんや絵美や美鈴たちに『自分はここにいる』ってアピールしているんです」
「な、なるほど!SOSってわけか!」
「確かに明智君たちがこれを聞き付けたら近寄りますよね!」
「そっか。そうすれば小鳥ちゃんや楓ちゃんと再会出来るわけですね!悠久先生も永遠ちゃんも頭良いですね!」
永遠、美月、理沙、ノアはヨルと悠久の騒がしい追いかけっこをニコニコしながら観戦していた。
因みに悠久にそんな作戦は一切なく、溺愛している娘と同じグループになりテンションが上がっているだけである。
─────
残り1グループは静かに行動していた。
いや、1グループというより1人だけだった。
「てか、なんでボクだけ1人なの……?無我夢中で走ったらボッチになっちゃった……。スマホも圏外……。ボクの影が薄いからってこんなの酷い……」
秀頼やゆりかみたいに自衛手段を持っているわけでもない三島遥香はポツーンと1人で廊下を歩いていた。
先ほど開けた道から甲冑が暴れた場所を見たが誰1人残ってはいなくて、立て札が寂しそうに立てられていただけであった。
「いやいや、こう見えてボクは体育の成績は3もあるんだから!中学3年間オール3で強いんだからねッッッ!」
拳をシュ、シュっと振るうも、自分の非力さが露になっただけな気がすると、遥香の表情がスンとする。
「む、胸はあるから色仕掛けとか……?いやぁ、甲冑には効かないよなぁ……。というか秀頼さん以外に色仕掛けとかしたくない……」
甲冑にびくびくしながらバトルホテルの廊下を歩く。
遥香の中では脱出よりも誰かとの再会の方針を立てながら探索をしていた。
「で、でもボクは味方全員から置いていかれるくらい影が薄いってことは甲冑なんてボクを認識してるわけないよねぇ!あはは、影が薄くて良かったぁ!」
遥香が影が薄い=自分は見付からないと確信し、安心しきった時だった。
────ジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガ。
「ん?」
もの凄いスピードで後ろから金属と金属がぶつかりながら走るような音がする。
しかも、遥香へ向かって一直線みたいな自信が感じる。
「い、いやぁ。無いでしょ?ボクなんか空気みたいな扱いだし。それは無いって……」
遥香は夢なら覚めてと祈りながら振り返る。
────ジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガ。
「ぼ、ボ●トみたいな走り方で甲冑来たぁぁぁぁぁぁ!」
しかも、楓を斬ろうとした大剣を背中に装備している。
迷いのない走りで、体育の成績3の遥香を追いかけてくる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!な、なんでボクを狙うんだよぉぉぉぉぉ!」
『弱い者から狙う。騎士道精神。騎士道精神。騎士道精神』
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁぁ!」
『喋ってはおらぬ。脳に直接語りかけている』
「あ、ありえねぇぇぇぇ!」
『それもまた騎士道精神』
「ただの弱い者虐めぇぇぇ!」
『虐めなどという外道行為は、騎士道精神に誓って必ずせぬ。ただ、お主を殺すこと。それが騎士道精神なり』
「ヨーロッパに帰れぇぇぇぇ!」
『ふっ、残念ながらジャパン製だ!』
こうして、ヨルが悠久に追いかけまわされている時の別の場所では、騎士道精神に乗っ取り殺そうとする甲冑と遥香での鬼ごっこが始まってしまった。
第1の灰になる犠牲者は決まってしまったのだろうか……?
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