13、圧倒に潜む影

「ほら、立てよ。まだ決闘が始まって10秒程度だ」


転がった竹刀まで歩き、それを蹴りながら織田付近へ飛ばした。

どうせまだギブアップなんかしないだろうし、俺は竹刀を構えた体制で止まる。


「なんでだ?」

「ん?」

「なんでお前、巻き上げを使った?……それに、俺は絶対防ぐ自信があった……。なんで、こうなった?」

「確かに、巻き上げなんて予想している相手にしてみれば簡単に対策を取られる奇襲技だ。だから、俺は忠告して巻き上げを封じたつもりになっているあんたが1番油断している今繰り出しただけさ」


『今後10年、大きな地震が来るでしょう』と言われて、1番準備が出来ていないのはいつか?

そう考えると、発言直後だ。

10年という長いスパンの中、今くるなんて考える人は早々いないはずだ。


「だとしても、前より剣道なんか打ち込んでなかったお前がっ!」

「次の試合、始めようぜ」


仕切り直し。

竹刀を構えなおす。

奇襲とばかりに、竹刀を振り回す。

俺のいた位置目掛けて。


「取った!そこだぁっ!」


俺の顔面目掛けた攻撃だった。

俺へ、仕返しをしてやるつもりの意図が見え見えで軌道が簡単に読める。

最小の動きで、かわす。

数ミリ寸前先からの竹刀が斬った空気が頬に走ってきた。


「っ!?」

「はい、残念。てじなーにゃ!」


俺は、前と同じ位置に振りかぶる。

俺なりの意趣返し。

また、鼻を出血させた。


「クソっ!クソっ!なんでだ!なんで当たらないんだっ!」

「…………俺が知っているあんたより5倍強くなったんだっけ?」

「ああ、そうだよ。見りゃわかんだろ?筋肉も、竹刀捌きも。全部前より強く鍛えたんだからな」

「そうだね。確かに5倍以上、6、7倍はつよくなったかな」


俺の目算。

腐ってなければ、であるが。

それでも、織田の宣告と照らし合わせると大体あってるから俺の感覚は鈍ってないらしい。


「ただ、あんたが知っている俺でさえ10分の1程度しか実力を出していないんだ。だからあんたがちょっと鍛えたところで焼け石に水状態。100回やってもあんたは俺に勝てない」

「は?嘘だ、そんなハッタリ……」

「そう思いたければそう思えば良い……」


あの頃の俺は若かった。

なろう系アニメの主人公に憧れて、本当の力を隠すみたいな奴に痺れていた厨二病時代。

素でそれを実践して、『俺、本気出してないです』ってスタンスの時である。

だからこそ、その癖が抜けなくて達裄さんに毎日ボコボコにされているんだけど……。


吉田曰く、レジギガスみたいとポ●モンで例えられたっけ……。

俺も、自分の弱点には気付いてはいるんだけど……。

因みに来栖さんはピカチュウが好きなんだって。


「ふっ……」

「ん?」

「はいはい、俺から離れて強くなったよアピールね」

「?」


織田は、鼻で笑うように言い放つ。


「どこまで自分の弱さを認めないのあいつ!」


先ほどのやり取りからフラストレーションが高くなった理沙が織田を非難する。

あの人は『自分が強い』と思うことで、自分を保つ人だ。

だから、人からも支持されにくい……。


「明智よぉ、お前さっきから受けてたってるだけじゃん。いや、ずっとか。お前のはずっと弱虫の剣。自分から攻める手段がないから巻き上げとかに頼るんだろ?カウンター狙いが上手なだけ」

「…………あぁ。俺は弱虫だよ。確かにそうだな。俺はあんまり試合とかでも攻めた時ないな……」


確かに、カウンターばかりやってた前世だった。

弱虫なのは、本当にその通り。

はじめて的を射た発言に思えた。


「頼子は確かにクソザコ」

「黙ってろ、麻衣」

「うぐぅ……」


あんまり麻衣様を虐めないであげてとゆりかに割り込みそうになる。

というか、なんか親しげだしどんな仲なんだあの2人?

そういえば、麻衣様がどんな人なのか、俺もよくわからない。



「じゃあ、なんで俺が積極的に攻めたことがないと思う?」


竹刀を構える。

織田が竹刀を構えるのを待つ。

もし立場が逆なら、俺が準備をする前から思いっきり竹刀を振るうのは想像が容易だが、そこまで卑怯にはなれなかった。


「へっ。だから言ったろ?ただの弱虫でクソザコなんだろ。ほら、次はてめぇから仕掛けろよ」


竹刀を握り、余裕そうに指で挑発してくる。

だから、やれというなら望み通りに、俺から切り込む。


「…………シッ!」

「!?」

「反応が遅いっ!」

「ぐっ……」


竹刀を胴に入れる。

それから3度目の勝利。

そろそろギブアップした方が身のためだと思って欲しい頃だ。


「俺が最初に切り込むと10秒もたないで試合が終わるんだよ。俺はボコりたいわけじゃない。試合がしたいんだ」


むしろカウンターより、切り込む方が好きである。

当たり前だ。

巻き上げとか面倒こなすより、普通に切りかかる方が俺だって早い。


「どうだ?もう実力の差を思い知ったか?」

「あぁ……、実力差がよぉぉくわかったよ。俺じゃお前には100回しても1000回しても変わらねぇ。負けるだろうな……」

「全然目は諦めてないみたいだが?」

「だってよぉ!俺の勝ちはゆるがねぇ!」

「何?」


強がりに見えない織田先輩の勝利宣言。

敗北を諦めた顔ではない。

いや、わかっていたはずだ。

部長は、こんなにあっさり潔い人じゃないことくらい。


「お前は頭がバァカだから負けるんだよ」

「くっ……、じゃあ何すんだよ?剣道やめて殴り合いか?」

「いいや。弱い者虐めさ!」


そう言って指パッチンを鳴らす。

すると、俺と織田先輩の周りに透明な壁が生えてくる。


「待ってましたー!織田先輩!」

「行くぜぇぇぇ!」





──しまった!


罠に嵌められたことに気付いた時には手遅れだった。





「当然、お前が弱い者の方だがなっ!」

「っ!?か、身体が!?」


身体が動かない。

まるで写真の中の自分になったみたいに、関節も動かない。

そのまま、俺の身体は吹き飛ばされる。


──ま、マズイ!?



気付いた時には、もの凄いスピードで透明な壁に叩き付けられた。

身体が砕け散りそうな威力。

竹刀で3回叩かれた織田よりも、遥かに俺の身体はズタボロにされた。


嵌められた……。

織田の取り巻き20人の中から、最低2人ぶんのギフトが使われた。

壁を生やすギフト、ポルターガイストみたいなギフトだろうか……。



理解した時には、ぼろぼろで俺はもう立ち上がる気力すらなくなってしまったのであった……。

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