14、潰れた花は立ち上がる
十文字タケル、佐々木絵美らは秀頼が飛ばされた光景を呆然と見つめていた。
透明なガラスのような壁が、真っ赤な薔薇を咲かせたように血が広がっていた。
「な、なんなんですのこれは!こんなの反則ですわ!即刻、失格ですわよね!?学園長先生!?」
「……ギフトの使用には一切の制限もなし。やられたね。ルールの穴を付かれてわたくしは何も反則が取れない」
「なっ!?」
「わたくしも決闘者本人だけだと思っていたけど……。中々織田家康君は頭がまわるようだね……」
悠久がお手上げだと美鈴に宣言する。
秀頼のギャラリーたちに暗い影が落ちる。
「…………なら、あたしたちが明智をサポートするのもありなんだな悠久?」
「ヨルちゃん……。それは、好きにしなさい」
「けらけらけら。荒事はおあつらえ向きだよなぁ!お前らぁ!ギフト使い放題だぜぇ!」
ヨルが西軍に喝を入れる。
ゆりかがそれを察し動き出す。
「ははははは!ならアタシが!」
「お前は人を殺しかねない。麻衣はギフト使用禁止だ」
「うぇぇぇん!そんなぁ!?」
「人を殺さないくらいなら許可しても良い」
「……仕方ないねぇ。裏切り者のギフト狩りが優しくなったわね」
「…………」
麻衣の立ち回りに不穏なものがあったが、やりたいようにはさせよう。
ゆりかは彼女のギフト使用を許可した。
「明智さん!明智さん!」
三島遥香は織田家康に憎悪を向ける。
殺してやりたいという衝動に駆られる。
『エナジードレイン』の塊が無意識に遥香の周りに集まってくる。
「遥香、お前は絶対に戦闘に加わってはいけない」
「ヨルさん!?なんで!?なんで!?明智さんが……!明智さんがあんなに血まみれなのにっ!?」
「お前じゃ、敵も味方も殺しかねない。日常生活に支障がないくらいは制御できるようにはなったみたいだが、まだまだギフトの制御が未熟なんだ。今の遥香にはあたしにしか触れられないくらいに力が濃い。抑えてくれ」
本当はタケルも触れられるが、話の焦点はそこじゃない。
ヨルの説得に恐怖し、『エナジードレイン』の力を引っ込める遥香。
「大丈夫。もし、次こんなことがあれば、一緒に戦おうな」
「ヨル……さん」
ヨルが優しく遥香を包容する。
彼女の体温を一身に受け、遥香は泣き崩れた。
戦闘要員になれそうにない咲夜と美鈴に遥香を任せて、彼女は自分の父親──タケルの元に向かう。
「戦うぞ、タケル!」
「よ、ヨル!?で、でも俺は秀頼を助けられるギフトなんか……」
「お前のギフトの能力は『アンチギフト』!明智が付けた名前だ!」
「あ、『アンチギフト』……?」
「お前は遥香とは違うベクトルでまだまだギフトを使いこなせちゃいない。最低、あたしレベルにはなってもらうぜ!」
「ちょ、ちょっと!?ヨル!?」
ヨルはタケルの手を握りながら、織田家康のギャラリー陣に引っ張っていく。
主人公とメインヒロインの出陣だ。
─────
「秀頼君!秀頼君!秀頼くんっ!」
絵美の声がして、なんとなく意識を彼女の声に持っていく。
ガラスを鈍く叩く音もする。
あぁ、そういやこの壁に叩き付けられたんだっけ……。
立ちたくねーな。
いっそ気絶するくらいにダメージを与えてくれたら、痛い思いなんかしなくて良かったのに……。
「お前の『バリアを張る』ギフトえげつないな」
「そういう先輩のポルターガイストもやばいですって!あの明智とかいう後輩、多分自転車とかバイクに轢かれるくらい威力あったっすよ」
織田の後輩と同級生のコンビネーションギフトが炸裂したようだった。
マジでそれくらいヤバい一撃であった。
「秀頼君!勝たなくても良い!負けても良い!だから、死なないで!お願い、秀頼君!」
「…………」
そんくらいで死ぬわけねーだろ。
したたる血を手で伸ばしながら、立とうと力を込める。
しかし、立てる気がしない。
どうっすかなー……、マジで。
いや、もうちょい立つ努力をするか。
薄れゆく視界の中で織田の姿が見えた。
「よし、明智にトドメだ!2、3発ポルターガイストすれば終わるだろ!」
「わかったっす!『ポルターガイスト』発動!」
あれ?
またなんか身体が硬直してる?
いや、自由に身体を動かせるな。
「あれ?あれ?」
「ど、どうした?早くぶっ飛ばせ!」
「いや、あいつ……。ギフトが効かねぇ」
「何!?」
ギフトが効かない。
真っ先に考えられるのはヨルとタケルだ。
しかしあの2人は、ギャラリー陣のバリア野郎とポルターガイスト野郎の護衛みたいなやつと戦っている。
『アンチギフト』が原因ではない?
「とべ!とべ!とべっ!」
確かに一瞬身体は硬直する。
でも、普通に俺の身体は動く。
似たようなのが、前にあったような……。
「…………あ」
『良いかい、秀頼。『想い』はね、何より最強の力になるんだ』
達裄さんの言葉が頭を過る。
『想い』はギフトを打ち破る力になる。
そういえばあの人もギフトが効かなかったんだっけ。
「ダメだ、全然ポルターガイストが効かねぇ」
「お、俺もだ。明智の前世が見えなくなった……。な、何をした!?」
「…………」
何も。
口にするのも面倒だ。
ただ、絵美が、円が、みんなが見てる。
カッコいいところを見せてやりたい。
ただ、それだけだった。
それは多分……。
みんなが大好きだから。
その『想い』がギフトを打ち破っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます