12、深森美鈴は意を唱える

山本たちがすぐ近くの体育館の扉で奮闘しているであろう時に俺は深呼吸で息を整えていた。

嫌な緊張だ。


原作の悪い流れに沿う時のような、息苦しさがある。

何やってんだ俺……。

山本が、川本武蔵が、白田が、セナちゃんが、鹿野が死ぬ気で真面目に戦ってくれているんだ。

俺と織田先輩の決闘が見たいなんて物好き10人もいるだろうか?って感じではあるが。


「竹刀は持ってるか明智?学校の備品を借りるか?」

「いや、自分の竹刀は準備してるから大丈夫っす」


川本武蔵のギフトで作成してもらい受け取った竹刀を準備する。

まったく馴染んでない竹刀だが、織田先輩が準備するような竹刀なんか借りたら、ずっと何か仕込んでいるんじゃないかとか、罠と疑って戦うなんて器用な真似は出来ない。

それなら、こうして新品の竹刀を握る方が安心できるってもんだ。



「ところで、剣道って胴着とかなんか着ますよね?明智さん、竹刀しか握ってないですよ」

「先生が貸してくれるんじゃないでしょうか?ですよね、悠久先生?」


三島の問いに、美鈴が頷く。

しかし、悠久はふるふると首を横に回す。


「織田君からの提案で防具一切なしの剣道という案が出された。それに対し、明智君は『好きにしてくれ』と提案を飲んだ」

「そ、そんな話がありますか!?秀頼様は剣道初心者ですよ!?剣道部の部長と文芸部部員でそんな不利な話があり得るわけないでしょ!?」

「美鈴……」

「円さん!円さんからも言ってくださいよ!?」


悠久と美鈴の会話に割り込んだ円は美鈴の肩に手を置き、悠久みたいに首を横に振った。

「え……?」と美鈴が溢す。


「大丈夫。明智君が剣道で誰にも負けるはずがない。だって彼は剣道に限れば無敵で最強のヒーローなんだから。だから、明智君を信じて」

「円さん……」


剣道に限れば無敵で最強のヒーロー、か。

来栖さんの言葉だと気付き、心が温かくなる。

本当にいつになっても、君を忘れられないよ。


「明智ぃ?」

「?」

「いつまでも昔の俺と思うな!お前が知っている俺より5倍は強いぞ」

「そうか。強くなったんだな……」

「チッ!お前のそういう達観したような癖が気にくわねぇんだよ!良いか?俺はもう、お前の巻き上げなんて通じない。剣を奪うことなんか出来ねぇんだよ」

「…………」

「絶望的だろ?お前の必殺技が封じられているんだからな。精々俺の倍くらいしか差が無かった頃と比べると、逆にお前が弱くなっちまったんじゃねぇのか」

「そうかもな。それに巻き上げが通じないね……。それは、やりにくい相手だな」


確かに、俺が剣道で1番得意だったのは、相手に何もさせない巻き上げだった。

巻き上げが使える高校生なんか前世の同年代だった。

そりゃあ、俺が強く出れたよな。


「本気で来いよ」

「わかってる……」

「じゃあ学園長先生、ルール説明をお願いしますよ」


そうやって悠久のルール説明に入る。

ある意味、今はじめてルールを聞くことになる。


「ルール説明よ。防具なしの剣道。何本先取などの回数制限なし、ギブアップしか試合を逃れることは出来ない。竹刀以外でも攻撃可能。掛け声も任意。ギフトの使用にはの制限もなし」

「うわぁ……、あからさまにヨリ君が不利過ぎ」


千姫がぼそっと呟く。

タケルや絵美達も、織田先輩の取り巻きも、織田先輩本人すらそんなの承知だろう。

とりあえずもう俺と関係がある面を振りをするのはやめて欲しい。

だから、俺は一切ルール作成やルール提出に意を唱えなかった。

完封して、関係を断ち切りたかったから。


「構え」


俺と織田先輩が竹刀を構える。

悠久の「開始!」を宣言と共に、俺の頭へ織田先輩の竹刀があった。


「くたばれぇ!」


そう言って振り下ろされる竹刀。

あぁ、もう実力を見切ってしまった……。

目を閉じて、集中力を高める。


そして、相手の竹刀に対して剣を振り上げた。








「な……!?」


既に織田先輩の竹刀は宙に浮き、重力により下に落下。

コンコンと虚しく床から音がする。

俺の巻き上げが成功していた。


丸腰になった織田に面をぶつけ、顔面に竹刀を叩き込んだ。


「ぐぅっ……!?」


打ち所が悪かったか、鼻から出血したようだ。

鼻を手で隠しながら、俺に憎悪を込めた目で睨み付けていた。

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