11、明智秀頼の神格化

「へっ!ハッタリだっ!」


重力パイセンこと金田が後輩である山本の言葉を否定する。

あり得ない。

そんなトランプの大富豪で行われるような革命なんか、現実で起こるはずがない。

自分が2の数字なら、ギフトの持たない山本は精々3か4。

金田はこのまま川村にギフトをかけ続ける選択肢を取る。

怯む必要なんかないと、より川村にGを加える。


「このまま川村を潰し、お前を潰し、そのまま体育館に入り込んでやるぜ」

「そうっすか……。なら俺の予想通りか」

「な、何!?」

「重力パイセン、今のあんたはがら空きっすよ!」


山本は金田の弱点を既に見抜いていた。

それは、Gの圧力を掛ける対象を1人にしか選べないことだ。

だから呑気に山本相手に背中を向けられる。


「さぁ、ご退場願いますよ!パイセン!」


金田の顔をサッカーボールを蹴る威力で蹴り上げると、そのまま端の壁まで金田が飛んでいく。

彼の身体が動かなくなった時には気絶しており、川本武蔵の身体が自由になった。


「助かった、山本」

「まだ200人も残っているのに大事な戦力を見殺しになんかしねぇよ」


鹿野がターザンに追いかけられ、白田は複数人の相手と格闘していて、熊本は扉を死守していた。


「明智君が通さないでって言ったんだもん!誰も通すかあああああ!」


熊本が特に士気が高く、気合いで扉に貼り付いていた。


「ほら、かかって来いよモブ共があああ!明智が義経なら俺は弁慶だああああ!」


山本が200人相手に啖呵を切る。


「死んでも、俺は扉の前に立ちはだかってやるよ!」

「待て、山本」

「川本!?どうした?」

「弁慶じゃない。宮本武蔵、だろ?」

「知るかあああ!」


川本の意見を一蹴する山本。


「違うでござる!この結託心、赤穂浪士でござる!」

「ちげぇぜ!俺たちは白虎隊だ」

「わ、私は最強の真田丸だと思ってますよ!」

「みんなして好き勝手言いやがってぇ!」


山本の弁慶に対し、白田も鹿野も熊本も意見してくる。

正直、1番どうでも良いところだろう。


「くっ……、俺たち白虎隊が力を合わせる時。俺と山本はギフトは使えねぇ!お前たちのギフトで助けてくれ!」


鹿野が悔しそうに言うと、「なら、ギフト解放だ」と川本が頷く。


「俺のギフトは何もない空間から竹刀を何本でも生み出す力がある。正直、竹刀買う金が掛からなくて便利なギフトだ」


そうやって川本がアピールすると、手を構え出す。


同調トレース開始オン。ギフト発動『竹増殖』」


そうやって川本は6本の竹刀を一気に宙から取り出し、味方4人に竹刀を投げ渡す。

そして、川本は二刀流。

計6本の竹刀が全員に行き渡った。


「使ってくれ。そして、目の前の明智の敵を駆逐するっ!」

「おぉ!」


山本らは武器を持ち、200人の集団に突っ込みだす。


「私は強くなりたい故、決闘を見届けたい。退いていただきたい」

「くっ……、女は殴れねぇ……」


山本は女性を回避して、別人の男に切り込んでいく。

変わりに白田がその女とぶつかる。


「デュフフフフフ。山本氏は異性に対しジェントルマン(笑)みたいだが、ワイは関係ない。敵なら女でも殴るでござるよ」

「なら、ギフト発動『アタックブースト』!これで私の攻撃能力を100倍に引き上げる!」

「デュフフフフフ。本当はあまりこのギフトは使いたくなかったが仕方ないでござる。将来は子供たちの未来を喜ばせるために使うために温存していたギフト解放でござる!『ゲームワールド』!」

「なっ!?」


戦闘特化な猪突猛進気味な女性は、搦め手気味なギフトを扱う白田に対し足が止まってしまう。


「【そっちは女雑魚、ワイは勇者設定のアクションゲーム設定】」

「なっ!?ギフトがかき消されたどころか弱体化だと!?」

「勇者パーンチ!」

「むねぇぇぇん!」


女雑魚はそのまま勇者の拳を受けて吹っ飛んだ。

「え、えげつねぇ……」、と山本が白田のギフトに率直な意見をもらしながら無能力者同士の対決に勝利していた。

ギフト使いはギフト使いに当てるべきだなと白田のギフトを見ながら山本は無能力者を狙っていく。


「てか、竹刀渡したんだから竹刀使えよ!ふざけんなよ勇者パンチ!」

「すまないでござる。だが、ワイにとって竹刀は使い方わからないし、枷になっちゃって……」

「さっき赤穂浪士名乗っておいて剣使えねぇはないって!」


川本は自分の竹刀がまったく役立っていなかったことを白田に不満を漏らす。

「でも、別に使わないし……」とか言いながら山本に竹刀を渡し、「え?」って山本に驚かれていた。

押し付けられた竹刀を見て傷付いた川本であった……。


「川本君!竹刀じゃなくてラッパとかピアノとか楽器は出せない!?」


扉を死守していた熊本は重いので鹿野に竹刀を押し付けて、違う要求を川本に出す。

ダメならダメで仕方ないと考えていたところに、「竹だったら竹笛のリコーダーみたいなやつなら作れそう」と返事を出す。

それに「グレイト!竹笛出して」と熊本が続ける。


「笛なんか出してどうするつもりだ?」

「みんなが出し惜しみなしでギフト使ってるんだよ!なら私もギフトで明智君の役に立つ!明智君にしか教えてなかったこのギフトで戦う!」

「わかった。同調トレース開始オン。ギフト発動『竹増殖』」


そう言って竹笛を作成し、熊本に渡す。

「ありがとう」とお礼を言って、竹笛リコーダーを口に加える。


「熊本!?お前、笛で何を」

「私だって役立たずじゃない!ギフト発動するよ!」


山本や鹿野、川本が呆然とする中、熊本は美しい音色を笛から紡ぎ出す。

その慣れた笛捌きに『はじめて触った笛にしてはやるな!』と、山本は心で拍手を送る。


「『ピーヒョロロー、ピーピーピー』」

「く、熊本?お前、一体なんのギフトを?」


川本が熊本に訊ねると、熊本が待ってましたとばかりにどや顔でギフトの説明に入る。


「私のギフトは、楽器なら自由自在に扱えるギフトなの。初見でも、難易度も関係なくね。凄いでしょ!」

「え?あ、凄いね?」


敵も味方も『何言ってんだこいつ』顔で熊本を見ていた。

川本の無難な褒め言葉だけが廊下に響く。


「ぶははははっ!爆笑もんだ!あの女を狙え!」

「うおおおお!僕は『叫べば叫ぶほど拳に熱を持つ』ギフトぉぉぉぉ!」

「熊本!?ヤバいって!」

「『ヒュロロロー、ヒューピー』」


卑怯者の2人が熊本を襲う。

しかし、熊本は何も考えず、祈るように、目を閉じて笛を吹いていた。

山本が助けに行こうとするがもう手遅れなのを察してしまう。

卑怯者2人も自分の勝利しか見えていなくて、これから戦況がひっくり返ることはないと思っていた。

だからが飛んできて、自分たちが負けることになるとは予想していなかった。


は熊本を守るように、横からやって来たのだから。






「鷲?」


味方である山本が信じられない顔で熊本を視界に入れていた。

なぜなら、野性の鷲が大きな翼で卑怯者2人を体当たりでぶっ飛ばしたのだから。


「…………」


熊本は確信したように目を開ける。

すると彼女に呼応するように数匹の鷲や、野犬が姿を現したのだから。


「ど、どういうことだ?」

「ふぅ……。速急だから不安だけど出来たみたいね。私は笛で動物を手懐けたの。これはもはやただの竹笛じゃない。鷲笛だし、犬笛にもなったのよ」

「つ、つえぇ!」

「これが私のギフト『フリーダム・トーン』」


『フリーダム・トーン』。

自由な音色。

彼女の奏でるリコーダーの笛の音は、野性動物にとっては支配の洗脳音。

熊本のギフトで、彼女を守護する矛と盾が一気に集まってきた。


「ん?もしかして……。熊本、俺に応援歌を奏でる感じでリコーダーを吹いてみてくれ」

「う、うん……」


鹿野が思い付いたとばかりに、熊本に応援歌を吹いてもらう。

「『ヒュルルルル』」という笛の音が鹿野の耳に届いた時だった。


「うおおおお!信じられねぇ力が溢れてくるぜええええ!」

「な!?鹿野の髪色が金髪に変わり逆立っていく!?」

「ま、まさかこれはバフでござるか!?」

「バフってなんだよ白田!?」


川本武蔵が尋ねると、白田は「簡単に言うとパワーアップさせる力をバフと言うでござる」と武者震いしながら返答をする。

それを頷かせるように鹿野の動きが俊敏になり、ターザンに立ち向かっていく。

やられっぱなしだった状況から一転、鹿野の動きが瞬間移動をしているようにも見える。

サングラス男のターザンも、バフ鹿野に翻弄されていく。


「反撃開始ぃ!真田丸!弁慶!宮本武蔵!赤穂浪士!白虎隊!」

「行くぞおめぇぇぇらぁ!」

「必殺・二刀流燕返し」

「勇者パァァァァンチ」

「うららららららら!」


クラスメートチームメンバーの結束が固く結ばれつつあった。

これこそ、秀頼が後に託した5人の力だった。

200人相手への反撃の狼煙が上がる。

秀頼を守るため、現代に真田丸が復活したかのような熱量がこの場を埋め尽くしていた。


(流石明智だな……。まさか、熊本が動物を操れることまで読んでのこの5人ってわけか)

(俺が宮本武蔵の異名を渡そうとした相手。あっぱれなり)

(明智氏の戦略には誰も勝てないでござる。もしかしたらワイ氏のギフトまで読んでいたでござるか?味方ながら恐ろしい相手よ)

(明智君はやっぱり凄い!『フリーダム・トーン』で逆転出来るから私がこのメンバーに入れられたんだね!)

(親友の秀頼。おめぇは最高だぜぇ!)


秀頼の誤算があるなら2つ。

1つ、ギャラリーが来ても10人程度くらいと甘い見積りをしていたこと。

だから5人しか用意しなかった。


2つ、熊本のギフトで動物洗脳効果やバフなんて効果が起こることそのものだ。

熊本がメンバー入りした理由は、男だけより女もいた方が華やかになるというただの気遣いからだけだった。


ただ、彼らの中ではたった5人で200人討伐が可能な領域になりつつある。

『明智秀頼はかなり先を見通していてすげぇ』、そんな風な尊敬すら全て誤解である。


だが、彼らの中では誤解が真実。

明智秀頼が神格化していたのであった。











「うーん。ひぃ君の決闘を見届けたいけど人居すぎ」


200人の最後列に佐木詠美がうんざりして人の群れを見ていた。

これは無理だなと悟り、詠美は道を引き返す。


そのまま家に帰ろうとしていた時だった。


「あー、そこの姉ちゃん」

「え?私?」

「そうそう、そこの姉ちゃん」


詠美は身長の高い男に呼ばれた。

年齢は明らかに学園長くらいの年齢に見える。

その男に付き従うように、金髪の仮面を被った謎の人物が黙って立っている。

その姿はまるで、オペラ座の怪人に登場するファントムを傍観させる。

怪しい風貌で近寄りたくなかったが、呼ばれたので仕方なくその2人に近付く。


「あれ?なんか君、絵美ちゃんに似てるね」

「え?」

「あぁ、なんでもない。ところで明智秀頼が決闘してるっていう場所に案内してよ」

「え?な、なんで?」


男は楽しそうに詠美と会話するが、仮面の人物はじーっと詠美を見ているだけ。

なんなんだこの2人と疑っていた時だった。


「俺が秀頼の師匠だから。どれくらい強くなったのか、見届けにね。学園長からの許可証もあるしね。だから案内してよ」


仮面の人物は2枚の許可証を詠美に提示する。


「…………わ、わかりました。ただ、人がいっぱいで溢れてますよ」


詠美はとりあえずこの2人を秀頼が戦う体育館に案内することを決めた。

何より、秀頼と絵美の知り合いらしいところから怪しいという疑いを和らげたのであった。
















次回、秀頼が圧倒する……?






本日、永遠ルート更新しました。

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