7、谷川咲夜は助けられたい
「えっと……。うん。僕がマスターの谷川だよ。ようこそ『サンクチュアリ』へ」
「はじめまして!よろしくお願いいたします!」
マスターとヒロインは初対面らしく軽く挨拶をしていた。
「姉がよく店に来ているみたいなんです!」とヒロインが発言すると、「もしかしてお姉さんも常連さんなのかな?」と会話が弾んでいる。
特徴的に並ぶおかっぱ頭の薄いそばかす少女は嬉しそうにマスターへ話をしている。
「コーヒー好きでカフェでバイトしているんです」と姉について語っている。
一応ヒロインなのだから彼女の顔を知っているのは間違いないのであるが、どことなく知り合いの誰かに顔が似ている気がしないでもない。
誰だろう?
誰に似ているんだろう?
原作では姉が死亡しているという不幸を背負った背景があるが、現在の彼女からは姉が死亡しているとは到底思えなかった。
もしかしたら知り合いの中にその姉がいるかも?と考えてギフトアカデミーの同級生の顔を1人1人浮かべてみるが全然一致しなかった。
じゃあ、他人のそら似か。
ギフトアカデミーに通っているわけじゃない姉であるならおおよそ検討も付かない。
2年後、俺が高校3年生時にギフトアカデミーに入学してくる彼女だ。
その内に姉は死亡するはずだ。
残念ながらその姉の死亡を回避するのは難しそうだ。
気の毒な話であるが、温かく見守るしかなさそう…………ん?
…………あれ?
このヒロインの姉を殺したの秀頼じゃなかった?
…………考えないことにしよう。
もしかしたら運命が働いて彼女が入学する頃に姉が死亡する末路は変わらないかもしれない。
今の俺にどうにか出来るはずもなく、どうにかするのはタケルだ。
モヤモヤするものもあるが、ここは静観をするしかなさそうだ。
このヒロインは俺について顔も名前も知らないだろうし、話し掛けたのが原因でナンパと勘違いされても困る。
変に歴史を弄るものではない。
マスターとヒロインは挨拶や会話をしているので邪魔しないように俺は口を閉ざす。
『姉が死ぬかもしれないからどうにか頑張って』と忠告したいが、そんな怪しい言葉を初対面男が突き付けるのは不審者だ。
もしかしたら喫茶店に通うことでまたこの子と会えることがあるかもしれない。
今はまだ干渉するべきでは無さそうだ。
俺はノートパソコンの前で群がっている絵美らに駆け寄る。
「どう?店はどんな感じだい?」
「店のことはよくわからないけどサイトの雰囲気は良さそうだよ!」
モニターに映るサイトは黒を背景にして、金色の文字で『暗黒真珠佐山』と表記している。
そこをスクロールしていくと占いの蘊蓄や、値段、営業時間などについても書かれている。
30分2000円と書かれており、前世の相場と同じくらいに感じる。
「マスターに詳しく聞いてみてーけどこっちに構う時間が無さそうだな。そろそろあたしも手伝わねーと」
ヒロインが来てからも、2人客も来店してきた。
マスターもそちらの応対もしていて雑談する余裕は無くなってきたようだ。
「ウチが後で詳しくこの占い師のことを聞いてみるぞ。明日学校で秀頼に伝える」
「そっか。わかった」
「ならわたしたちは帰ろうか」
絵美の意見に頷いて店を出ることにする。
「なら永遠も」
「勉強再開しますよ。長い休憩ぶんを取り戻さないと」
「…………秀頼、絵美」
「……じゃーねー」
「……また明日」
「ひぃでぇよりぃぃ!えみぃぃぃ!」
咲夜の助けを求める声が喫茶店内に響くのであった……。
というか俺と絵美は服を引っ張られた……。
「離せ咲夜ぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと!?服伸びる……」
「あ、秀頼さんも絵美も勉強しますか!?楽しいですよ!?」
「え?え?俺ら筆記用具ないよ?」
「な、なんでぇ?」
「全部私が準備してますから。さあさあ」
咲夜曰く『勉強ドM』な永遠ちゃんに捕まえられてしまい一緒に勉強をする羽目になってしまう。
張り切った宮村教師のギフトの勉強会が始まるのであった……。
終わる頃にはヒロインはとっくに帰っていて、ヨルとマスターから同情の目で見られていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます