8、山本大悟は乗る
「おい、山本」
「どうした明智先生」
俺は今回、とある目的のために教室にいた山本に話し掛ける。
イケメン+サッカー部である『イケメンサッカー山本』の異名を持つクラスの陽キャな山本は捕まらない時は全く捕まらないので、用事があるなら朝の早い段階にキープしておかなければならない。
サッカー部連中に山本が連れて行かれると1日話し掛けるのすら難しいことがある。
「タケルの好きな女聞き出したくね?」
「え!?何それ、面白そう!乗った」
新幹線並みのスピードで瞬時に悟る山本は『新幹線山本』の異名に相応しく、俺がやりたいことに気付いたらしい。
「因みに山本はタケルって誰狙いだと思う?」
「女って条件か……。難しい……」
女じゃない条件なら簡単なのかな?
意地悪な俺は言葉の揚げ足を取りたくなるのをぐっと堪える。
今、それを口にすると絶対に話が脱線することになる。
そうなると『新幹線脱線山本』に異名を改名しないといけなくなる。
面倒だ。
「深森さんとか?」
「え?どっち?」
「姉の方」
「確かに」
美月とタケルの関係は確かに良好。
このまま美月ルートである『月と鈴』編に以降して、またドロドロな姉妹修羅場を迎えるのは勘弁したいところ。
俺が美鈴に対し襲わなくちゃいけなくなる。
どうにか平和なルートに行って欲しいものだ。
「あとはヒルさんとか?」
「なるほど、ヨルか」
王道なヨルルートか。
無難であるが、無難だからこそこれから起こりえる展開が1番予想しやすい。
ヨルがタケルに自分の過去を語ることでルートが分岐する。
それこそこないだの俺の時みたいにヨルが深刻な顔で過去を打ち明けるのだ。
それから謎だらけだったヨルが、徐々にデレてきて構ってちゃんになるのが可愛いんだ。
「よし、とりあえず行くか。作戦はどうする山本?」
「チンピラ風に聞き出そうぜ」
「俺グラサンないよ?タトゥーも入れてないよ?」
「見た目から入るな。口調だけチンピラで良いよ」
山本から背中を叩かれながら合図をされて、机の整理をしているタケルにチンピラを装いつつ近付く。
「オイオイ、タケルちゃんよぉ?おめぇに聞きてえことあんだけどよぉ?ちょっと良いかぁ?」
「?」
というかこれ、ただの原作秀頼だと気付いたのは発言してすぐだった……。
「オイ、てめぇ明智先生の言うこと聞けねぇのか?じゅうもぉんじぃぃ!」
「いや、まだ何も聞いてねーんだけど……」
タケルが手を止めて俺と山本のおっかない、張り詰めた空気に気付く。
「オイ、てめぇ山本先生にタメ口きく気かぁ?あぁ!?」
「お前と山本でどっちが舎弟なのか打ち合わせしろよ!?どっちも立場が下で煽るなよ」
打ち合わせ不足を指摘され、ごもっともなことだと納得してしまう。
「口が悪い悪役な秀頼しゃまが素敵しゅぎる……!」
「み、美鈴!?」
近くに居た美鈴が倒れそうになってしまい、慌てて腕でガードする。
なんとか床に美鈴が落ちないままキャッチに成功する。
美鈴の化粧や髪などの甘い女の匂いが鼻をくすぐることと、突然倒れ込んだ驚愕が混ざったドキドキが起こる……。
そういえば原作秀頼から襲われそうになっていたんだった……。
俺が原作秀頼の真似みたいになっていたからか変なトラウマが開き、気絶しそうなほどに怖かったに違いない。
デリカシーのない自分に嫌気がさす。
美鈴をきちんと床に足を付かせて起き上がらせた。
「だ、大丈夫か?」
「秀頼さまぁ……」
俺が襲ったり殴らないかの降伏を示しているらしく拝むように手を合わせている。
「拝むくらいに怖かったか……。ごめん……」
「いえ、全然怖くはないですが」
無理しているのかそんな嘘を言わせてしまった自分が嫌いになりそうだ。
「実は秀頼様とお話がありまして……。廊下に来てくださいませんか?」
「あぁ。良いよ」
なんだろう?
美鈴から話とか珍しいと思いつつ頷く。
タケルの本命を直接問いただしたかったが、美鈴に呼ばれてしまったので山本に合図を送る。
「OK。とりあえずこっちは任せとけ!」
山本が俺に親指を上げて合図を返される。
意味がわかっていないタケルから離れて、美鈴と一緒に廊下を出て、人通りが少ないところで2人っきりになった。
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