39、『悲しみの連鎖』亡骸に誓う

それからは怒涛の日々だった。


悠久の元で義務教育の勉強漬け。

タケルやターザンさんと実戦の練習。

世界の残酷さを痛感させられる戦場へと駆り出されもした。


昨日会話をしていた人。

ついさっきまで隣を歩いていた人。

優しくしてくれてあたしを庇った人。

何人も何人も死んでいった……。


父親として接してくれているタケルからも『もうやめないか?』と誘われても首を振らなかった。

「タケルがやめるなら」と言うと悲哀に満ちた顔で、無言で首を振られる。


あたしが知らない土地に行くと、『白い部屋』みたいな非合法な施設があったり、ギフトを憎むギフト狩りの活動が活発な地であったりと惨劇が繰り返された。



タケルに引き取られて1年後には『白い部屋』メンバー殲滅戦に参加していた若い男が死んだ。


2年後には番人が死んだ。


3年後には本物のスターチャイルドである細川星子さんが死んだ。

あの時のタケルの落ち込み具合は、半端ではなく5歳くらいは老け込んだくらいに覇気が失くなっていった。


そして、4年後。

タケルはあたしの目の前でギフト狩りの不意討ちに遭い胸からナイフが生えてきた……。





「はは……。流石ヨルだ……。もう俺より強いじゃないか……」


血塗れになったタケルが床地面に転がっていた。

その周りにはギフト狩りの屍が3人ぶんが転がっている。

最後の男は「『ギフトリベンジャー』、万歳!」と断末魔を上げて、血を吐き息絶えた……。

怒りに狂ったあたしが、全員殺してやった……。

もう、トータルで20人近くは人を殺していた。


「強くなんかねーよ……。あたしが襲われたのにタケルが庇うから……。あたしがいなかったら、お前は刺されることなんかなかったのに……」

「良いんだよ……。俺も……そうやって、無様にっ……生き残ってきたんだ……」


息が絶え絶えになりながら、血の付いた手でタケルがあたしの服を握る。

番人が居れば……。

番人さえ生きていればこんなことには……。



──別れはいつだって急だ……。



「今から……、ヨルに託す……」

「な、にを……?」

「お前に、ギフト、託す。手を出せ……」


もう既に目の焦点は合っていない。

話す体力さえないだろうに、タケルは無理をして言葉を止めない。

止血しようとしても、するなって手で制される。


「ギフト…………、進化する。秀頼が言ったんだ……。進化の末、ギフトも人に託せるって……」

「え?」

「データにすら残していない俺とあいつだけの……秘密……。だから使ってくれ……」


タケルの手から暖かい力が沸き上がる。

『ギフト享受の呪縛』でホワイト博士から注入された力に似ているのに、タケルのモノからは一切の不快感がない。

めげそうなあたしの身体をタケルが背中を叩いてくれているみたいに、優しい力だった。


「これが……、『アンチギフト』か……」

「こんな悲しみ……を、ヨルが……断ち切ってくれ……」


タケルの手があたしから滑り落ちる。

それを急いで拾うも、もう彼からは温もりは感じない……。

冷たい屍と同じ体温だ……。


「ようや……、みんなに……会え……」


そして、あたしの手の中でタケルは息絶えた……。

あたしの父親であり、相棒の男が死んでしまった。

タケルが大事な人を失った時、こんな感覚だったのかと自分に後悔のようなモノが流れてくる。


「ギフトだ……。必ずギフトを使って、タケル……。お前を助ける……。もう、こんな悲しみを終わらせよう……」


タケルの亡骸に誓った。














「あたし、ギフトを使って過去に戻る。こんな未来せかいにさせない!だから、悠久……。ギフト使用の許可をくれ」

「そうなるわよね……」


タケルの葬式を終え、あたしは真っ先に悠久に宣言しに行く。

タケルに会いたい!

タケルが不在のこの世界は、『白い部屋』で人間扱いをされなかった以上に辛い。


「『アンチギフト』持ちなんでしょ。でも、それ使いこなしてないよね。使いこなしておかないと、多分ヨルちゃんのギフトも使えない……」

「そんな……」

「だからオンオフが出来るくらいには修行しよう。そして来年、15歳になってヨルちゃんは過去のあたしが学園長をしていた第5ギフトアカデミーに通うの」

「悠久……」

「わたくしから、あなたへ最後のミッションよ。来年まで死なずに生きてこの壊れた世界の未来を変えなさい」


悠久から『過去の悠久』へ、あたしを引き取るように準備をしてくれた。

わざわざ当時に使っていたスマホを持ってきて、過去の自分へのメッセージを動画で撮影したり、あたしの状況を「わたくしの『壮大で誇りある家紋付きの手紙』で書いてやりますわ!」と大張り切りで準備した。



必ずこんな狂った未来にはしない。



あたしは1年後、『アンチギフト』を任意でオフにするまでギフトを使いこなせるようになった。

一応、人類であたしだけが複数のギフトを扱えるようになった。


そして、過去に戻る全ての条件を満たした。

アリア、タケルと託された銀色のペンダントを握りながらあたしははじめて自分のギフトを使った……。










─────






【クズゲスSIDE】






「それからあたしは過去の……、あ!こっちの学園長をしている悠久に会ってね!」

「うん……。うん……」


長いって!

何時間語るつもりなんだよ!

昼にポツポツとヨルが語りはじめて、既に夕方になっていた。

多分、映画2本ぶんは観れるくらいには話を聞いて頷いていたと思う。


「あたしが未来から来たんだ、と言ったら悠久がガチ驚きしてさ…………。おい、聞いてる?」

「あ、ごめん……。疲れて聞いてなかった……」

「なんで聞いてねーんだよ!」

「もう1回喋ってくれる?」

「しゃーねーな、わかったよ。あたしは『白い部屋』って施設でバッツ教官に……」

「最初っから!?もう良いって!」


この調子なら明日になるって!?


「どうだった、明智。あたしの人生の全てを聞いて……?大変だなって理解してくれたよな……?」

「ターザンさんが気になって、まったく話が入ってこなかった」

「ざっけんなよ、てめっ!」


原作で読みまくった話をヨルの口から聞かされるのは、知っている授業の内容を再び聞いている気分になった。

あと、ヨルのかまってちゃんな性格がなぜか俺にまで発動している気がした。

そんな1日だった。















次回、11章終了。

11章のほとんどが秀頼の出番がなかったので、しばらくは出ずっぱりになる予定です。

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