38、『悲しみの連鎖』ヨル
「この曲好きだ……。なんか、魂が揺すぶられて、永遠に聞いていられる……」
「それは良かったよ」
タケルが嬉しそうに微笑む。
全然音楽とか興味ないけど、世界にこんな素晴らしいものがあったんだなという感動が心の底から沸き上がる。
きっと歌っている人は、心が澄んでいてキレイな人なんだと思う。
「スターチャイルドだっけ?声だけであたしは癒されるな」
「そっか。……スターって星って意味なんだ」
「?」
「星は夜じゃないと輝けない。だから、そんな名前を君に与えたい」
「名前……?」
「いつまでも数字では可哀想だしね。どうかな?」
番長ことディオはそのままの名前で良いと言っていた話をしつつ、あたしにはきちんとした名前を与えたいとタケルは真剣な声で話す。
スピーカーから流れるスターチャイルドに関連した名前だからか、気持ちが高揚する。
「ふふっ……。そういえば月も夜じゃないと輝けないな」
タケルは儚い声で独り言を呟く。
「それでどうかな?」と聞かれ、あたしは真っ先に頷く。
「じゃあ、君はこれからヨル・ヒルだ。よし、決まりだ」
「ひ、ヒルはどこから……?」
普通なら朝・昼・夜だからヒル・ヨルとかならわかるんだけど、なぜ最初にヨルなのか。
そう考えるとタケルから驚きの告白をされる。
「君のギフト。悠久先生は覚醒してないって話だけど、そんなことない。1回きりだが時間を戻れるギフトらしいんだ。だから時間を逆境する意味を込めてヨル・ヒルと名付けた。どうかな?」
「え?あたし、もうギフトあんの!?」
「俺はヨルを信じたい。それはかなりの危険なギフトだ。だから必ず俺と悠久に話をしてからギフトを使って欲しい……」
そもそもあたしはギフトの使い方なんかわからない。
それに、タケルと別れたくない。
だから、そんなギフトを使うことになんかならないはずだ。
絶対に……。
「詳しい話は後からする」と言われつつ、タケルは車を停止させる。
どうやら目的地にたどり着いたみたいである。
「ここは?」と聞くと、「墓地」と返事がくる。
車を降りたタケルに付いて行き、その墓地内を歩いていく。
「ここには俺の親友が眠っていてね。ちょっと報告しに来たんだ」
「親友……?」
「まったく、変な供え物多すぎ……。お前、世間から嫌われまくっているのに信者多すぎ……」
タケルが苦笑いしながら、ロウソクを取り出す。
そこに火を付けて、タケルが拝むように手を合わせる。
「お前のギフト研究データを悪用していた『白い部屋』は滅亡した。俺の命ある限り、悪用する奴全員ぶっ飛ばしてやるからな」
「ギフト研究データ……。まさか……?」
「そうだ。ヨルを酷い目に合わせていたホワイト博士が崇拝していた明智秀頼の墓だ。……秀頼の研究データが何年も君を苦しめていた……」
お前が明智秀頼というのか……。
タケルに想われている癖に、散々悪いことをやってきた悪人……。
出来ることなら、あたしがお前を殺してやりたいよ……。
不可能な怒りがあたしを支配する。
「お前が怒るのわかるよ……。許してやって欲しいとか言わない。だから、ヨルには幸せになって欲しい……」
「なら、あたしはタケルを手伝いたい!ターザンさんや悠久みたいに悪さする奴をぶっ飛ばしてやりたい!あたしも正義の味方になるっ!」
「ヨル……。俺は、君には普通の人生を送ってもらいたい」
「今更、そんなの無理だよ。ホワイト博士やバッツ教官、明智秀頼みたいな悪い奴を成敗してやりたい」
「…………」
聞いているか明智秀頼!
あたしはタケルみたいになる!
お前みたいな悪人を許さない!
「わかった……。ただ、覚えていてほしい」
「何を……?」
タケルは悲しい顔であたしに抱き付いてくる。
「俺も悪人だ。俺は正義の味方なんかじゃない。……この道は辛くて出会いはないのに、別ればっかり続き、悲しみが連鎖していく心が潰れることばかりだ。そして、歩みを止めるのすら許されない……。だから、ヨル。……お前に悲しみの連鎖を断ち切って欲しい」
「『悲しみの連鎖を断ち切り』……?」
「あぁ……。俺ももう、長くないから……。多分、いつか殺される。だからこれを君に託す」
抱き付くのをやめると、タケルは首元にあるペンダントをあたしの手に乗せる。
タケルの期待。
タケルの後悔。
タケルの全て。
それが全部乗っていて、重い。
軽いのに、重い。
「これは、持ち主の『想い』に反応してナイフに変わる世界で1つだけのペンダントだ。彼女が死んだ後も、彼女のギフトが宿っている『想い』の籠った俺の大事なモノだ。それを君に与える」
「『想い』が籠った……」
「……俺はギフトを無効化する『アンチギフト』を持っている。オンオフを切り替えることが出来るんだが、ヨルがいる間はギフトを使えないようにオンにしてなきゃならない。だから、もうこれは俺に使いこなせない。ヨルの身を守るお守りだ」
あたしが勝手にギフトを使って時間を戻せないようにする意味があるのを察する。
だから、悠久はタケルにあたしを引き取らせたのだと察した。
タケルの『想い』に応えたい。
それだけで身体が動きだし、首にペンダントを付けた。
「タケル……。これをタケルに託した『彼女』の名前を教えて欲しい……」
「アリアだ」
「アリア……」
「本名は、アリア・ファン・レースト」
「アリアなんとか……?」
「ファン・レースト!」
タケルの突っ込みが静かな墓地に響いたのであった……。
†
タケルは色々言ってますが、自分と秀頼の名前が入っている名前を授けたかったんですね。
Q.
第91部分 47、宮村永遠(ハッピーエンド)
こちらにて、
秀頼の墓には誰もお参りに来ないと表現していたのに、こちらには信者とかお参り来てるやん!
矛盾やー!矛盾やー!
A.
あくまで秀頼の信者はギフト信者ばかりです。
そのギフト信者が験担ぎにお参りに来ます。
そのギフト信者が慕うのは、あくまで秀頼が残したギフトの研究データが素晴らしかったからです。
よって、原作の世界の未来はギフト信者の勢力が弱い。
だからタケルや円、和くらいしかお参りに来ません。
因みに、ギフト狩りの勢力はこの世界より強くなります。
本日、限定公開近況ノートにて
2、明智秀頼はコントロール出来ない
を公開しました。
週1の週末に公開予定です。
次回、過去編終了。
本日、19時にもう1ページ公開します。
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