40、ヨル・ヒルは信頼する

「なんであたしの話聞かねーんだよ!」

「ははっ……」

「何笑ってんだよ?」


やっぱりこうじゃないとな、とヨルを知るからこそうんうんと頷く。


「やっぱりヨルに辛気くさい顔とか辛い声とか似合わないって。そういうのがヨルらしいなって」


ヨルの声優さんは辛い演技をしていたわけだけど、こっちのヨルは違う。

本当に大事な人を失い、復讐に囚われている。

そんな姿は、面白がって見たいものでは断じてなかった。


「は?なんだよ、急に?」

「お前が死ぬほど絶望している声なんか俺聞きたくないもん。かなり強気で、偉そうにしながら楽しそうに料理している姿が本当のヨルだよ」

「んだよ、それ……」


ヨルが赤い顔をしながら俺から顔を反らすように下を向く。

こんな風にたまに女っぽい仕草になるのがヨルの可愛いところなんだよね。


「復讐やめろとか、そういうこと言うつもりは一切ないんだけど……、ヨルの好きなようにすれば良いんじゃないかな」

「あたしの好きなように……?」

「あぁ。まぁ、確かにギフト狩りはやべぇ奴らだけどさ、気負い過ぎんなよ。頼れるとこを他の仲間に頼ってさ、力抜いていこうぜ」

「他の仲間を頼る……。確かにそうなのかもな」


俺、原作知っているから先の展開わかるもん!

セカンドシーズンにおけるヨルルートはタケルと協力してギフト狩りをとっちめる内容になる。

つまり、原作の流れとして、ファーストでヨルの過去明かし、セカンドでギフト狩り討伐、ファイナルで元凶の概念さん討伐と繋がっていく。

無能であれ腐っても主人公のタケル君だ!

大抵のことはなんとかしてくれるド●えもんみたいな奴である。


俺はヘイトを溜めないように傍観者気取りながらギャルゲーをする。

でしゃばらないことで死亡フラグ回避!

そうすることで原作秀頼みたいに死なずに済む!

ギフト研究データとか、作ったことないし狙われる心配なし!

いや、最高のルートだよ。

このままセカンド以降から完全空気になる理沙や永遠ちゃんみたいに『悲しみの連鎖を断ち切り』からすーっと退場させていただくぜっ!

完璧な計画だっ!


普通のギャルゲーとは所詮、主人公が攻略ヒロインのルートに行くと、親友役や他のヒロインは空気化する。

酷いゲームは共通ルートしか登場しないキャラクターだっている。

300以上のギャルゲーをしてきた俺に死角なし。


「じゃあ、明智」

「ん?」

「お前にも、頼って良いか……?」

「…………良いよ」


あれ?

え?

俺、巻き込まれるの?

てっきりゆりかやタケルとかあの辺を頼るように説得していたはずがなぜか俺を頼られた……。


しかし、この流れで断れば格好悪い。

だから頷いちゃったけどさ……。

自ら死亡フラグに巻き込まれる真似しちゃった……。


見栄のせいで、俺は死ぬのかもしれない。


「あと、明智。お前はあたしがいた世界の明智ともはや完全に別人だよな?」

「まぁね……。うん。そうだね」

「そっか。なら、あたしはお前を恨む必要なんかねーんだな」

「いや、まぁ、そうかもだけど……。理由聞かねーの?」

「未来から来たあたしみてぇに面倒な事情があるんだろ。今日はもう時間もないし、お前が話すつもりもないみたいだし別にいーや」

「でも、俺はお前の話聞いちゃったし……」

「あたしが一方的に明智を信頼したかったからだし。あたしが好きなようにしろって言ったのお前じゃん」

「う……。わかったよ」


俺の語ったことを出されたら言い返しは出来ない。

ヨルが廃墟から出るように歩きだしたので、俺もそれについて行く。


「明智、あたしもお前から信頼される人になるからさ、そん時にお前の話もしてくれよ」


ヨルが拳を俺に向けてくる。

『信じてる』と告げられたみたいだった。

だから俺も拳を突き出し、ヨルの拳に当てる。


「俺の話聞くと驚くぞ」

「けらけらけら。あたしの話聞いた奴がもっと変わった話するってか」

「そうかもね」


モニターの向こう側から来たとか、ハッキリ言って意味わかんない話である。

まぁ、いつかヨルにも、みんなにも語ることになるかもしれない。








─────






明るい部屋の中。

銀色のペンダントを首に掲げている1人の少女は優雅に紅茶を楽しんでいた。

特にすることもなく、ただただ寛いでいた。

そんな時に、トントンと扉を叩く音がする。

「どうぞ」と少女が促すと、ノックしてきた女性は部屋に入ってくる。

その顔付きは、今すぐにでも彼女に話があるというのを物語っていた。


「アリア様。アリア様の来年の第5ギフトアカデミーへの転入のお手続きが完了しました」

「……そう」


アリア様と呼ばれた少女は真剣な顔付きで紅茶をテーブルの上に置くと女性に向き直る。


「もう!今はわたししか居ないのに気を遣う必要はないでしょ!」


プリプリと怒ったような声を少女が上げると、女性は「う、うむ……」と困ったように苦笑いを浮かべる。


「まったく……。普段は仮面を被った立派な騎士様なのに、なんでわたし相手になるとポンコツになるのよアイリ!」


正確には仮面を外し、アリアと2人っきりになるとという意味だ。

アイリと呼ばれた長い金髪の女性すらなんでなのかわからなく、言葉に困っていた。


「と、とりあえずアリアの転入は決まった!それだけだ」

「そう。ありがとう、アイリ」


学校などの日常において自分と付きっきりになっている姉に対し、妹の少女はお礼を述べる。

そして、アイリと呼ばれた女性はアリアに聞きたかった質問をするべく口を開く。


「しかし、アリアは虐めを受けているわけもなく、人付き合いも悪くない。別に転入なんてする必要はどこにもないだろう?」

「第5ギフトアカデミー。明らかにきなくさいわ……。年々、こんなに行方不明者が多いのは見過ごせない。……何か悪い陰謀が渦巻いているはずよ」


クリーム色の髪をかき上げながらアリアは姉に対し、「絶対に何か変!だからわたし自らが確認しに行くの!」と宣言する。


「しかし、それはアリアには危険かもしれない」

「だからわたしの矛であり、盾でもあるあなたが一緒に居るんでしょ、仮面の騎士様」

「そ、それはそうだが……」

「あなたは泣く子も黙る騎士、アイリーン・ファン・レーストでしょ。わたしとアイリはいつも一心同体。だから大丈夫よ」


そう言ってアリアは胸を張る。

妹であるワガママにやれやれとアイリはため息を吐いた。


(しかし、まさか第5ギフトアカデミーの生徒の情報を洗っていると懐かしい名前が出てくるとはな……)


アイリは3年前に出会っていた1人の少年を思い出す。

そして彼の過去も炙りだすと、ギフト所持者の1番最初の殺人事件を犯した男が父親というのも判明していた。


(アリアの障害になるのであれば、斬るだけだ……)


妹を守るため。

アイリの目は彼女を妹としてだけでなく、守るべき主人として見つめていた。















アイリーンなんとかさんがそんなにシリアスになるわけがない!


早くアリアとか話に絡めたい……。





11章、完結です。

ありがとうございました!


いつもやっている登場人物紹介ですが、過去編で散々やったので今回はスキップします。



浅井千姫や岬麻衣などの紹介ページは別の機会に作成します。




次回からは、秀頼の日常やイチャイチャしたいと思います。

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