37、『悲しみの連鎖』大人
「ごめんねぇ、タケル。残らせちゃって」
「いえ。……その様子だと彼女は既にギフトを所持していた段階ですね。……彼女を引き渡しますよ」
トゥリスと数字で呼ばれた子を部屋から追い出すと、悠久は申し訳そうに話を切り出す。
タケルもわかっていると頷きながら、トゥリスをどうやって説得しようか考える。
自分を父親のような目で見ている彼女に何を言おうと、これまでの人生で繰り広げてきたやり取りを思い返す。
自分がマンションで妹と2人きりで生活することになる直前、両親はなんて言っていただろうか?と中学時代までタケルは記憶を遡っていた。
「正直、野放しにするのも危険でね」
「野放し?だから悠久先生が他の子と同じように管理するんじゃ……」
悠久が管理している子供だけを集めた孤児院が存在する。
管理といってもパトロンみたいなものである。
そして『白い部屋』と違い、きちんと合法の元に運営されている。
子供をお金で買い取るという非合法とは無縁である。
「彼女のギフト能力がかなり特殊で危険だわ」
「?」
「『1回限り、自分が生まれてくる前の時間に行く』ギフト」
「なんだよそれ……?」
1回だけの制限があるギフトなどお互いはじめて見る事例だった。
しかもその能力は、ほぼ全ての人が望むであろう時間遡行。
何から何まで例外だらけのギフト。
「世界のバグね。もし、ギフトを配る神様が存在するなら何かしらの悪意を感じるわ……」
「…………」
秀頼のレポートにも出てくる神様の存在。
でも、あいつがあの資料に嘘なんか書くわけがないと変な信頼をタケルは向けているし、実際に存在しているんだと考えていた。
「だから……、アンチ持ちのあなたが彼女の監視役になり、防波堤になりなさい。ギフト能力を彼女に教えるかもタケルの判断に任せます」
「…………」
「彼女がギフトを使うことを望んだなら、必ずわたくしのところに向かわせなさい」
「……ギフトを使うなとは言わないんですね」
「わたくしやタケルが好き勝手にギフトを使っている大人がそれを引き止める資格なんかないんですよ」
悠久は自虐的に引き離す言い方をする。
タケルは、「参ったな……」と世界を変えるスイッチになった彼女について考え、お腹が痛くなってきた。
「とりあえず、あの子がタケルに懐いているのは嬉しい誤算だったわお父さん」
「だーかーらぁ!」
意地悪に微笑む先生を言葉で打ち切りにする。
それでもクスクスと笑っている。
タケルはこほんと咳払いをし、気分を落ち着かせる。
「大人って嫌よね。隠し事、隠し事、隠し事ってさ。隠し事ばっかり」
「…………そうですね」
秀頼は子供の時から隠し事ばっかりだったんだなって考えると、悠久の言葉が突き刺さる。
あいつは、俺らがガキの時から大人だったのだろうか……?
秀頼が罪のない人をギフトで殺していた日、俺は秀頼と遊んでいた日もあったかもしれない。
秀頼を理解したつもりだったのに、何もわからない。
「……あいつは常に隠し事をしていてどんな気分だったんだろ?」
「え?」
「あっ……、すいません。なんでもないです」
今はもう、確かめる手段なんかないのだ。
それをトゥリスならギフトを使うと確かめられるのかもしれない。
あぁ、……そんな打算的なことを考えるなんて嫌な大人だ。
タケルは銀色のペンダントを強く握る。
すると角が掌に当たり、慰めの痛みが走る。
アリアが引き止めてくれている気持ちになり、また落ち込んだ。
トゥリスを過去に送ったところで、こちらに戻る手段がない。
(俺に確かめる手段はないな……)と、気付き悠久に背中を向けてあの子の待つ部屋へ向かった。
─────
「そこでターザンがターザンバックブリーカーをして背骨を折り敵を仕留めた。まさか23歳にして4度目のデスゲームに巻き込まれるとは思わなんだ。デスゲームマンガが流行ってるからと、現実でデスゲームをやるのはとち狂ってるぜ」
「おー!ターザンさん、凄い!」
悠久とタケルの話を終えて、隣の部屋に行くと待ち構えていたターザンさんが待ち受けていた。
昨日の印象から怖そうな人のイメージがあったけど、色々会話をしてその印象が和らいだ。
ターザンさんが若い時に行われたという『村の生贄サバイバルゲーム』という話は、興奮しっぱなしであった。
「アドレナリンがドッバドバだな!相手は鎌を持っているのにターザンは丸腰。ヤバいと思いつつワンパンを放つと男は鎌を落としてターザン無双で撃退だ!そして、主催者のジジイとターザンが最後の対峙をし、ターザンを滝坪に突き落として生贄にしようとしたところを華麗に回避!そのままジジイは勢い付いたまま滝坪に落ちていった。23人の犠牲者が出た『村の生贄サバイバルゲーム』は悲しい幕引きとなった……」
「か、かっけぇ……」
「7度デスゲームに巻き込まれなければ人間とは言わぬ」
「次、無断欠勤したら有給使わせねーぞ」
「UQ……?」
ターザンさんの武勇伝で場が暖まっていたところにタケルが帰ってきた。
かなり砕けた口調が、付き合いの長さを伺える。
「こ、コマルぜタケルゥ!ターザンダッテ巻き込まれたくてデスゲームにサンカしてんじゃネーヨ?」
「急に片言になるなよ。調子悪くなるとすぐジャパン語を理解出来ない外人を演じる……」
そう言うと「メンゴメンゴ」と頭をペコペコ下げていた。
頭の上がらないターザンさんを見て、タケルが頼もしく見える。
「本格的に君を引き取ることになった。とりあえず行くぞ」
「うん!」
タケルが付いて来いとジェスチャーをするのでターザンさんから離れてタケルの側に行く。
「あれ?先生が許可したのか?」
「まぁな。詳しい話は悠久先生に聞いてくれ」
「うっす!」
タケルの話にそうやって頷き、悠久がいた部屋に歩いていった。
あたしはタケルに連れられて行き、また車に乗せられる。
それからどこかに向かうように車を走らせる。
「テレビとかわかるか?」
「うん!テレビはわかる!」
「カーナビでテレビ見れるから好きにして良いぞ」
そうやって促されるも、見たことない番組ばかりで何が面白いのかわからない。
いつも淡々としたニュースしか見たことなかったから馴染みがない。
「あ、この人毎日出てる人だ。これだけわかります!」
「NHJしか知らないのか……」
「明日晴れみたいですね!」
いつも食堂で付いているテレビを車で見るのは違和感が凄い。
ただ、既に変な懐かしさがあった。
「やっぱりテレビ消そう……」
「あ……」
NHJ全国ニュースをぶつっと切られてしまう。
それからピコピコとカーナビを操作する。
すると、スピーカーからは明るくてテンポの良い音楽が流れてくる。
聞いたことがない音だけど、魂が好きだと叫んでいる。
「何これ?」と聞くと、タケルがニヤリと笑う。
「スターチャイルドだ!」
嬉しそうな声でその名前を出した。
「何を隠そう。俺の一生の推しだ」
「はぁ……」
音楽に対する高過ぎる熱意にちょっとだけ引いてしまうのであった……。
†
タケル君、秀頼がいなくて常に顔が曇ってる……。
Q.
どうやって悠久は『アンチギフト』であるタケルのギフトを知ったの?
まさか、タケルにもギフトが効いてしまったと矛盾を言い張るのか……?
A.
ギフト持ちには『~~の効果を持つ』など表示され(『命令支配』、『エナジードレイン』など個人で勝手に付けた名前は出ない)、
普通の人は『ギフト非所持』と出るのに対し、
タケルにはまったく悠久のギフトが発生しなかったためにその原因を考えたらギフト無効化が思い付いたから。
簡易的な登場人物紹介。
スターチャイルド
通称・スタチャ。
とある理由から干されてしまい失踪したアイドル。
世間では『偽りのアイドル』として、悪い意味で有名になった。
現在は、消息不明であり、生死すら明らかではない。
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