36、『悲しみの連鎖』悠久

あたしが目を覚ますと、見慣れない天井が目に入る。

キョロキョロ見渡すと本やテレビなどが置かれている。

本当にタケルの部屋なんだ……。


目を擦りながら、あの施設を抜け出せたんだという実感が沸いてくる。

そのままベッドから起き上がると、ソファーの上で眠っているタケルを発見した。


「みつき……」


近寄ってみると魘されているのか、目の端に涙を浮かべている。

起きている間は抱え込んでいるのを我慢している男だ。

だから、仲間や友達との感傷に浸れるのは自分の部屋だけなのだろう。

タケルの手を握る。

暖かい体温が冷たいあたしの手の温度を上昇させるみたいだった。


「…………ん?」

「あ……。ご、ごめん。起こしちゃった……」

「大丈夫だよ。そろそろ起きる時間だから。……それに夢が辛かったからさ。起こしてくれてありがとう」

「タケル……。辛そうだよ……」


タケルが涙を拭きながらお礼を言う。

「いつも誰かしらが夢に出てきて、魘されたり、悲しくなる……。過去に戻りたいって思う」とボソッと呟く。


「…………でも、タケルが過去に行ったらあたしはまだ施設に」

「そうだったな、ごめんよ。そしたら、俺と一緒に過去に行くか。…………俺と一緒に高校時代に戻るんだ」

「高校時代?」

「すっげぇ楽しかったんだよ!色んな奴と遊んでバカやったよ!秀頼に理沙に美月に乙葉に碧にアリアに……。ごめん、なんでもない……」


タケルは最初こそ楽しそうだったが、人の名前を出してからはどんどん目が悲しみに染まっていった。

もしかしたら、今出た名前の人は全員死に別れたのかもしれない……。


「よし、切り替えだ!」


そう言って、彼は両手で自分の頬を2回ほど叩く。

気合いを入れたのか、目が男らしくなった。

それからてきぱきと朝の準備をこなしていく。


寝起きから2時間後には車に乗せられていた。

その運転で、表向きは雑居ビルながら本当の姿はレジスタンスの基地になっているという場所に連れられる。

タケルが複数回認証という形をするほど厳重だ。


ホワイト博士が前に『悪いことをしている人ほどセキュリティは厳重なのだよ』と言っていたことを思い出す。

『白い部屋』も、あたしら子供たちか、スタッフ以外は立入出来ないくらいに厳重なセキュリティだった。

番人の助けがあってこそのタケルやターザンさんらの侵入だったのだろう。

そう考えると番人が一応、あたしとタケルを引き合わせてくれた救世主といっても過言ではない。


「じゃあ今から悠久先生と会うからな」とタケルに耳打ちされ、背筋をピンと伸ばす。

あたしには緊張が走るも、タケルはお構い無く歩くのでそれに必死に離れないようにする。


「失礼します、悠久先生」

「おぉー、来たかタケル」


少し老けた感じの女性がタケルを出迎える。

優しそうな雰囲気であり、トップのホワイト博士とは雲泥の差に思える。

失礼ながら、あれくらい頭が逝っている人を想像していたので、まともそうな人で安心する。


「んで、そっちがディオ君が言っていたトゥリスちゃんだね。はじめまして」

「はじめまして……」

「わたくしの名前は近城悠久ちかしろゆうきゅう。どこまでも壮大に生きる女よ」

「UQ……」

「UQじゃなくて悠久よ!ゆ・う・きゅ・う!」


UQがコードネームだと思っていたら、本当に人の名前のようであった。


「先生、いつもそれ言ってますね」

「生き方も壮大に。散る時も壮大に死にたいものだわ」


良い年したおばさんがなんか子供染みたことを言っていて、圧倒される。

タケルは慣れたように悠久と話をしている。


「先生ってなんですか?」

「あぁ。俺の高校時代の理事長先生だったんだよ。反ギフト運動が高まりギフトアカデミーは全部崩壊してしまったんだよ。だから理事長先生から転職してレジスタンスになったんだ」

「生徒と20年の付き合いがあって、先生嬉しいわ」

「だから先生の教え子とかがレジスタンスに多いんだよ。ターザンとかね」


昨日のグラサン筋肉男とタケルが仲良く見えるのは学校が同じだったからなのかと理解する。

学校の先生からレジスタンスになったのがよくわからないが、深い事情がありそうだ。

当然タケルより悠久の方が年上なんだろうが、かなり若そうな見た目をしている。

タケルに近い40代くらいにすら見えてくる(タケルの年齢は38歳だというのを昨日聞いた)。


「君のことはディオ君から聞いたけど、『アーティフィシャルギフト』なんだって。凄いわね」

「いえ、普通です……」

「美月ちゃんと同じか……。いや、惜しいね。彼女とも意気投合が出来たかもしれないのに」


悠久はそう言いながらあたしに近付いてくる。


「『アーティフィシャルギフト』。ギフト陰性者を無理矢理ギフト陽性にし、他ギフト所持者よりも強力なギフトを覚醒する可能性があるのは知ってるよね」

「は、はい!」


悠久が真面目な顔になり、低い声で語りかける。

説明するのが上手で流石先生だとホワイト博士やバッツ教官よりも知的に見える。


「じゃあここで君がギフトを覚醒しているかどうか確認させてもらうよ」

「他の子はみんな確認しているから危険なことは何もないよ」

「わかりました……」


タケルが『危険なことは何もない』と言い切った言葉を信じ、あたしは頷く。

「ありがとう」と悠久が頷くと、じっとあたしの顔を覗き込む。

いきなり初対面の人から顔をじろじろ見られるのは恥ずかしいな、なんて考えていると悠久があたしから目を離す。


「…………君は何もギフトは覚醒してないよ」

「そ、そうなんですか?」


何でそれを確信したんだろうと疑問を持つと、横からタケルが「悠久先生は『人の顔を合わせるとその相手が所持しているギフトがわかる』んだよ」と解説してくれた。


「じゃあちょっとタケルと打ち合わせがあるから君は隣の部屋で待機してもらって良いかな?」

「お別れやだ……」

「大丈夫だ。すぐ行くよ」


タケルのズボンにしがみつくが、頭を撫でて「悠久先生の言うこと聞いて」と優しく言うので渋々手を離す。


「早く来てねお父さん……」

「おと……!?」

「ば、バカ……」

「?」


ミャクドナルドで『タケルと呼ぶな』と言われていたからてっきり2人きりの時以外はお父さんと呼ばなくてはいけないのかと思っていたらそうでもないらしく彼は慌てていた。


「タケルくぅん……。美月ちゃんがいなくなって早速手出したぁ?」

「違います!昨日ミャクドナルド行った時……」

「あ、生徒のパパ活報告要らないっす」

「パパ活と間違われないようにしていたのに引き金になった!?」


悠久に責められ、慌てたタケルが饒舌にしていた。

タケルから「早く!」と言われたので、早歩きでこの部屋を飛び出したのであった。


















第5ギフトアカデミーばかり話題になり、他校は全く話題にならない世界……。

第4ギフトアカデミーだけ、美月が通うことになっていたかもしれないくらいしか設定はありません。

今後掘り下げるかはガチで未定。






簡易的な登場人物紹介。


亡くなったタケルの高校時代の女友達。

名前すら上がらなかった絵美や遥香より仲が良いと思われる。


近城悠久

壮大に生きる女。

第5ギフトアカデミーの学園長からレジスタンスのトップに転職した。

クズゲスにも存在するし、なんなら原作キャラクター(ターザンは原作に登場せず、戦友の男扱い)。

因みに世界最強のシスコンからは『バカみたいなことを言う女(笑)』と認識されている。

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