35、『悲しみの連鎖』食事

「こないだ理沙が亡くなって、美月も亡くなったのか……。なぁ、秀頼?…………一体いつになったら俺は死ねるんだ……?いつになったら俺の番が……」

「タケル!あの黄色いの何!?あれ何!?」

「…………ミャクドナルド」

「ミャクドナルド!?ミャクドナルドって何!?」

「……ハンバーガー屋」

「ハンバーガー!?ハンバーガーって何!?」

「…………もう少し落ち着かせて、浸らせてくれねーかな……」

「ハンバーガーって何ぃ!?なにぃぃ!?」

「…………」


あたしはタケルが運転する車に乗せられていた。

2人っきりになり、タケルがハンドルとかいう丸いやつを握っていて、その隣にあたしはシートベルトを付けさせられていた。

「タケルの車ベンツ!?」って聞いたら、「俺の心ではベンツだけど、実際はレクサスって言うらしいよ。心ではベンツだけど!」とちょっと誤魔化す言い方をしていた。

あたしはお母さんの手紙…………じゃなかったんだった……。

ホワイト博士が書いていた偽の手紙に書いていたベンツしか知らなかった。

ベンツってなんだろ?

イメージとニュアンス的に青いサファイア色の車のイメージだ。


「ハンバーガーってのはパンとパンの間に肉とか野菜とか挟まっている食べ物なんだよ」

「チョコチップパンより美味しい!?」

「……チョコチップパン?」

「あたしの1番の大好物です!施設で1番美味しかった食事です!」


そもそもパンに肉に挟まれているイメージがない。

肉っていうと、サラダに入っているぶよっとして美味しいチキンが浮かぶ。

パンとチキンを融合してどうなるのか、施設の田中リーダーの食事では出したことがないと思う。


「…………腹減ったから行ってみるか」


そう言うとタケルは車をぐるっと1周させて先ほど通った道を引き返す。

そこからミャクドナルドという建物の近くに車を停めて、「行くぞ」と促される。


「あと、建物の中ではタケルじゃなくてお父さんって呼んでくれ」

「タケル?」

「お父さん。不審者とかエンコーとかパパ活とか思われるだろ。お父さん、な?」

「わ、わかった!お、お父さん!」

「よく出来たな」


タケルが嬉しそうな声で褒めて、手を出してきた。

…………?

拷問しろってこと?


「あー、初対面の子供に何言わせてんだ俺……。ほら、行くぞ」

「う、うん」


タケルがあたしの手を握り、ミャクドナルドと呼んでいた建物に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませー」と挨拶する人が2人ほど立っていた。

タケルが設置されていた霧吹きみたいなやつから液体を出し、手を擦っていた。

「消毒だ。ほら、君も」と促されて、見よう見まねで液体を手に付けた。

すぐに液体は手から消えて、なにこれ!?って驚きそうになる。


「メニューだ。どれが良い?」

「えっと……」


たくさんのハンバーガーとかいうやつが並んでいる表を見せられて迷ってしまう。

テキトーに手を伸ばし「これ?」って聞くと、「いや、それエビフィレオじゃん。肉じゃないよ」と言われる。


「じゃあタケ……お父さんと同じの……」

「……ビッグミャックセット。飲み物はコーラ2つ」


タケ、と言った瞬間眉毛がピクッと動き、慌ててお父さんと言い直す。

そしてタケルが財布を開き、お金を支払う。

大金である1000円札を2枚出し、金持ち!とちょっと彼を見直した。


「夜遅いからか、あんまり客もいねーな」


施設での3食ぶんくらいの量がある夕飯をお盆で運び、椅子が2つ向かい合う席の奥にタケルが座り、あたしも手前側に椅子に腰掛けた。


「じゃあ、飯にすっか!いただきます!」

「いただきます……」


タケルが箱を開けるとメニュー表に描かれていたビッグミャックがそこにぎっしりと入っていた。

何これ!?と叫びそうになった。

あたしも箱を開けると、彼と同じハンバーガーが入っていた。

崩れそうになりながらも持ち上げて、行儀悪いと思いながらかじり付く。


「う、うめぇぇぇ!うめぇよ、お父さん!」

「そりゃあ良かったよ」

「炭水化物に野菜、肉が一口で味わえるとか……。神かよ……。めっちゃ身体に良い食べ物に違いない」

「……あはは」


タケルが気まずそうに笑う。

もしかして大声出しちゃって驚かせてしまっただろうか?


「明日、俺の報告があるから一緒に付いて来てもらい悠久先生に会うことになるからな」

「UQ先生?」


なんかのコードネームだろうか?


「俺たちレジスタンスのトップだよ。君以外の子供たちはみんな本日中に先生に会っているんだよ」

「トップ?お父さんはリーダーじゃないの?」

「俺はリーダーだけどトップじゃないよ。俺なんか、所詮いつでも切り捨てられるただのトカゲの尻尾だよ」

「ポテトおいしー!」

「興味なしかよ」


はじめてポテトを食べたんだけど、塩とイモの絶妙な味に感動してしまう。

タケルとなんか話していたけど、全部忘れるくらいだ。

それからミャクドナルドでコーラの味にも感動しつつ、人生で1番美味しかった食事を終えた。

その後に、タケルが住んでいるというマンションにお邪魔させてもらい風呂に入って、ベッドで眠ることになる。

こんな日が続けば良いのに……、とタケルに会ってからが楽しくて仕方なかった。

目を瞑ってしまえばタケルが消えてしまうんじゃないかと不安になり、一生起き続けたままにしたかったけど睡魔には敵わずに深い深い眠りに落ちてしまった……。












ヨルがタケルに向ける好きは恋愛感情より親としての親愛の好きに近い感情です。

それは、クズゲスのタケルに対しても同様です。

一時的だけだったとはいえ、ヨルが秀頼を脅したせいで、タケルから敵視されてしまったヨルは気の毒でしたね……。



レジスタンスタケルは本来、身体を鍛えているのであまり甘い飲み物を飲みませんが、トゥリス(ヨル)に合わせてコーラを頼んでいます。

(『お父さんと同じの』とヨルが言ったから、彼女が好きそうなものに合わせた)


『悲しみの連鎖を断ち切り』のヨル・ヒルのプロフィールにて、好きな食べ物としてハンバーガーと掲載されている。

因みにタケルの好きな食べ物はつけめん。

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