34、『悲しみの連鎖』信頼

「じゅ、十文字リーダー!」

「どうした?」


タケルは施設の出入口箇所にて仲間に労いの言葉を掛けていたり、捕まったスタッフを連れて来る仲間に「車に連れて行け」など指示を送っていた。

出来る男って感じで、なんか格好良いと思って見ていると、番人くらいの若い男性が息を切らして施設から現れた。

膝がプルプルと震えていて、相当大変なことをしているんだなと観察していた。


「ふ、深森さんが……。深森さんが俺を庇って……。ごめんなさい……、ごめんなさい……」

「美月が……?…………くっ、状況は?」


一瞬呆然としていたタケルだが、すぐに切り替える。

いや、かなり無理をした返答なのはあたしですらわかる。

そんな顔をした子供を、あたしは何十人と見てきたのだがら……。


「紋章付きの子供を解放していた時、バッツが攻めてきて……、俺が不意討ちを食らいそうになり深森さんが庇ってくれて……。バッツと俺が交戦していたらターザンさんが助けてくれて討伐してくれたけど……、深森さんが息をしてなくて……。ごめんなさい、リーダー……。ごめんなさい……」

「…………仕方ない。美月が自分の死に場所をここに選んだんだ。……仕方ないんだよ。俺だって、何回も何回も味方に救われて生き長らえたんだ」


タケルが若い男に責めないように無理した顔で肩を叩いた。

話を聞きながら、バッツ教官が人を殺し、殺されたことを知った。


「女でさ……、もう良い年だし、そんなに体力なんかないだろうに本当に凄い女だったよ美月は……。もし、次の人生なんてものがあるならまた美鈴と双子に産まれてさ……。紋章なんかに縛れず仲の良い姉妹で生きているような人生を……」


タケルが亡くなった人のことを語り涙を流す。

その『ミツキ』って女の人のことはわからないけど、彼の大切な人だったことは伝わってきた。


「他にも鈴木、柴田、横山、塩川、ベベルフィーズ、菊地の6人が亡くなったよ……」

「そうか……。勇敢なる美月や鈴木らの7人に敬礼を……」


サングラス男からの報告を受けたタケルは目を瞑り、辛い顔をしながら涙を流し敬礼をする。

一緒にサングラス男や、番人と同い年くらいの若者も敬礼をした。

…………なんかよくわからないけど、雰囲気的にあたしもタケルに倣い敬礼の姿勢になった。


「…………何やってんだこのちっこいの?」

「?」


サングラス男が突然気の抜けたような声を上げる。

ちっこいのって誰だろう?施設の子供たちかと辺りを探し回る。


「いや、お前だよ!?お前!」

「うわっ!?離せ!?離せグラサン筋肉男!?」

「グラサン筋肉男だとぉ!?」

「っ!?」


あたしの頭を片手で持ち上げ、身体が浮くくらいに力のあるサングラス男が威圧を掛けるようにあたしをジロッと睨んでいる。

黒いレンズが邪魔して、その瞳が見えなく、どんな表情を浮かべているのか確認のしようがなく怖すぎる。

チビりそうと、漏らそうとした時だった。


「見たまんまのターザン評価じゃねーか!ユーモアがたんねぇぜ!筋肉ムキムキだぜぇ!」


そのままあたしを地面に下ろし頭から手を離した。


「ターザン……?」

「ターザンはターザン。ターザン・スルスルスル・メータンだ」

「スルが1個多いだろ。ターザン・スルスル・メータンだろ?自分で名前間違えんなよ」

「Oh……、ジャパン語難しい」

「お前、ペラペラじゃん」


タケルとターザンさんが仲良くベラベラと雑談をはじめた。

なんとなく、ターザンさんが暗くなっているタケルを無理に明るくさせようとしているのが伝わってくる。

タケルもそれにわかってターザンに乗っている。

ただ、その言葉とは裏腹にタケルの拳は何かを叩きつけたい衝動を抑えているのに気付いてしまう。

きっと、あたしが施設で出会った大人の誰より優しいんだと思う。

そんなタケルを信頼したいと、勘が告げていた。


「よし。ギフト狩りが来る前に撤収だ!」と、タケルが手を叩きながら指示するとターザンや若い男性らも動き出す。

タケルがあたしから少し離れた位置でその他の仲間にも仕事を振っている。


みんな、仲間の死亡を引きずっているけど、仕事を優先していた……。

本当はみんな泣きたいだろうに強い人たちだ……。


「オイ、ちっこいの。子供はみんなあの姉ちゃんのところにいる。お前もあっちに行くんだ」

「…………やだ」

「なに?」


ターザンさんが優しそうなお姉さんを指し示す。

確かに何人もの知り合いが集まっている。

あたしとしては複雑な事情を持つ紋章が刻まれた1581番もそこにいた。

ただ、彼に近付きたくないから否定をしたわけじゃない。


「あた、……あたし、タケルの近くにいたい!」

「は!?」


少し離れた位置で指示を出していたタケルの足にしがみついた。

この人が1番信頼出来るとあたしが決めた。


「あたし、タケルから離れたくない!」

「…………え?」


タケルがあたしを見ながら困った声を上げた。

迷惑しているんだろうけど、それでも曲げない。

タケルが履いていたズボンをぎゅっと握った。












簡易的な登場人物紹介


若いレジスタンス男性

美月に庇われた新人。

『白い部屋』殲滅戦が初陣だった。

タケルを慕っている。


鈴木

タケルと付き合いが長かった仲間。

バッツにより殺害された。


柴田

1番槍を自称し、先鋒役を担っていた。

『白い部屋』スタッフに撃たれ戦死。


横山

勘違い系イケメンであり、タケルから距離を置かれていたが、腕前は評価されていた。

地雷の罠にかかり戦死。


塩川

『泥を相手の目に投げ付ける』ギフトの持ち主。

バッツの猛攻により戦死。


ベベルフィーズ

ターザンが母国に戻った際に『声のない暗殺者事件』が勃発していた。

その犯人と真っ向から戦いを挑み、近所にて英雄として祭り上げられた。

その功績を讃えられ、ターザンからスカウトされた。

不意討ちでバッツの攻撃を受けて、頭部を負傷。

そのままバッツに踏まれて戦死した。


菊地

若いレジスタンス男性同様に初陣だった。

田中リーダーが怯える演技に騙され射殺された。


優しそうなお姉さん

非戦闘員。

保護された子供をまとめている。





Q.

4人殺害してるバッツ教官ヤバくね?


A.

やべぇです。

『アイアンボディ』という身体を鋼鉄にするギフトを持っています。

パンチで人を殺せるし、銃をも弾く攻守共に優秀なギフトです。

しかし、ターザンが目は鋼鉄にならない弱点を見抜き、「鋼鉄如きでターザンは倒せない」と言い放ち、目潰しターザンパンチで撃退しました。

その後、ギフトが解かれてしまい若いレジスタンス男性により射殺されました。

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