22、宮村永遠は付けて欲しい

「しかし、この部活はゆりちんの言うとおり可愛い女子の集まりじゃないのー!」


浅井千姫という女子生徒が俺を男に戻すと、もう用済みとばかりに女子である永遠ちゃんや三島、美月らへと視線と感心がいく。

なんたって彼女らは原作のヒロイン勢だぜ!

俺なんか三部作を完全フルコンプするくらいにやり込んだギャルゲーだと思うと鼻が高い。

それにまだ乙葉、茜、アリア、詠美など数人のヒロインが控えているんだ。

来年には星の輝きを放つスターチャイルドだって入学する。

この学校の女子はとにかくレベルが高いんだ!

この程度で興奮していたら学校卒業するくらいになったら死んでるぜ!と声を大にして言いてえ!


「こんなに可愛い女子軍団いるなら部活なんかサボんなかったのにっ……!可愛い後悔!」

「可愛い後悔ってなんですか……?」

「突っ込むだけ無駄だ。千姫の喋りの癖は独特なんだ」


絵美が早速聞いたことのない可愛い狂の言葉に突っ込む。

どんな仲なのかは詳しく知らないが、ゆりかとヨルは至って冷静であった。


「ウチはそういうキャラ作ってるみたいで嫌だな」

「お前も十分独特だぞ」

「…………」


ヨルから真っ正面にブーメランを投げられてしまい、珍しく咲夜がダメージを受けたみたいで無言になった。

「まあまあ」と理沙が咲夜のフォローに行く。

タケルといい十文字兄妹はそんな役回りが多い。


「一応、あたしがこの文芸部の可愛い副部長担当なんだから!浅井千姫ね!可愛いは正義!将来の夢は宇宙中にある可愛い全制覇!」

「まったく意味わかんねーよ」

「可愛いでしょ!」

「いや、頭狂ってるとしか……」

「は?お前を可愛い人形に変化させて川にぶん投げるよ?」

「だから可愛いさの欠片のない煽りをやめろ」


俺は嫌われているのか、他の人物の3割増しで口が悪い。

和は完全に舐めている態度だとするなら、彼女は嫌いだからこの態度のようだ。

「因みに言うことが残虐になるのはよくあることだ。師匠にだけ冷たいからなわけではない」とゆりかが千姫を止めながら解説する。


「まずはお前なんだ!名乗れ!」

「……明智秀頼だよ」

「明智秀頼……。性格が変態で顔が怖ければ、名前も全然可愛くない……」

「男だからね!」

「なんか武士みたいな名前で暑苦しい。あたしと合わないわけだ……」

「お前、本当にムカつくな」


髪をくるくるっと弄りながら「秀頼ねー」と値踏みしてこちらの顔を伺う。


「じゃあ、君はヨリ君!」

「…………は?」

「アダナ!君がヨリ君。ヒデ君も考えたけど、ベタでダサイ」

「ひでぇ……」

「……それで、そっちの君は」


するともう1人の男性であるタケルが指されて、「十文字タケルっす」と圧倒されているのか少し腰が低い彼が名乗る。


「うーん。じゅうじゅう!」

「肉でも焼いてんのか?」

「あんたらさぁ、もっと中性的な名前にして!なんでいかにもな男っぽい名前なのよ!」

「それにしてもじゅうじゅうはやめてくれ……。バカっぽい……」


タケルが本当に嫌そうに顔を手で隠す。

その理論なら理沙もじゅうじゅうである。


「ベタにタケちゃんとか?いや、でもベタか……。やっぱり可愛いしじゅうじゅう……」

「ベタで良いから!じゅうじゅうはやめろ!」


タケルのダサイアダナ回避は出来たらしく、「わかったよ、タケちゃんね」とおざなりに決められる。

それから女性陣と自己紹介をしていく。

するとニュアンスで「エミリー!」、「ハルちん!」と絵美と三島に命名していく。


「私は!私は宮村永遠!可愛いの付けて!」

「みやむらとわ……」


永遠ちゃんが自分のアダナが楽しみといった感じに千姫に近付いていく。

もしかしたら永遠エイエンちゃんの呼び方に喜んでいたし、アダナとか付けられるのが好きな子の可能性がある。


「うーん……。永遠トワちゃん!」

「…………え?」

「可愛いの出なかったの。ごめんね……」

「酷い……」


しょげている永遠ちゃんのところへヨルが「あたしもアダナ無い組なんだ」と同族を励まし(?)ていた。

他にも円には「円ちゃん!」と名前で呼んでいた。


「君はサクサククッキーだ!」

「変なアダナ付けるな。ウチは咲夜だ。どうだ、永遠?こんな変なアダナでも嬉しいか?」

「良いなー……。サクサククッキー、じゅうじゅう、エミリー」

「なんでも良いのか……」


変なアダナで良いから自分のアダナに未練があるらしい永遠ちゃんはアダナ付けられた組を恨めしそうに見ている。

因みに円はどうでも良さそうである。


「でも、私には秀頼さんがいるから良いもん!」

「え、エイエンちゃん!?」

「久し振りですね、秀頼さん!」


永遠ちゃんが腕に抱き付いてきて、顔が近い位置で笑顔を浮かべている。

憧れの人の顔が数センチ先にあって、照れないわけがない。


「ちょっと永遠さん!」

「あぅ……!最近理沙の力強い……」

「引き剥がしのプロですから!」

「…………抱き付けなくて引き剥がしに慣れてしまったのか」


永遠ちゃんが理沙を可哀想な声で哀れんでいた。

そんな感じに盛り上がっている横で千姫の命名大会は繰り広げられていた。

賑やかな部室になってしまったなと笑顔に包まれた彼女らを見て、こんな時間が永遠に続けば良いのにと心から願い、未来の絶望を思いだし、心が痛くなった。

たとえ、一時の平和であってもこの時間は大切にしたかった……。













もう少しでシリアス移行……?





次回、秀頼はヨルに呼ばれる。

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