21、三島遥香は呪われたくない

変態妥協案を一切飲んでくれなかった女子が部室に現れた瞬間に周囲がピリピリする。

シーンとした空気。

そんな静かになった空気を当事者の私が怖そうとした時だった。


「美月さん!もうやめましょうよ!ボクたち呪われちゃいますよ!」

「大丈夫だって。グッド3万押されてるんだし呪われないって」

「なぞりろん……」

「いつまでお姉様と遥香は恐怖体験をしてるんですの!?」


「そろそろイヤホン外して!」と美鈴に急かされて三島は安堵の顔を、美月は物足りなさそうにしている。

彼女らがイヤホンやスマホを片付けている時、ゆりかが全員に宣言する。


「この中に明智を女性にしたギフト使いがいる!」

「な、なんだと!?」

「え?誰ですか?」


美月と三島は『まさかこの中にそんな犯人が!?』といった表情でキョロキョロ辺りを見回している。


「その犯人はお前だ!浅井千姫あさいちひろ!」

「ふっふっふっ!ゆりちん、残念だなぁ!あたしのギフト能力は『男を女にすること』じゃあないんだよ」

「なっ!?」

「真の能力は『なんでも可愛くしちゃうこと』こそに真価がある。ふっ、とんでもないチートなギフトを手にしてしまった……」

「千姫の歪んだ価値観にピッタリ過ぎる能力じゃないか」


『なんでも可愛くしちゃう』ギフトの持ち主、浅井千姫と呼ばれた人物がゆりかの前で得意気になっている。

…………あさいちひろ?

どこだっけ?

なんか最近どっかで似たような名前を聞いた気がする……。

確か……マスターが口にしてたような……。


「おい、パンイチの変態」

「仕方ないでしょ!?びちょびちょに濡れていたんだから!普段はそんな格好してないよ!?」

「う……、俺のせいで……」


タケルがまた罪悪感によりダメージを受けていて、理沙が慰めに入った。


「パ、パンイチ!?」


また、浅井千姫とかいう女性の言葉に絵美が真っ先に反応し、永遠ちゃんや円らがそれに食い付く。


「ど、どんなでした?」

「筋肉あってがっしりで可愛かった」

「パ、パンツの内側とか見えました」

「見たくなかったので、見てないよ」

「ウチらの為に写メったりは?」

「するわけないよ」

「どんなパンツでした?」

「トランクス」

「さっきからみんなして何に食い付いてるの!?」


女性陣らが、秀頼脅迫のための材料集めなのか的確に弱点を探ろうとする。

なんでこんなに秀頼は嫌われてるの……。

ゲームの強制力は好感度をマイナス方向へとぐねぐねとねじ曲げる。


「…………」

「…………タケル」


背中からポンポンと無言で叩かれる。

振り向くとなんとも言えない顔をしたタケルが労るように背中を優しく叩いていたのであった。


「いつになってもお前はみんなに好かれてるな」

「皮肉かなんかか?どう見ても弱点を握ろうとしているじゃねーかよ」

「みんな、秀頼のパンイチ姿に夢中なんだよ」

「くっ、殺せ!」


もう1回死ねば違うギャルゲーに転生出来るだろうか……?

可愛いヒロインとイチャイチャ出来て、童貞をもらってくれる様な男に生まれ直したい……。


「というか千姫。そろそろ彼女を男に戻してやってあげてくれ」

「えー、だってこっちの方が可愛いじゃん」

「可愛いが理由で男に戻さないのか……」

「ぷんぷん!可愛いモノを可愛くないモノに戻すなんて屈辱以外の何モノでもないよ!」


よほど可愛いに執着があるのか彼女は断じて元に戻すつもりはなさそうであった。

頑なに私を視界に入れないようにしている。


「まー、あたしにメリットがあるなら元に戻してあげなくもないけどぉ」

「具体的なメリットの提示は?」

「100万円!」

「ぼったくりじゃねーか!」

「まぁ、嫌なら?一生その可愛い可愛い女の姿で生活すればぁ」

「…………」


困ったなぁ。

本気で100万を支払うか、一生女で生きるかの選択肢を突き付けられる。


「仕方ありませんね。美鈴が100万出します」

「え……?」

「銀行振込で良いですか?」

「待って!待って!」

「だって!だって!頼子様ぁ!」


目がマジになっている美鈴を必死になって止める。

こんなわけわからんことに対して美鈴に100万を支払わせるくらいなら自分で支払う。

そんな恩を受けても返せるモノがない。


「びびった……。100万なんてもらったら税金やばそうだよ……」

「自分で言った癖に何に驚いてんだよ」


発言者自らが1番緊張していて強ばった顔になっていて、私が引き留めていることに安心した表情を浮かべている。


「こうなったら師匠」

「あ?」


ゆりかから耳打ちをされてこそこそとしながら背中を向く。

ゴニョゴニョとゆりかの作戦を聞いていると、中々面白い話をされる。

それと同時に100万を出すよりはマシだし、かといって100万以上の価値のある提案をされる。

許可を出すとゆりかが「では!」と、浅井という女子へ近寄る。


「千姫、良い話がある」

「どうしたのゆりちん?」

「お前、…………スターチャイルドに会いたくないか?」

「会いたい!会いたい!可愛い可愛い可愛いスタチャに会えるなら100万以上の価値があるよ!」

「彼、スタチャとのコネがあるぞ」

「男に戻させてください!」

「…………」


キラキラした目をして、私の手を握り、私が首を縦に振るのを待ち構えている。

『スタチャ!スタチャ!』と目で訴えている。

ゆりかから聞いた面白い話。

それは『千姫がスタチャが大好き』だという情報であった。

まさか星子がゆりかに自分がスタチャだという事実を打ち明けていたことに驚愕したが、それは置いておき、彼女にスタチャを紹介するのは友達になってくれれば良いかと背に腹は変えられなかった。


「……わかったよ。近い内にスタチャに君を紹介するよ」

「やったぁぁぁ!」


私が敗北宣言を告げると、彼女は嬉しそうにゆりかに抱き付いた。

麻衣様の言うとおり、クソ雑魚になんの反論もなく項垂れてしまう。


「嘘だったらお前を一生女にして、『鉄の処女』にぶちこむからな?」

「可愛さの欠片もないんだが。てか嘘じゃねーから安心しろ。この場に居る全員スタチャと知り合いだから」

「な、なんて羨ましい……」

「ヨダレ拭けよ」


「じゃあ今から男に戻しますよ」と言って、彼女が私の前に立つ。


「凄い!ギフトが見れるんですね!」

「ワクワク!ワクワク!」


永遠ちゃんと咲夜は普段からギフトを使えないからか、ギフトを使うことそのものに釘付けになっている。

ギフトを持っていない彼女らは、楽しみで仕方ないのであるのがよく伝わってくる。


「『可愛くなくなっちゃえ!』」


その宣言と共に前回と同様、桃色の光を放つ。

それに当たった途端、頼子の姿は元に戻り秀頼へと戻っていく。


「おー!スゲー!制服まで戻ってる!」


一応、身に付けていた下着を洗濯して、今朝また同じ下着を履いていて良かった……。

おばさんの下着や、買ってきた下着を身に付けていたら男に戻った時に女モノの下着を履いている可能性などを考慮していた。


「あ!そういえばギフトで変わったタオルあげちゃったんだけどそれは元に戻ってる?」

「いや、あたしのギフトをかけてないならギフトがかかったままだよ。因みにあたしの意思でしか元の姿に戻らないから」

「じゃあタケルのタオル女モノのままか。元に戻すか?」

「いや、理沙があのタオル気に入ったからあのままでいいや」

「あのタオル可愛くてもう返したくない!」


理沙が「絶対にタオルは返しません!」と頑固に主張する。


「ま、可愛いは正義だからね!あたしの可愛いセンスは宇宙一なんだから!」


概念さん、こんな濃い奴を部活メンバーにしていたのかと彼女の嗅覚に感心する。

可愛い狂、それが浅井千姫を一言で表すには十分な表現であった……。











次回、千姫はレギュラー入り……?

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