IF、ギフトの存在しない世界:崩壊

三島の手を引っ張りながら、ほぼ無言で歩いて10分。

安心している彼女の顔を見て、よっぽど俺を信頼しきっているのが伝わってくる。

付き合ってなんだが、俺は多分そんなに彼女が好きではないんだと思う。

ただ、彼女が俺に気持ちを向けてくれるのが嬉しくて、照れくさい。

歩く歩幅も小さいので、俺がそれに合わせるように一歩一歩と踏み出す。


「どこか店に入ってなんか飲む?」と尋ねると、「そうですね。ボクはそれで良いですよ」と三島が肯定した。

それから近くにあったファミレスに連れ込み、2人席に通されて向き合う形で座ることになる。


「飲むの決まった?」

「……フロートにしたいのですが、カロリー的に悩み中です。ダイエットコーラフロートとかあれば迷わず選ぶのに……」

「コーラフロートを飲んでいてダイエットとか気にするのか……」


でも三島は身体小さいし、栄養のほとんどが胸に行っているんじゃない?

まるで理沙ちゃんみたい──。

……?

…………理沙って誰だ?


「…………」

「明智さん?」

「あー、なんでもないよ!確かにダイエットコーラとかカロリーオフなバニラアイスとか乗っければカロリー低いフロートなるのになって考えてただけだ!」

「本当ですよ!ボクも常日頃そう考えています」

「いや、もうちょっと考えることあるだろ」


思いだした。

ウチのクラスのタケルと同じ名字の女子だ。

顔とか雰囲気も似ているが気はするが、関係性はよくわからん。

ただ、なんで理沙ちゃんのことが浮かんだんだろう……?


「ボク、コーラフロートにします」

「結局かい」

「えへへ。ボク、身体弱いから元気な時に美味しいものを食べるようにしているんです」

「…………そっか」


身体が弱く、学校を休むことも少なくないらしい。

それが原因で気性の悪い女子に目を付けられているとか。

本当に下らないガキが多すぎるな。

俺は普通の緑茶を注文し、飲み物を飲みながら三島との会話の花を咲かせる。

身体が弱い、か……。

詠美の弟より強いとは思うが、少し心配だな……。


「そんなに同情的な目で見ないでください」

「え……?」

「明智さん、ぶすっとしているけどなんとなく表情がわかります」

「…………」

「見た目で誤解されるかもですが、明智さんのわかりにくい優しさとか好きですよ」

「…………」


三島の言葉を受けて、凄く胸が痛くなった……。

わからないけど、俺は彼女に取り返しのつかないことをしてしまった『 』があるような気がしてきて……。


「明智さんが、そんなにボクのことを好きじゃなくて……。……悔しいですが、なんとなく付き合っているだけなのも承知です」

「…………」

「でも、ボクはわかりにくいですけど、教室前を通って確認してくれたり、歩幅を調節してボクに合わせてくれたりなどの温かい優しさをみせてくれる明智さんが好きです」


三島が笑顔で向き合いながら、俺に微笑んだ。


「どんな明智さんでも、ボクは好きになるんだろうなー……、なんて考えちゃいます……」


健気な彼女に、俺も好意が生まれているのに気付いてしまった。

でも、そんな気持ちが生まれること自体がおかしい……。

──そんな資格、俺にはないのだから。










「では、また明日学校で会いましょう!」

「ああ、さようなら」


あれから1時間くらい駄弁っていたら、ファミレスにクラスメートである出席番号が1番最後の山川だか山田だか忘れたが名字に山が入っているイケメンが彼女連れで入店してきた。

仲良くもないクラスメートに会いたくないのですぐに店を出てきた。

それから三島を家に送り、自宅へ帰っていた。


今日はなんかおかしい。

まるでこれは夢みたいな…………。

……あ、夢だな。

ちょうど目の前に俺の家の扉がある。




それに気付き、扉を開けた瞬間に世界が崩れ出した。

いや、これはただの夢じゃないんだろう。

俺はこの無限の可能性を秘めた力をよく知っている。




『ギフト』の力だ。

そして、ここはあったかもしれない世界。

タケルの言う『もし、ギフトが存在しない世界で生まれたら』ってやつなのかもな……。




「ははっ……」


ようやく思い出したよ。

三島に取り返しが付かない気持ちを抱いていた理由が。

これは『罪』。

罪悪感から三島遥香の言葉に胸を痛めていたんだろう……。

その時、崩れかけた世界で自分の親が駆け寄って来る光景を目にする。


「秀頼……!」

「母さん……」


俺、自分の家族の顔すら知らなかったけどこんな親だったんだなぁ……、なんて死ぬ前に気付くなんて……。


「…………ん?」


あれ?

だんだん母さんの姿が見覚えのある人と重なっていく。

あれ、こいつは……エニアと一緒によくいる付き人の少女、か……?

別に今更どうでも良い。


母さんの姿も消えて、この世界も終わりが見えてきた。

ようやく俺は現実に戻るんだな……。










──ごめんね、明智君。







現実に戻った瞬間、タケルの妹の声が聞こえた気がした。








─────






「秀頼……。なんで……、なんで遥香の両親を……。お前がギフト暴走の引き金を引いたなんて考えられねーよ……」

「…………っ」


タケルに文字通り、死ぬほど殴られて身体が地面に倒れて動けない。

死ぬ寸前、俺は夢を見ていた、気がする。

タケルが、……俺をやったんだな……。

あー、……負けたんだな俺。


「ギフトなんか……、存在しない世界なら俺とお前は本当の親友になれたのかよっ!?なぁ、秀頼っ!?」

「…………う」


死んだらどうなるんだろうな……。

叔父、おば、宮村の両親、上松ゆりか、三島の家族、絵美……。

他にもスタヴァの店員とかタケル殴ってたチンピラとか何人か殺したんだったな……。

俺もそいつらと同じ場所に導かれるんだろうな……。


次なんかなく……。

俺は死ぬんだ……。


「…………明智さん。……明智さん。ボクは……明智さんを信じていたのに……。お願いだからただの事故だって……、そう言ってください……」


三島遥香が未だに俺を信じようとしているのか、涙を流し俺の手を握っている。

『エナジードレイン』の効果は発動していない。


タケルが完全に『エナジードレイン』のコントロールをマスターさせたんだ。

まぁ、『エナジードレイン』が発動していなくても俺が死ぬのは変わらないわけだが……。

絵美には『エナジードレイン』で殺させてしまって申し訳ねーなぁ……。

なんて、柄にもない。


「秀頼……。……次、また会えたら本当の親友になってくれよ……」





このまま、俺は意識を飛ばした。
















IF完結です。

秀頼が最近空気過ぎて、掘り下げたかったのですが今掘り下げると頼子になってしまうのでこのような形になりました。


一応、パラレルワールドでは秀頼と遥香が付き合っているギフトの存在しない世界も存在します。


今回は、遥香ルートの秀頼の最期を文章起こしをしました。

別に本編で遥香と秀頼をくっ付けないわけではありませんとだけ追記しておきます。


この遥香と秀頼の初々しい関係性好きです。

また続きが欲しいや、別IFが見たいというコメントがあればもしかしたらやるかもしれません。

長い目で見てくだされば幸いです。




今後の伏線も色々あります。

11章のタイトルから察していると思いますがわりと近々、ヨル関連のシリアスが入る予告をしておきます。


山本の名前は把握してないのに、可愛い女の子の大半を記憶しているのが実に秀頼です。





次回、頼子がゲームをしていると……。

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