12、イングリッシュ先生の選択肢

「なぁ、マスター」

「どうしたの咲夜?」


咲夜が学校から帰宅してきた。

お客さんがみんな帰った後の静けさが広がる店内。

誰も視聴しないテレビで虚しくニュースキャスターがニュースを読み上げていた。

咲夜はマスターに向き合うように、カウンターへと座り込む。


「今日、秀頼が女に変わった……」

「なにそれ、草」


マスターは「はいはい。いつものトラブルね」ともはや驚愕することなく、食器を洗っていた。


「…………まさかマスターの口から草という文字が出るとは」

「お客さんで結構使う人多くて移っちゃった」

「マスターも良い年なんだから若者言葉やめな……」

「そ、そんなに年取ってないよ!?まだ40前だし!?咲夜世代の親としてはかなり若いでしょ!?」

「それでも世の中ではマスターは子持ちのおっさんなんだよ……」

「い、嫌だな。娘におっさん呼ばわりされるのは……。ぴえん……」

「そういうのをやめろって言ってんだよ!」


谷川親子はぎゃあぎゃあと2人で言い合う。

もう既に秀頼が女になった話題はどこかへ飛んでいった……。






─────






さて、明智秀頼改め明智頼子になった私はというと学校から家に帰ってきた。

そして、面倒事を察知しておばさんと顔を合わせずに部屋へ籠っていた。

ウチの家族も達裄さんみたいに『草』で済ませる人なら良いんだけど、恐らくそうはいかない。

説明を山ほど求められるだろう。

本当は私が山ほど説明が欲しいくらいだ。


そして、私はテレビに繋がったゲーム機を起動した。

ポチポチとコントローラーのボタンを連打していく。





『こんなところで俺はイングリッシュ先生を諦めたくねぇ!』

『じぇ、ジェイ君……』

『俺、……自分の気持ちに嘘付いてました。イングリッシュ先生が好きなんです!』


「じぇ、ジェイ君……」


普段俺様なジェイ君がイングリッシュ先生にこんなに一途になるなんて……。

シー君ルートで果てたジェイ君を知っているからこそ、ジェイ君に報われて欲しい。


『ちょ、待てよジェイ』

『え、エルっ!?』

『先生は僕と付き合っているんだ。盛大にイングリッシュ先生を傷付けておいて許さない。絶対に先生は渡さないよ』


「エル君……!」


一途で弱虫系のエル君の成長に泣きそうになる。

共通ルートではジェイ君やティー君に舐められまくって不憫で情けないイメージのエル君がまさかこんな男前なところを見せるなんて……。


『そんなのズルいよ!俺はイングリッシュから弟みたいに思われて恋愛対象になってなかったのに!イングリッシュ、俺と付き合ってくれ』

『エックス……。確かに私はエックスを弟に見ていた。弟と重ねていた』

『俺は弟じゃない。男として俺を見て欲しい』


「エックス……」


お前マジで空気読めねぇな!

エックスからは原作秀頼オーラが凄いするもん。

チャラいし、イングリッシュ先生の前で女とイチャイチャしてたじゃねーか!

ないわ……、エックスだけはねーわ……。


「イングリッシュ先生は一体誰を選ぶんだ!?」


モニターに釘付けになりながらもボタンを連打して、文章を読み進めていく。


『私の……、私が選ぶのは……』


イングリッシュ先生がか細い声を出しながら、私はドキドキしながらボタンを押す。

すると、私は驚愕する。






選択肢

→ジェイ君の手を握る

 エル君が好きと公言する

 エックスを弟として見ない






「ああああぁぁぁぁ!?選択肢!?なんでここで選択肢!?」


イングリッシュ先生の苦渋の決断が見たいのに、これじゃあ私の決断になっちゃう!

この3人の中なら私はエル君選ぶけど、イングリッシュ先生が自力で選択肢を選んで欲しかった……。

残念無念な気持ちでエル君の選択肢にカーソルを当てた時だった。





「何やってんですかぁぁぁぁ!?」

「え、絵美!?」

「なんで今日に限ってイケメンと恋愛するゲームしてるんですか!ギャルゲーの女版じゃん!女になったから!?頼子はイケメンが好きなの!?」


絵美が私の部屋の入り口をがばっと開けてきた。

せめてノックは欲しかったかな……。


「イケメンと恋愛するゲームはね、乙女ゲームっていうんだよ。ギャルゲーの女版なんて表現しません」

「聞いてませんよ!?大体ギャルも乙女も女じゃん!?なんでギャルゲーは男向けで、乙女ゲーは女向けなの!?」

「知りませんよ……」


ゲームに疎い絵美らしいなぁと苦笑いする。


「大体このゲーム2日前からやってたから、別に他意はないわよ」

「タイミングばっちり過ぎない?あの秀頼君がギャルゲー以外するの!?」

「スマブラとかするけど……」


あんまりな言い分に、こっちがよろけてしまう。


「これ、円からの借り物だし私の所有物じゃないから許して……」

「あの女は秀頼君に何貸してるんですか……」

「変わりに私はギャルゲーを貸したわ!」

「あの女も秀頼君から何借りてるんですかぁ!?」


ギャルゲーを私が買い、乙女ゲーを円が買う。

そして面白かったゲームをお互いシェアする。

あら不思議!

1本のゲームの値段しか出していないのに、2本のゲームが楽しめるのである。


「このゲームはね、27人のアルファベットの名前の男子をイングリッシュ先生が攻略していく生徒を攻略する先生のお話なの」

「……それ、生徒に手を出す犯罪先生じゃない?」

「犯罪じゃない!純愛だ!」

「純愛というか、淫乱なんじゃ……」

「やめて!ウブだから手を握られるだけで恥ずかしがるイングリッシュ先生が淫乱なわけないでしょ!?」

「誰ですか、イングリッシュ先生……」


絵美が画面を見るとちょうど選択肢画面である。

重要選択肢みたいだし、セーブしておいた。

因みに私が1番にオススメするのは、達裄さんみたいな雰囲気のサディストであるケー君である。

私のゲームのプレイスタイルはギャルゲーも乙女ゲーも、推しキャラは1番最後に取っておく派である。


そして会話に集中するため、ゲームのコントローラーを床に置いた。


「……頼子」

「ん?」

「ほら」

「え、え、え、絵美!?」


絵美からコントローラーを離したばかりの手を握られて、突然の行動に恥ずかしさが込み上げる。

彼女のほんの少し冷たい体温に当てられているのに、手の体温が温かくなる矛盾した感覚に陥る。


「頼子もウブだね!」

「…………」

「かぁぁぁって赤くなってるよ頼子。……いや、秀頼君」

「…………」


男としてなのか、女としてなのかはわからないが絵美には敵わないなぁと強く感じる。

それはとても複雑な心境であった。










絵美と秀頼の相性ってやっぱり抜群だね!という話。

なんかこのノリが久し振りだからか、かなり速筆で書き上げました。



自分がイングリッシュ先生なら誰を選ぶか考えながらこのページを読み直すと2倍楽しめます。




次回、絵美が訪ねた理由は……?

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