62、宮村永遠は重い
「告白大事だよ。本当にそれしかないかなぁ……。おもいっきりぶつかってさ!…………あ、やべ……」
12人にアドバイスをしていたマスターであったが、自分で自ら忘れていた地雷を踏んでしまう。
『金髪ライダー喧嘩番長』時代の黒歴史よりはマイナーながらも、朝伊先輩や姉からからかわれていた『告白間違い事件』が脳裏に浮かぶ。
「……」
みんなが気付かぬ間に変なトラウマスイッチを踏んでしまった時である。
「ちょっと待ってくださいマスターさん!」
「…………え?」
美鈴の制止した声で意識を持っていかれて、なんとかトラウマ回想を回避したマスターであった。
「ど、どうかしたのかな?」
マスターが『助かった!』と安堵しながら美鈴に尋ねた。
「告白をするということは、振られる可能性もあるということですよね!?」
「それはそうだけど……」
マスターが『当然だよね』というニュアンスで頷く。
周りも『突然どうした!?』という空気であったが、美鈴だけは本気だった。
「今、美鈴は恐ろしい可能性に気付きました……」
「お、恐ろしい可能性……ですか……?」
遥香が代表して口を開くと、「ええ、そうよ」と美鈴が相づちを打った。
「もしかしたらだけど……、この中の全員が秀頼様に告白しても全員が振られる可能性があるのではないでしょうか……?」
「…………え?」
真っ先に反応を示したのは前世からの付き合いである円だ。
そして……。
『ええええええええぇぇぇ!?』
ヨル以外残り9人の虚しい女たちの悲しい絶叫が喫茶店内に響いた……。
(おい、バカ男……。早くキャンプから戻って全員大人しくさせろアホ!)
この場に不在な秀頼への愚痴を溢しながら、マスターはあまりの彼女らのボリュームに耳を抑えてしまうほどであった……。
「ふ、振られる……」
顔が真っ青になった永遠が呟くと、各々が告白するもこっぴどく振られるイメージを思い浮かべてしまったのであった……。
─────
【理沙のイメージ】
『明智君!私、明智君が好きです!』
『え……?』
『え?』
『ないわぁ……。タケルとは親友だから仲良くしてるけど、理沙はタケルの妹だから仲良くしているだけで恋愛感情とかないから』
『…………』
『あ!タケルから呼び出しだ!じゃあな、理沙』
告白したことなどなかった様に秀頼の背中を涙目で見送る自分の姿が浮かぶのであった……。
【和のイメージ】
『私、秀頼先輩が好きっす!付き合ってください!』
『お前、ふざけるのも大概にしろよ』
『……え?』
『和は散々俺をゴミクズ呼びしたよなぁ!?調子良すぎだろ』
『そ、それは……』
『じゃあな、新しい恋でも探せよゴミクズ後輩』
舌打ちしながら『和と恋愛はありえねーぜ』と冷たく言い放たれて失恋する自分が思い浮かぶ。
普段の秀頼はMなぶん、ちょっとこのイメージはSっ気もあり、これはこれでとも思ったが、やはりショックは大きすぎた……。
【美月のイメージ】
『わ、わたくしは……、秀頼が好きだ。つ、付き合って欲しい……』
『美月さぁ……、俺らまだたった数回会話しただけだぜ?』
『そ、そうかもしれない。ただ、時間なんか関係ない!好きなんだ秀頼!』
『ごめん、俺シスコン女はNGなんだわ。美月はシスコンの期間長そうだし無理っす。俺は時間気にする派なんだわ』
見下した目で自分を見られて恋愛感情がバラバラにされたイメージが浮かんだのであった。
【咲夜のイメージ】
『ウチ、子供の時から秀頼がずっとずっと好きだった!将来、店も2人でやっていきたい!だから付き合って欲しい!』
『おいおい、勘違いすんなよ』
『勘違い……?』
『俺は子供の時から咲夜に会いに来ているわけではなく、マスターに会いに来てるんだからな』
『マスターに……?』
『大体なんで俺が店やらなきゃならんのさ。意味わかんねー。ないわぁ……』
『…………』
自分の父親に負けるイメージが出てきてしまい、引きこもりになるビジョンが浮かんだのであった……。
【美鈴のイメージ】
『秀頼様!大好き!大好き!大好き!美鈴と付き合ってください!』
『紋章持ちの過去がある女なんか無理に決まってんじゃん』
『…………ほぇ?』
『俺、そういうの気色悪くて無理なんだよねー。トラウマとか弱みとか大嫌いなんだよ。てか、美月の方が好みだし』
姉の方が好みという地雷を踏んで、秀頼は美鈴に対し興味なさそうに去って行く。
『……それでも美鈴は秀頼様をお慕いしてるもん』
【遥香のイメージ】
『ぼ、ボクは明智さんが好きです!助けてくれたあの時からボクの中で明智さんは特別な人なんです!だから付き合って欲しいです!』
『はー……、あっそ』
『……え?』
『『エナジードレイン』持ちと付き合えるわけねーだろ!?』
『…………』
『まぁ、身の程を考えろって話』
見下した目の秀頼が遥香へ威圧をかけながら消えていった……。
【ゆりかのイメージ】
『師匠!我は修行のみならず、師匠と恋人になりたいです!だから我と付き合って欲しいです!』
『何言ってんのお前?』
『……な、何?』
『お前、俺を襲ってケガさせておいて慰謝料すら払ってない分際で付き合えとか舐めてんの?今の俺には理解できんね』
軽蔑しながら秀頼はゆりかを絶望させるのであった。
【星子のイメージ】
『お、お兄ちゃんは妹が好きって言われてどんな感情になる?』
『普通にキモいでしょ』
『…………』
『てかさぁ、星子のブラコン具合やばいって。俺が星子のブラコンに合わせてやってるだけって気付かないの?正直、スタチャとかやってて恥ずかしくないの?』
言葉のナイフで抉るような兄の正論に耳を背けたくなる星子であった……。
【永遠のイメージ】
『私、秀頼さんが好き……。誰よりも好き。だから付き合って恋人になりませんか……?』
『エイエンちゃんの感情は重いんだよ』
『おも、い……?』
『なんかエイエンちゃんが俺に向ける気持ちが大きくて重くて気持ち悪いんだよね……。ぶっちゃけ毎日引いてる……。こっちから重い女はお断りだね』
見透かしたような指摘をされ、永遠の初恋がボロボロと崩れていった。
【円のイメージ】
『明智君……。私もう1回前世をやり直したい……。だから、今度は本気で君と付き合いたい!』
『ダメでしょ』
『ダメ……』
『俺、来栖さんが好きなのであって円は正直好きじゃないんだよね……。姉妹揃って散々人をゴミクズ扱いしやがったし』
『…………』
『円がゴミクズって紹介しなかったら和はゴミクズって呼ばなかっただろうなぁ……。だから円はねーわ。前世は前世。今世は今世でわけよーぜ!』
前世の自分に負ける自分の図という地獄みたいな断り文句が浮かぶのであった。
【絵美のイメージ】
『秀頼君!大好き大好き大好き!付き合って恋人になって結婚して欲しい!』
『……は?』
『……え?』
『俺が絵美と付き合わないのって子供の時からずっっっっっとお前に魅力ないからだよ?』
『…………』
『10年一緒にいて付き合わないってそういう意味じゃん。わかれよ』
『…………』
今までの思い出を全否定されて絵美の脳は破壊された……。
─────
「そんな世界滅べば良いのに……」
絵美の恨めしい声にたくさんの子がうんうんと頷く。
「秀頼さんに振られるくらいなら私は命を絶ちます……」
「!?」
「んん!?」
永遠の言葉にマスターとヨルが驚愕する。
しかし、その他の子は何も突っ込まないどころか同感とばかりに渋い顔をしている。
「お前ら……。面倒過ぎぃ!」
ヨルがテーブルを叩きながら目を冷まさせようとする。
秀頼がモテるのはヨルは知っていたのだが、こんなレベルにモテるなんてのは予想外であった。
もっと遊びの関係、身体だけの関係。
そういうのに囲まれていたはずではないのかと混乱する。
「ヨル先輩はお子様ですね……。可哀想……」
「あたしのが年上なんだけど!?」
同じテーブルの星子から同情する目で見られるヨルなのであった。
†
次回、胸が小さくても大丈夫……?
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