61、谷川咲夜は許可する

12人になった西軍メンバーを視界に入れながら、『もし再婚するならあの男のアドバイスでも聞き入れた方が良いのだろうか?』という気持ちがマスターに沸いてきた。


ちょうど視界にいる理沙を見て、『理沙ちゃんの兄貴はグダグダな恋愛アドバイスを翔君にしていたな……』とこないだのタケルの無能アドバイスも同時に頭に浮かんできていた。


その理沙が思い付いたように声を出した。


「そうだ!絵美さん!」

「ほぇ?」


ストローでコーラを飲みながら遥香とゆりかと美鈴で談笑していた絵美がやや間の抜けた声を出す。

突然声を掛けられることなど考えてもいなかったようである。


「そんな呑気なことしている場合じゃないですよ!せっかく西軍で集まったんですから対策を考えるのが目的でしょ」

「え?自己紹介して集まる企画じゃないの?」

「ボクもよくわかりません」

「…………」


美鈴と遥香から疑問の声が上がる。

確かに理沙の言う通り、西軍はそもそも集まって女子会を楽しむ集まりではないのだ。

そのことは古参な初期メンバーの共通認識である。

リーダーの絵美も理沙の言い分はわかっているのだ。


「まぁ、本来は休戦協定として秀頼君にそれとなく他の女子に接近させないようにしてましたよ」


絵美は苦々しい顔で西軍が出来上がる前からみんながやり遂げてきたことを思い出す。


「秀頼君に女対策をしてガチガチに守っていた結果が12人にメンバーが増えたんです!12人ですよ!?こんな後にも先にも引き返せない状況なんです。もう何しても変わらないよぉぉぉぉ!」

「絵美さん……」


絵美の本音を聞き、咲夜が思い付いた発言をする。


「なら、ウチら西軍メンバーから何人かリストラして引退するメンバーでも考える?」

「別に私たちはアーティストじゃないのよ」


しかし、円に軽く流されただけであった。

一大事だと星子や永遠などの真面目なメンバーは考え込むも良い案が出ない。


「んー、でも逆じゃないでしょうか?」

「逆?」


和が、呟くと理沙が反応する。


「はい。絵美先輩や理沙先輩らが対策しているおかげで12人に収まっているんですよ!」

「…………収まって12人?」


発言者である和以外の11人に衝撃が走る。

対策をしないと既に20人くらいは増えていたのかもしれないという事実に絵美らは冷や汗をかきはじめる。


「で、でも確かに私たちのクラスの熊本さんとか明智君を狙ってますよね……」


理沙が明らかに恋愛脳になっている熊本セナを思い出す。


「確かに熊本は明智に執着が強い気がするな」


ヨルはやたらと明智についての言葉が多かったなとクラスメートの熊本との会話を回想していた。

(スタヴァの店員さんも露骨だったな……)と、星子も西軍以外にも兄に恋愛感情を持っている人物に心当たりがあった……。


「マスター!秀頼の恋愛の矢印をウチら以外に向けられなくするにはどうしたら良い!?」

「知らねーよ。あと僕の店を勝手に秀頼君対策本部扱いするなよ」

「ウチが許可する」

「こらこら」


親子のやり取りを見て、わりと父親に冷たい扱いをされている美鈴が羨ましそうに2人を見ていた。

その視線に気付いた絵美が美鈴に優しく背中を撫でた。


「え、絵美……」


暖かい温もりに美鈴は嬉しそうに目を細めていた。


「…………」


そんな絵美と美鈴のやり取りが視界に写った原作の知識を持つ円は絵美が美鈴に手刀を叩き込まないか不安になっていた。

『大丈夫か?』、そんな風に気になりながら絵美に目を光らせていた。


「でもマスターさんのアドバイスは聞きたいですよ」

「うーん、アドバイスねぇ……」


永遠の無茶振りに振られてマスターは彼女らが必要とするアドバイスがどんなものか考えてみる。

「モテたい、モテたい……」と日々悩む秀頼だったらすぐに落ちるんじゃないかと思う。


「やっぱり告白じゃないかな。告白しないことには想いは伝わらないんじゃないかな」

「でも好きな気持ちが3分の1も伝わらないんですよ」

「I Love Youさえ言えないしなー……」

「なんか聞いたことあるな……。君たちは世代じゃないでしょ」


秀頼と似た者同士過ぎてマスターは言葉を詰まらせる。

類は友を呼ぶとはまさにこのことである。


「因みに秀頼君と付き合ってみんなは何したい?」


マスターが何気ない質問を12人にしてみた。

その数秒後には大後悔することも知らずに……。


「わたしは秀頼君と子作りして、ささやかながらも幸せな家庭を築きたい!」

「私は明智君と兄さんの3人で色々なことをやりたいですね」

「明智君と付き合って(前世の続きも含めて)イチャイチャして結婚したいわね」

「秀頼と喫茶店を夫婦で運営して穏やかに暮らし、店を次の代へと託していきたい」

「秀頼さんとお互い高めあって会社を経営したい!」

「とりあえず秀頼先輩と付き合って、西軍メンバーに自慢してマウント取って、それからお互いやりたいことに集中したいっす!」

「お兄ちゃんをマネージャーにして、あわよくば名字が違うんだし結婚はしてみたいかな……」

「師匠と強くなって、困っている人の助けになりたいぞ!」

「あ、あたしは別に明智なんかどうでもいいし……」

「ボクは明智さんに恩返しがしたいです!困った明智さんを助けられる人になりたい!」

「わ、わたくしは秀頼が側にいるだけで良い。秀頼が欲しい」

「美鈴は秀頼様と結婚して、今までもらえなかった愛を欲しいし、美鈴も愛を与えたいです」


同時に12人ぶんの大きい圧がマスターに飛んできた……。

みんなが大きい声で宣言するので、反射的に少し耳を押さえてしまう。

宣言後は、数秒間静かな空間になり、マスター1人が12人に頷く。


「…………なるほど、気持ちはわかったよ」


マスターには秀頼への気持ちだけは伝わったが、何を言っているかの将来の願望の言葉は通じなかった。

同時に人の話を聞ける伝説のターザンにも、聖徳太子にも12人同時に大声を聞き分けるのは不可能であろう……。


ただ、みんな満足そうに幸せそうな顔をしていたが、対照的にマスターだけがうんざりになっていた。













ヨルと熊本さんのやり取りはこちら。

第10章 月と鈴

第249部分 6、ヨル・ヒルは邪険にできない





えみ×すずが最近大好きです。







次回、何気ないマスターの発言で全員の顔が曇る……。

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