60、上松ゆりかは単純

マスターは娘を含めた人数を数えてみると12人になっていた。

秀頼のことを赤ちゃん時代から知っているマスターであったが、彼に片思いしている人物が10人を越すのは流石に予想の範疇を超えていた。

育ての親である姉は本当にどんな教育してんの?、とか女垂らしに育って朝伊先輩に顔向け出来ないなどマスターにはスタヴァの姉ちゃんにけしかけた時以上の罪悪感が一気に流れ込む。


「……こほん」


いや、全員が西軍ではないと信じてマスターは咲夜に確認を取る。


「全員西軍じゃないよね……?」

「全員西軍だ」

「…………そうか」


甥っ子の女性関係のだらしなさから目を反らしながら考えない様にするマスター。

驚きから、仕事モードへと脳を切り替える。


「えっと……、金髪の2人の子が初対面かな?名前を聞いても良いかな?」

「は、はい!深森美月です!こ、こちらが双子の妹の……」

「深森美鈴です。よろしくお願いいたします」

「美月さんに美鈴さんで良いかな?よろしくね。僕のことは谷川とか……」

「マスターでOK」


マスターは初対面の2人に紹介していたが、咲夜からマスターと遮られる。


「もうマスターで良いよ。……しかし、流石にこの人数ではカウンターは無理だからテーブル席で3グループにわけようか」


そもそもこの喫茶店は1、2人の人数がコーヒーを飲みにくる店であり、大人数で宴会をするような店ではないのである。


「なるほど西軍メンバーを3分割だな。どうやってわける?」


咲夜が父の言葉に頷くと、それを聞いた永遠が「アプリでメンバーを振り分けましょう!」と提案した。


「わかった!ウチがやる!ヘイシリ、『メンバーの振り分けアプリを起動だ!』」

『てててて、てててて、てーてー』

「なぜドッキリの音楽なんだ……?」


すると咲夜のスマホにアプリが起動する。


「西軍を3つにわけるか……。ならグループ名は『石田軍』『島津軍』『大谷軍』としよう」

「そんなに西軍に寄らせる必要ありますか!?」

「気持ち的にな」


理沙の言葉をさらっと流し、12人ぶんの名前をタップした咲夜はそのままアプリでランダムに振り分けていく。

結果、咲夜のスマホのディスプレイに結果が表示される。




『石田軍』

佐々木絵美

三島遥香

深森美鈴

上松ゆりか



『島津軍』

宮村永遠

十文字理沙

津軽和

谷川咲夜



『大谷軍』

細川星子

津軽円

深森美月

ヨル・ヒル



「意外とバランスの良い組み合わせになったな」と言って全員にスマホ画面を見せていく。


「えー?我は唯一関ヶ原以降も生き残る島津軍が良かったぞ!」

「でも石田軍は大将ですよ?」

「大将……。良い響きではないか!」

「……単純」


ゆりかの茶々に絵美が割り込み、数秒で納得させた手腕は鮮やかであった。

そのまま振り分けられたグループにわかれて席に着くのであった。


「あたしは逆に石田軍が良かったけどなー」

「…………」

「…………」

「…………」

「あたしにはフォロー無しかい!」


円、星子、美月はヨルを見ないようにして、フォローする言葉も見付からずに無言であった。

そんなわけで各々4人グループにわけて座っていく。


「このグループメンバー、また何かでわけたい時に使えるかもしれないね」

「そうですね」


絵美がまた同じ場面があったらこのメンバーでわけようと決めたのである。


「ようやく決まったか……」


ゴタゴタして10分もメンバー振り分けに時間が掛かり、マスターも暇をしていた。


「それじゃあ注文を取っていこうか」とマスターが1人1人にメニューを聞いていく。

途中でヨルが真面目に「手伝いましょうか?」と声を掛けるが「今日のヨルさんはお客さんなんだから大丈夫だよ」とマスターが気を遣った言葉を掛ける。


「そうですか……。ありがとうございます」

「いやいや、何もお礼を言われることじゃないよ」

「そうそう。ヨルもウチみたいに座っていると良い」

「本来、お前は手伝うべきじゃないのか……?」

「いいよ……。咲夜が準備すると逆に時間掛かりそうだし……」

「そういうこと」

「色々終わってんな」


いつもの喫茶店の光景が繰り広げられて、絵美や円らは安心感が出てくる。

こういう空間が好きで秀頼が足繁く通うのはわかっていた。


居心地の良さでみんなが集まるんだろうなー、と星子も常連客の空気が好きであった。

それから15分前後くらいで全員ぶんの注文したモノを準備したマスターは全員にコーヒーやジュースを配っていった。


永遠が特にキラキラした目でブレンドコーヒーを見ていて、その相変わらずの様子に理沙もにっこりと笑っていた。

バチバチに恋敵だとしても、親友である彼女らは仲良しなのであった。


美月も永遠がオススメした同じブレンドコーヒーを注文していて、自分の元にコーヒーが届けられて口を付けた。


「あっ!……美味しい!口に苦味が残っているのにくどい感じがしなくて飲みやすい」

「ははっ、ありがとう」


マスターは美月がコーヒーを褒めたことが嬉しくてお礼を言う。

初対面の人にコーヒーを褒めてもらうのが、マスターの生きがいであった。


「まるで取材ね。美月はリポーターでも目指しているのかしら?」

「べ、別に違うぞ!?ただ純粋に美味しくてだな……。わたくしの純粋な感想だ!」

「感想にしては大袈裟というか、オーバーリアクションというか……」

「も、元々わたくしはそういう感性なんだ!」


円にもからかわれ、美月が赤くなる。

(また美月が弄られてる……)と、隣のテーブルに座る永遠がコーヒーを飲みながら親友に突っ込んでいた。


「まったくあいつらは静かにコーヒーくらい飲めぬものか……」


それを聞いていたゆりかがやれやれといった態度ではしゃぐ美月と円に呆れたとばかりに声に出す。


「む?遥香と絵美のやつはなんだ?」

「はい!絵美さんと同じでボクはダイエットコーラフロートにしました!」

「ダイエットする気ゼロだろ」


矛盾の塊みたいなメニューであった。


「へへーん!ダイエットコーラフロートはあたしの案だぜ!」

「前はコーラフロートしか無かったですもんね。うん!美味しいよ!」

「頭が良いのか、悪いのか……」


ヨル案というダイエットコーラフロートを絵美と遥香は幸せそうに食べていた。


「…………」


そんな2人を見ていると、無理に背伸びをして頼んだエスプレッソより美味しそうに見えてくるゆりか。


「…………遥香、一口アイスをくれないか?」

「えー?ゆりかさんもダイエットコーラフロートにすれば良かったじゃないですか!」

「頼む!一口で良いんだ!遥香にもエスプレッソをあげるから!」

「……いや、ボクはそんなにコーヒー得意じゃなくて」

「頼む遥香ぁ!」

「…………本当に一口だけですよ。あーん」

「あーん。……うむ、アイスうまうま」


ゆりかも遥香と絵美に混ざってアイスを堪能していた。

(なんだこの3人……)って目で美鈴はやや引いていた。


「ゆりかだって全然静かではないじゃないか!わたくしだけ呆れられて不公平だ!」

「美月、みんなで楽しいならそれで良いじゃねーか。な?」

「納得いかなーい!」


あやすヨルと不満が漏れる美月。


「本当に飽きない先輩たちですねー」

「私ものーちゃんに同意です……」


後輩組である和と星子が1番冷静で、大人びていた……。












石田軍は原作でみんなゴミみたいな扱いしかされていない集団……。

遥香も攻略ヒロインながら、セカンド以降では逮捕扱いや、死亡されたかのような扱いになっているので登場しません。

だからこそ、特に石田軍はクズゲスでは幸せにしている描写が多いです。

全員原作ではファーストシーズンで仲良く退場してる連中です。

ゴミ扱いされているキャラが、救済されるの良いよね……。




次回、I Love Youさえ言えないんだよなぁ……。

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