59、谷川流の元を訪ねるお客さん
「いやぁ、谷川さんのコーヒーは美味しいですよ。本当に何回でも通いたくなります」
「ははは。そう言ってくれると僕も嬉しいです。瀧口君も結構長く店に通ってくれるねぇ」
「そうですね。教師になって以来だから5年くらいになりますね」
第5ギフトアカデミーの教師である瀧口雅也はマスターが経営する喫茶店の常連客であった。
コーヒーが美味しいと学校が休みの日の午前とかに現れることが多かった。
「第5ギフトアカデミーの先生なんて凄いですね。僕の娘もそのギフトアカデミーに通っているのですが、毎回テストの点数が赤点スレスレみたいで恥ずかしい話ですよ」
「はは……。こないだ谷川の小テストは41点でしたね……」
「え?41点!?あー、僕そのテスト見せてもらってないですよ。まったく……」
テストの結果も、プリントも渡さない娘を考えてため息が出るマスター。
常連客の永遠や、同じバイトのヨルなどに学校の話題やプリントの内容を聞かされる始末である。
「因みに娘さんはギフト覚醒は?」
「僕と同じで才能なしですよ。陰性ですし、陰性で良かったです」
「…………そうですね。それは僕としても喜ばしいですよ」
「本当にね。ギフトなんか僕は人間が持つべきじゃないと考えているんですよ。少数派な意見で頭固いオヤジとか言われそうですが……」
「……いえいえ。素晴らしい考えだと思いますよ。僕もギフトには否定的なんですよ」
「ギフトを教えている瀧口君が?」
「はい。知れば知るほど、学生がギフト持ちは危険だとね」
「なるほどねー」とマスターは自分の娘が通う学校の教師の話を聞いていた。
ギフトを教える先生はみんなギフトに賛成意見なんだろうと考えていたマスターは瀧口に珍しさを感じる。
「結構ウチの学校の生徒もこのサンクチュアリに来たりするんですか?」
「結構来ますね。最近来たのは翔君だったかな?関翔君、わかりますか?」
「あぁ、関か。僕が1番目にかけている生徒です。なるほど、関もこの店に来ましたか」
瀧口はコーヒーを飲み干し、「そろそろ帰らないと」と呟き、お金を支払い店を出て行く。
彼が使ったコーヒーカップを洗っていると、瀧口と入れ替わる形で大学生の女性がマスターの店に訪れた。
「いらっしゃい」
「あっ、マスター!こんにちは!」
愛想の良い笑顔を浮かべた女性は瀧口が座っていたカウンターの隣の席に座った。
彼女はお気に入りであるカフェラテを注文した。
「やぁ、これからスタヴァでバイト?」
「はい、そうなんですよ……。あー、面倒だなぁ……」
スタヴァでバイトをしている姉ちゃんが愚痴り、髪を弄りながらマスターと会話をしていた。
「お疲れ様」と声をかけながら、マスターは彼女にコーヒーを差し出す。
「ありがとうございます」とお礼を言って、姉ちゃんはコーヒーを口に付けた。
「あー、美味しい……。ねぇ、マスター?」
「ん?」
「どうすればお客さんを落とせますか?」
「またその話かい?僕はお客さんに手を出したことが無いからなぁ……」
マスターが苦笑いをしながらスタヴァのバイトで働く姉ちゃんのアドバイスを考える。
彼女は、派手にミスをやらかした際に手伝ってくれて、しかも姉ちゃんのミスじゃなくて自分のミスだと言って責任を被ってくれたお客に惚れてしまったとのこと。
「でも連絡先持ってるんでしょ。じゃあ後は普通にデート誘えば良いんじゃない?」
「そうなんですけどー、前に猫カフェデート誘ったんだけど振られちゃってぇ……。どうせ私なんて……。年上なんか年増だって見下されているんだぁぁぁぁ……」
「いやいや、連絡先を受け取ってもらえただけで脈はあるって」
「……本当ですか!?」
がばっとマスターの男の意見に食い付いてくるスタヴァの姉ちゃん。
「僕の娘の同年代の子にさ、周りからたくさん好意寄せられているのに気付かないバカがいるのよ」
「へぇ、リア充ですね」
「そういう男を見てるとガンガン押すのが大事かなぁって思うよ」
「ガンガン押す……」
「そうそう!なんなら『今日バイトしてるから店に来ない?』って誘ってみると良いよ」
「わ、わかりました!早速彼にラインしてみます!」
スタヴァで働く姉ちゃんが思い立ったら即行動とばかりにスマホに文字を入力していく。
『明智さん!こんにちは!今日バイトしているので、良かったら店に来ませんか!?(゚∀゚*)(*゚∀゚)』と送り、一緒にスタンプも送る。
同じ時間、地獄のキャンプ場に連れて行かれていた秀頼は達裄が運転する車内でラインをすぐに気付き、返信を出した。
『今日、知り合いとキャンプするから行けないんだ(^^;』
『ごめんね、スタヴァの姉ちゃん(。´Д⊂)』
こうして、スタヴァの姉ちゃんには振られた文字が並んでいた……。
「…………ぅぅぅ。男とだよね!?男とキャンプしてんだよね!?」
「…………」
マスターはスマホの反応に悪い返事が来たんだなとスタヴァの姉ちゃんの反応から察した。
焚き付けた責任をマスターは感じてしまった。
可哀想だからカフェモカの450円から端数の50円を割引にしてあげようと彼女にサービスをすることに決めて、伝票の450円に横線を引き、400円と記入した。
「…………ありがとうございますマスター」
「うん、バイト頑張って……」
そう言ってスタヴァの姉ちゃんがスタヴァへ向かうのを見送るマスター。
客が1人も居なくなり、のんびりと雑誌を手に取り椅子に座りながら読んでいた。
「このスマホ欲しいなぁ……。10万超えかぁ……。咲夜からガジェットに金使うのやめろって言われてるしなぁ……」
高いガジェットを使う達裄の姿を羨ましく見ているマスターは雑誌の最新ガジェットに興味津々であった。
木葉もガジェットの理解は低く、『使えれば安くても良くない?』とコスパ重視の子であった。
娘の咲夜もそんな母親と同じ感性を持つ子であった。
雑誌をペラペラと捲っていき、ガジェット特集が終わり、若者のアンケート結果をまとめるコーナーのページを開いた時であった。
来客を告げるベルがカランカランと鳴り、マスターはそちらへ振り向く。
「いらっしゃいませ」
「よっ、マスター」
「…………あれ?帰ってきたの?一泊じゃなかったの?」
実の娘の咲夜が現れて驚いたが、その驚きはすぐに消し飛んだ。
「…………」
咲夜が11人の友達を店に連れて来たのだから……。
そして、絵美や理沙や円の顔を見て察する。
(これ、秀頼君大好き西軍グループだ……)
†
マスターも作中人物のほとんどと面識があります。
アイリーンなんとかさん、赤坂乙葉辺りはまだ面識がない。
因みに、マスターはスタヴァの姉ちゃんの想い人が秀頼とは知りません。
次回、西軍メンバーを3分割!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます