53、遠野達裄は忠告する

突然現れた達裄さんに頼もしさはあるが、一撃必殺技のあるゴーストキングはヤバイ。

そう伝えようと、彼の名前を呼ぶ。


「達裄さん!」

「良いからお前はもう休んでおけ」

「タケル……」


しかし、後からやって来たタケルに制止される。

時間として10分くらいなんだろうけど、タケルの声と達裄さんの声で安心感が生まれ、そのまま口を閉じる。

達裄さんがゴーストキングを相手にどう動くのかしっかり目に焼き付けようと彼を注視する。


『選手交代か。だが、1人で十分か?』

「さぁ?ただ、秀頼あいつが1人で戦ったなら一応その師匠である俺も1人で戦わないと格好付かないだろ?」

『スケルトンタッチ』

「おっと……」


ほぼ不意打ちの形で達裄さんに手が襲いかかる。

しかし、ジャンプ1つで巨大な手を避ける。

鮮やかな動きに俺とタケルは唖然とする。


「質問に答えたのに反応なしは悲しいだろ?」

『シャァァァァァ!』


鎌を振り下ろすゴーストキングだったが、達裄さんは冷静に腕を上げて鎌の刃先を掴む。

5メートルの巨体である凶器攻撃を防ぐ力に、ゴーストキングより達裄さんに驚く。


「人間ってのは腕が千切れないように力を制御するストッパーが脳にあるんだ。そのストッパーを外して、俺は意図的に人間が出せる最大の力を出力できる。亡霊の王を名乗っていながら人間に負けるのか?」

『くっ……』

「お前、元は人間だろ」

『ぐっ……。王は王だっ!人間のような弱い種族ではない!神の座を狙う王だ!』

「……そうか」


達裄さんは察したように悲しく、ゴーストキングに同情する声を出す。

しかし、次に口を開いた時はその同情の感情は消えていた。


「タケルに聞いたけど、お守りに攻撃を弾かれたんだってな」


そう言って鎌を力付くで奪い、横に投げ捨てる。

そのまま地面に鎌が転がった。


『っ!?』

「焦りが見えるぞ。聖なる物ってビビったんだって?あのお守りに俺は清めの塩を混入させていた」

『や、やめろ……』

「成仏しろよ」


達裄さんはポケットから左手で瓶を取り出し、その中身を右手いっぱいに握る。

その右手の中のもの、──塩をゴーストキングにぶちまけた。


『グ、グアアアアアアア!?エニアぁぁぁぁ!エニアァァァ!』


ゴーストキングの絶叫が響く。

そのままエニアの名を叫びながら身体は焼けていき、ぼとぼとと身体が地面に落ちていく。


「次は良い人生を歩めよ……」


達裄さんは悲しく呟く。

そのままゴーストキングに背を向けて俺とタケルに近寄る。


「さぁ、キャンプ場へ戻るよ。これで終わったんだ……」


そう言って俺とタケルの背中を優しく押す。

振り向くなよ、達裄さんからはそんな風に言っているように感じた……。


『エニアァァ……。…………エニア先輩』


エニアの名前を最後の最後まで叫んでいた。

ゴーストキングとエニアでどんな因縁があるかはわからない。

ただ、俺のような人間は触れてはいけないんだというのはわかる。


「…………今回の修行はこの地に現れる藁人形を持った中年女性を取っ捕まえるのが任務だったんだけどそいつはどうした?」

「死神ババアのことですか?」

「死神ババアのネーミングセンスよ。沢田谷という女性だよ。夜な夜な出刃包丁や鎌を持って現れるんだ」

「ゴーストキングを召喚して、ゴーストキングに殺されましたよ……」

「そっか……。まぁ、仕方ないか……」


キャンプの修行の内容を今はじめて聞いたのだが、達裄さん自体もゴーストキングなんか使役する情報は知らなかったらしい。

あくまで死神ババアを捕まえるのが目的だったとのこと。


死神ババアが呪っていた人物は誰だったのか?

ゴーストキングとはなんだったのか?

そういった謎は謎のまま、死亡フラグだらけだったキャンプは終わりを迎えるのであった……。







─────






『クハッ!クハハっ!久しいなゴーストキング……。いや、雫よ』

『…………エニア先輩』


ゴーストキングの鎧は剥がれ、その中身である少女が林に倒れていた。

その姿の目の前に白髪の褐色肌の神様が手を握っていた。


『わ、……私は女なのを捨てて、エニア先輩に……並び立つ存在になりたかった……。それなのに、どうして神に……けほっ、けほっ……。してくれ、なかったんですか……?』


ゴーストキングの正体の少女は既に身体までもが消えていた。

もうすぐ成仏するのだな、彼女は力の入らないことでそれを察してしまう。


『クハッ!神なんかなるものじゃない。……たった152年だったが、ゴーストキングとして生きてわかっただろ?…………ただただ退屈なだけだ……』

『それ、でも……エニア先輩さえいれば……それで……』

『…………悪かったな。眠れ雫』

『…………』


雫と呼ばれた少女は消失した。

本当の意味で彼女は成仏していった……。


まだ、エニアが現代に溢れているギフトを生み出す前の刻の出来事。

プロトタイプギフトともいうべき力を与えてしまい、自我が消えるほど暴走してしまった人間こそ雫であった。

神にもなれず、人間にもなれず、亡霊の王として屍の身体で生きた孤独な少女。


『…………ありがとう、バカ3人。クハッ……』


エニアの目に、一粒の雫が落ちたのであった。









─────





後日談。

遠野達裄は今回のクライアントである政治家の男へキャンプ場で起きた出来事を報告した。


「ありがとう、遠野君。君のおかげでワシは脅迫に怯える日々は終わったよ。メールも脅迫文も全て終わった!あの呪いババアが死んで清々したよ」


「わっははは!」と達裄がもたらした結果に大満足だと笑う男。

「そうですか……」と達裄は相づちを打つ。

1人の人間と1人の亡霊が消えてしまった悲しい惨劇の末がこんなオッサンの安静な日々だと思うとなんともやるせない話だと思いながら、達裄は出されたコーヒーを飲む。


「まったく気持ち悪いよ。若気の至りとはいえ、あんな藁人形を釘で打つクレイジーな女と肉体関係を持った昔の自分が憎いよ」

「はぁ……」

「いやいや、息子がどうとか馬鹿馬鹿しいんだよ」

「…………」


達裄が燃やした日記帳は、おそらく死神ババアの息子だと確信していた。

その息子の現在はもう……。


「悪いことはしない方が良いですよ。因果応報という言葉があります。次も俺があなたを守れる保証なんかありません」

「はっ、因果応報ね。ならワシは100回死んでいるだろうね。だが、生きている。因果応報なんて言葉はないよ。それに今回の遠野君みたいに金さえ出せば守ってくれるしね。ワッハハハハ」

「…………」


達裄は殴りたくなる衝動をぐっと堪えて政治家の男の言葉を聞き流した。

リーフチャイルドの葉子をテレビで見ながら「いくらで抱かせてくれる?」と達裄に聞いてきたこの男に良い印象なんか持つわけがなかった。


「……そうですか。それでは失礼します」

「おお。また何かあれば頼むよ」


こうして、達裄は政治家に見送られながら玄関の扉を開けた。

達裄が外に出た瞬間、小さい何かが彼の横をすり抜けていった。


「…………キツツキ?」


後ろを振り返るが、既に政治家の家の扉は固く閉じられていた……。









「ふぅ……。さて、仕事をするか」


政治家の男がパソコンの前に座った時だ。

1件のメールがパソコンに受信する。

しかも、アドレスはこれまで何度も脅迫をしてきたモノと一緒だった。


「な、なんでこれが……。ま、まさか……!?」


脅迫してくるメールアドレスが何故複数あるのかと疑問になっていた政治家の男。

沢田谷以外にも脅迫をしていた人物が居たという可能性に思い至りメールを開く。

そのメールには短い文章が掲載されていた。







『キツツキがあなたの目玉を奪いに来ます』






──その瞬間、鳥のクチバシが目玉を抉った。
















死亡フラグキャンプ完結です!





もう1人の脅迫者のギフト能力がC級『キツツキを自由自在に操る』です。

文字通りです。





これまでのハーフデッドゲーム編、連休の爆弾魔編もギャグ時空が抜けたらこんな感じのシリアスな話になっていたかもしれませんね。

クズゲス世界は秀頼の周り以外は色々と終わっている世界です。

危険な世界観を楽しく生きているラブコメ……なのかも。

こんなにガラッとホラーな作風に変わることはもうないと思います。

次からはいつも通りなクズゲスを楽しんでいただけると幸いです。

西軍メンバー全員参戦の男子禁制女子会になります。

毎回メンバーから外される中学生2人も例外なく登場です!

そこはもうスマブラSPのノリで行きます!

誰と誰が面識ないみたいな繋がりを無くして、ヒロイン全員顔合わせします!




次回、西軍グループの女子会は何してたんやろ?

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