52、明智秀頼の技

よし、死神ババアとゴーストキングのインパクトにも慣れてきた。


達裄さんの渡したお守り2つで寿命10年も使うコスパ最悪野郎が強いわけないと言い聞かせながら希望を捨てない。


「秀頼、どうする?」

「……タケル。お前は達裄さんを呼んできてくれ」


スマホが圏外なので、直接彼のところに行かないと達裄さんはやって来ない。

だから俺はタケルを呼びに向かわせる。


「秀頼!?お前1人になるんだぞ!?」

「大丈夫だ。絶対死なない。だからタケル、頼む」

「秀頼……」


こんなわけわかんないところで死ぬなんてあり得ないだろ?


絵美、理沙、円、咲夜、永遠ちゃん、和、星子、ゆりか、ヨル、三島、美月、美鈴、マスター、山本、おばさん、達裄さんとお別れもなしに死ぬのはないってもんだろ。


「死んだら星子ちゃんに秀頼のベッドの下覗かせるからな!」

「バカ、絶対やめろ!?」

「死なないんだから関係ないだろ!絶対に達裄さんを連れて来るから!」


そう言ってタケルがキャンプ場へ走って行く。


星子には……。

いや、星子以外にも絵美や永遠ちゃんなど異性のみんな全員含まれるけど、ベッドの下を見られるのは勘弁過ぎる……。

沢村ヤマのヌード写真集なんか見せられるわけないだろ。


それにタケルが不在になったことでギフト解禁だ。

俺のギフトをまだ親友に打ち明ける勇気が無かったのがこんな事態を引き起こしてしまった。

やるべきことはゴーストキング討伐だ。


「行くぜ、ゴーストキング」

『来い、生きている人間がっ!』


俺は飛び出し、地面にある石をたくさん拾っていく。

思い出せ、俺のファイトスタイルは達裄さんに鍛えられてきたんだから。

まだまだ弱い俺だけど、弱いなりに強くなる術を教わってきたんだ。


『スケルトンタッチ』

「っ!?」


俺の目の前にまた巨大な手が現れる。

しかし、こんなのはもう対策済みだ。


「シッ!」

『なっ!?』


俺は拾った石を投擲すると、手が石に触れて砕けた。

この技の弱点は木が腐り落ちた瞬間から気付いていた。


貫通力が皆無なのだ。

物に当たった1個しか破壊できない。


人間観察の力は謎の正体であるゴーストキングにも通用していた。


「お?良いもんがあるじゃねーか」


俺が着地したところには長い木の枝が落ちていた。

竹刀というには心許ないが、棒があるだけで少し落ち着く。

深い深呼吸をして、呼吸を整える。


俺は弱い。

俺は弱い。

俺は弱い。

弱いからこそ、頭を使って戦うんだ。


『スケルトンタッチ』

「だから効かねぇ!」


指で石を弾いてスケルトンタッチを対策する。

そのまま接近戦を挑むようにゴーストキングに近付く。


『バカめっ!』

「はぁぁぁっ!」


ゴーストキングは大きい鎌を振ってきたが、俺はそのタイミングを見計らうように鎌目掛けて大きく木の枝を振る。

狙うはカウンターだ。


『バカ、な……!?』


俺は木の枝で鎌をはたき落とし、鎌が上に弾かれた。

前世からの俺の得意技である剣道の巻き上げを決める。


相手の武器を落として無力化させるこの技を喰らうとどんな相手も隙を晒す。

俺は宙に舞った鎌を手に取り、ゴーストキングに振り下ろす。


『ゴーストハンド』

「っ!?」


ゴーストキングの居た箇所から突然たくさんの黒い手が現れる。

このまま捕まるわけにもいかず、鎌を投げて回避する。


『勝てると思ったか?人間風情が?王は人間ごときに負けぬ』

「くそっ……」


ゴーストハンドとやらで取った鎌がゴーストキングの手に送られる。

もう1回巻き上げをしてやりたいが、この技は油断を付いて武器を奪う云わば不意打ちだ。

1回武器を奪われたものは当然カウンターを警戒する。

警戒している相手の武器を奪うのは難易度が高い。


「くっ……。【俺と死神ババアの認識チェンジ】!」


俺は最後の技である『命令支配』を使う。

これが果たしてくらうかはわからない。

しかし、俺は賭けに出る。

流石にゴーストキングだって、主の死神ババアには手は出せないだろうと踏んでいたのだが、お構い無しとばかりに技を放ってきた。


『スケルトンタッチ』


すると、大きな手は俺の目の前からカーブして曲がり、13年ぶんの寿命が削られて虫の息になっていた死神ババアへと向かっていく。


「【避けろ、死神ババア】!」

「!?」


しかし、俺のギフトの命令に従う死神ババアであったが、健闘も虚しく突然向かってくるスケルトンタッチを背中に直撃してしまう。


「うがああああああああああ!?」


そのまま死神ババアの身体は石のように固まっていき、ボロボロと崩れていく。

人間相手でも木や石と同じく崩れるのか……。

ヤバすぎるな、ゴーストキング……。


「はぁ……。はぁ……。やばいなぁゴーストキング……。見た目通り死神かってんだよ……」


達裄さんとの修行の成果、剣道のスキル、ギフト。

色々な手を尽くしているのに勝てる気がしない。

そんな時だった。

ゴーストキングは俺の予想をしていなかったところへ反応を返す。


『王は神ではない。王はゴーストキング。神ではないのだ』

「?」

『そう!王は死神ではない!王はなれなかったのだっ!神になりたかったのに神にはなれなかったっ!』

「あ?」


突然、興奮したようにゴーストキングは怒りと恨みの言葉を放つ。

その声は聞いているだけで醜悪なモノだ。


『エニアァァァァァ!許さぬぞエニアァァァ!必ず王が貴様から神の座を奪ってやるわああああ!』

「って、お前エニアの知り合いかよ!」


突然エニアの名前が出てきて突っ込んでしまう。

ロリ神様の概念さんの名前が、こんなデカブツから出るなんて普通思わないだろ……。


『なぬ?貴様のような人間もエニアを知っていると?嘘を付くな!』

「クハッ!クハハハッ!クハハハハッ!」

『許さぬぞエニアァァァァァァ!』


俺がエニアの物真似をしながら笑ってみせると、なんか地雷を踏んだらしく、憎しみにより力が増していくゴーストキング。

ゴーストキングから冷静さが無くなっていくのを感じる。


『152年前の決戦を王は昨日のように覚えているぞぉぉぉ!エニアァァァァァ!出てこいエニアァァァァァ!』


ゴーストキングが叫んでいると俺の目の前に紙が現れる。

意味はわからなかったが、その紙をキャッチし、スマホで光らせてみると文字が書かれてある。


「えーとなになに。『クハハ!王が神に勝てるわけないだろアホ。お前、木偶の坊じゃん。エニアより』だって……」

『キシャアアアアアアア!』

「うわ……」


ゴーストキングも死神ババアみたいな奇声を放ちゾワゾワと力を増していく。

3メートルほどの身長はもっと大きくなり、5メートルほどの高さになる。

まだ進化を続けるゴーストキングに俺はどう動けば良いのかと頭を悩ませる。

いや、もう考えるのすら惜しい。

俺は反射的にギフトを使っていた。


「この……。【ゴーストキング、死ね】」

『ふっ、王は亡霊。……すでに死んでいるわぁぁぁぁ!』


ギフトの力をはね除け鎌を再び構えるゴーストキング。

素で達裄さんみたいにギフトを打ち消すなんてインチキも良いところだ。


「5メートルは高いな……。流石に武器が届かないか……。なら上に行くか!」


ゴーストキングの裏に周り、すぐ近くの高い木に辺りを付けてジャンプで枝に掴まる。

ゴーストキングは大きくなったことで、俺を見失ったみたいで辺りをキョロキョロと見回している。

最大の隙を晒す相手に見付からないように気配を消し、木に登っていく。


「おい!」

『っ!?』


大きな声でゴーストキングに『ここにいる』ことをアピールさせる。

狙い通り、こっちを振り返ったのを確認して木の頂上から跳躍する。


「こっちだぜっ!」


ゴーストキングの目玉を抉るように木の枝を突き付ける。

骸骨ながら、黒いものに刺さる気持ち悪い感触が走る。

人間相手なら絶対に出来ないことだが、人間じゃないからこそ手加減をしない。

いつか、エニアと戦う時になった時に俺は躊躇わないように……。

心を鬼にする。


『グガアアアア!?人間風情がぁぁぁぁ!?』

「よっと!」


木の枝を目玉に刺したまま、そのまま5メートルの高さから地面に落ちる。

そのまま着地するのは無理なのを察して受け身を取り、転がった。


前世で死ぬ時も受け身が取れてたら死ななかったかもしれないのにと右腕が恋しくなり、腕に視線を向ける。


『まだだっ!王はまだ健在ぞ!』


木の枝を目玉から取り外しながら、俺へ怒りを見せる。


「…………勘弁してくれよ」


俺は擦った足を無理に立たせる。

絶対、明日痣になっているのを察して嫌になってきた時だった。












「お待たせ、秀頼」

「え……?」


俺の後ろから頼もしい手が伸びてきて肩を優しく叩く。

「選手交代だ」と言って、そのままその声の主が俺の前に立つ。


「達裄さん……」

「よく頑張ったね。今回の修行で得るべきモノはたくさんあったかな?まぁ、限界みたいだし、あとは俺に任せな」


俺の憧れの人の背中が目の前にあった。















次回、死亡フラグキャンプ編完結!

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