51、『ゴーストキングの降臨』

林の中へ、俺とタケルが入っていく。

虫の声、鳥の声、風の音。

それら自然の音すべてをかき消すように、硬い物と硬い物がぶつかり合う音は鳴り響く。



カン。

カン。

カン。



キャンプ場よりもハッキリ聞こえるそれは、ようやく金属と金属がぶつかり合う様な音に聞こえる。

嫌な汗が背中に流れる。



──おい。



その時、俺の体内に宿る秀頼が語りかけてくる。

突然のクズゲス野郎の声に、金属音よりそちらに意識が持っていかれる。

なんだよ、と心で呼び掛ける。



──引き返しても引き返さなくてもヤバいぞ。



秀頼の忠告に、事の重大さに気付く。

二者択一なのに、どっちもヤバいの忠告なのは詰んでいるんじゃないだろうか……?


つい最近、美月ルートの死亡フラグも消えたと喜んだのもつかの間、俺の死亡フラグは新しく生えてきたらしい……。

どうしようか考えるが、既にタケルが前に進んでしまっているので俺も金属音の震源地目掛けてコソコソ歩いていく。


本当に金属音の正体がすぐそこというところであった。



シーン……。



急に金属音が止まった。

わけがわからないまま、俺とタケルは顔を見合わせる。

顔の表情はわからないが、タケルが「行くか?」と小声で言われて「あぁ」と頷く。

そして金属音が響いていたとされたところに、他の木と比べても一回り大きい木があった。


鉄じゃないのか?、と疑問になりながら木に近寄る。

タケルがスマホのライトで木を照らした時だった。





藁で編んであった人の形を模した小さい物に5 本の釘が刺されてあった……。




「うわっ!?」とタケルが小さい悲鳴を漏らした時、俺は人の気配と、弱々しい光を見付けた。

それの同時に凄まじい早さで何かが風を切る音が耳に届く。


「伏せろっ!?」


俺がタケルの身体に飛び込む。

そして体制を崩して2人で地面に倒れ込む。

その直後、タケルの頭があった位置に『ガンっ!』と何かが刺さる音がする。

タケルが手から離した光っているライトを向けると、出刃包丁が木に突き刺さっていた。


『シャアあああああああ!』


突然、先ほどの弱々しい光があった場所からしわがれた声の奇声が響く。



『みぃぃぃぃたぁぁぁなぁぁぁぁ!』



「うわあぁぁ!?」


タケルの悲鳴が地面から聞こえる。

パニックになっているタケルの手を取り立たせて、スマホのライトを消し、タケルのポケットに無理矢理入れる。


「逃げるぞ、タケル」

「ひ、ひでよ……」

「行くぞっ!」


半ば怒鳴りながら慌ててタケルの手を引き逃げ出す。

一応、先ほど来た道へ引き返す方向へ、足を動かす。


「まぁぁてぇぇぇぇ!殺すぅぅっ!」

「くっ……」


声に振り返ると頭に数本のロウソクが立った冠みたいなものを被り、トンカチと鎌を両手に持ち俺とタケルの方向へ向かってくる。


「な、なんだよあの死神ババア!?」


タケルのびびった声が横から聞こえてくる。

死神ババアという如何にもなネーミングセンスに突っ込む余裕もなく走っていくとトンカチが投げられてきた。


「クソッ!?」


横に入り木の影に隠れる。

トンカチが木に当たり、『バゴオ!』と凄まじい音を響かせる。

今の攻撃で俺が動けなかったら今ごろ脳ミソはぶちまけられていただろう。

この真っ暗な深夜でも恐ろしいコントロールに、躊躇いのない攻撃だった。

俺の見立てではあの死神ババアはゆりかやヨル以上に強いと踏んでいる。

もしかしたらアイリーンなんとかさんに並ぶ猛者かもしれないと死神ババアを警戒する。


「キシャアアアア!キシャアアアアアアア!」


奇声を放つ死神ババア。

すると、とんでもないことを口にした。


「シャァァァァァ!ギフトォォォォォ!『ゴーストキングの降臨』!フィィィィィィ!ヒャアアアアアア!」

「……は?」


死神ババアが奇声放ちながら『ギフト』という単語を発した。

間違いない。


すると、聞き間違いなのを願うのも、それを嘲笑うかのように黒い影が集まっていき、妖しい光を纏うモノが実体化する。


宙に浮き、ぼろぼろな衣に身を包み、片手には大きい鎌を持ち、頭には王冠を被り、顔が骸骨の見るからにヤバい奴がそこに降臨した。

身長は3メートルほどのそれは誰が見ても死神と呼ぶに相応しい佇まいである。


『呼んだな人間……。まずは寿命を3年いただく』

「シャアアアアア!?」


奇声しか発さない死神ババアは苦しい声を上げる。

しかし、顔色が悪くなっただけでピンピンしている。


「ゆ、夢なのか……?な、なんなんだよ!?なんなんだよあれ!?」

「くっ……」


せっかく『アンチギフト』持ちのタケルが居たのに、みすみすとギフトを使わせてしまったのが失敗した。

まさか死神ババアがギフト持ちなんて考えられないじゃないか。


「ゴォォストキングよぉ!あの2人を殺せぇ!殺せ、殺せぇぇぇ!」

『……よかろう』


殺せを連呼する死神ババアの命令に従うように、ゴーストキングと呼ばれたモノは動く。


『スケルトンタッチ』


俺の目の前に巨大な手が現れる。

それを俺は転がりながらかろうじて避けると、手が木に当たる。

すると、木が突然腐り落ちる。


「…………」


その圧倒的な人外の力に唖然としてしまう。


『スケルトンタッチ』


2発目の攻撃が来る。

俺の目の前にまた巨大な手が現れてしまい、避けられなかった。


「あ……」


死亡フラグに愛された男・明智秀頼はここで死ぬんだと察した。

あぁ、また俺死ぬんだ……。

そう思いながら、俺は巨大な手から目が離せないでいた。


なんの感慨もなく、手が迫ってきた。



しかし、俺に触れた途端にその手は突然消失した。



『む?お前、なにか聖なる物を持っているな』


ゴーストキングが疑問の声を出す。

すると、動きだしたタケルが俺の手を取り、立たせた。


「も、もしかしたら達裄さんから渡されたお守りじゃないか……?」

「え?」


突然お守りがどうとか言ってきたタケルだが、その意味がわからなかった。

しかし、次の言葉で理解した。


「た、多分キャンプ前に達裄さんから渡されたお守りのおかげで助かったんだよ。こうなることを達裄さんはわかっていたんじゃないか……?」

「な、なるほど……」

「あいつが言った『聖なる物』。多分、このお守りだ……」


タケルが俺を励ますように言ってきて、お守りを俺に見せてきた。

そこに一筋の希望の光を見いだす。


「よし、なら安心だな!」

「へっ!何がゴーストキングだよ!見かけ倒しじゃねーか!やーい、無能骸骨!」


無能主人公がゴーストキングを無能骸骨と煽る。

複雑な気持ちになってしまったが、その煽りを受けて『む?』とゴーストキングが反応する。


『王の力がその程度なわけがなかろう!10年の寿命を使う』

「がああああああああ!?アアアアアアアア!?」


死神ババアの苦しむ悲鳴が目障りだ。

それだけでデバフにでも掛かった気分になる。



『──死の終極』



「あ……?ああ!?」


ゴーストキングが妖しい超音波を辺り一帯に轟かせる。

するとタケルが持っていたお守りが灰へと変わっていく。

慌てて俺もポケットに手を突っ込むとお守りの原型は消えていて、サラサラとした砂の様な感触になっていた。


『正々堂々、2対2で戦おうぞ』


「正々堂々の意味知らないだろ!?脳みそのない亡霊が何言ってんだアホ!普通の人間は触ったモノ腐らせる力とかないんじゃボケ!」


存在からして突っ込みどころ満載のゴーストキングに真っ向から突っ込みを入れる。

しかし、状況は絶体絶命……。


ゴーストキング、死神ババア。


お守りもなく、敵2人をどうやって立ち向かうのか……。

達裄さんの修行の成果を存分に活かすことを決意し、立ち上がった。














B級

『ゴーストキングの降臨』


ギフトを使うことで、3年の寿命を削りゴーストキングを呼び出す。

死神ババアは呪いの目撃者を消すのに手こずった際などにゴーストキングを呼び出す。

基本、邪魔な奴を消したい時はゴーストキングに頼らず、自分で処理する(寿命が勿体ないから)。

ギフト使用者の死神ババアの寿命を使うことで、人外の力を使うことができるが、許可なく勝手に寿命を使うはた迷惑な奴。

ゴーストキングと死神ババアの間に、絆のようなものは皆無。

これまでゴーストキングを使って3人殺害し、死神ババアが直接手を下したのは8人。

因みに、ゴーストキングの存在はギフトではないので、『アンチギフト』でスケルトンタッチは防げない。

『アンチギフト』で防げるのはあくまで召喚のみ。

どっちかと言うとゴーストキングはエニアの存在に近い。



死神ババアがやっていたのは完全に丑の刻にやるやつです。







次回、秀頼VSゴーストキング!

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