50、十文字タケルは怖い

「……ここ出るでしょ、達裄さん」


ロウソク、日記、髪の毛とホラーな雰囲気に鉄板トリオが立て続けに現れたことで俺は達裄さんに問い詰める。

タケルもそれを確信しているのか、じっと達裄さんを眺めている。


達裄さんは目を瞑りながらペットボトルの蓋を締める。

そして一言「あぁ」と肯定する。

それにタケルと同じタイミングでごくりと喉が鳴る。

「ここは山だからな……」と言い訳のように説明をする。


「確かにここは、霧が出やすい。夜は冷えるかもな」

「そうじゃねーよ!」

「え?山の天候の心配してんじゃねーの?」


達裄さんはこっちが驚いたとばかりに目が丸くなっていた。

そんな天然な達裄さんの反応にずっこける。


「じゃなくて、幽霊とか出ますよねここ!?」

「なんか心霊スポットとかじゃないっすよね!?」


タケルと一緒に達裄さんを責めるも、彼は首を横に振る。


「いや、大丈夫だよ。ここは幽霊は出ない土地だよ。俺、ガチの心霊スポットに行ったことあるからわかるけどこんなの比じゃないレベルで心霊スポットはヤバいよ。2人で歩いているのに3人ぶんの足音があったり、2回に1回はエンジン付けるの失敗したり、カーナビが何故か墓地に案内するとかこの土地ではそういうのないしなぁ……。首のない武者に追いかけられた時は結構やばかったなぁ、もっと戦いやすい靴を履けば良かったなぁ」


達裄さんが過去の心霊スポットの出来事を語る。

嘘っぽい話だが、この人のことだからマジなんだろうなという謎の信憑性がある。

それより、首なし武者と戦っているのが意味がわからないが……。


「結局その武者に追いかけられた時どうしたんすか?」


タケルが気になったとばかりにその時の出来事を突っ込む。

すると、特に自慢話でもするわけじゃなく、素の反応を見せる達裄さん。


「え?普通に首に手刀を叩き込んで気絶させてきたよ」

「…………」


原作の絵美が美鈴を気絶させた時と同じことをやっていた……。

この世界は脳筋しかいないのか……。


「ささっ、つまんない話は良いからさ。ゆっくりキャンプしながらリーチャやスタチャや沢村ヤマを語り合おうぜ」


達裄さんが笑いながら、奥のキャンプスペースへと消えていく。

彼とはぐれた瞬間、首なし武者に襲われたら守ってくれる人が居ない恐怖から早歩きで達裄さんに着いて行く。


「怖いよぉ……。こんなことなら俺は山本と遊びに行くんだったよ……」

「あ、今週は山本は彼女と『アンデッド登山』見に行くって言ってたぞ。山本と過ごしてもホラーな週末だな」

「もうやだ……。俺、怖いのマジで無理なんだよぉ……」


タケルが少し半泣きしていた。

この主人公、ホラーが大の苦手というのがプロフィールに書いているレベルだからな。

気の毒なことをした。


俺はまだこのホラーな展開に着いて行けるが、タケルは既にギブアップ寸前である。


「でも手刀で幽霊をどうにかできる達裄さん、頼もしいだろ?だから明日まで我慢だタケル」

「ぅぅ……」


タケルが怖がっているので手を握ってあげた。

高校生にまでなって何しているんだろ?という感じだが、それでタケルは恐怖が薄らいでいくのか、ちょっと顔色が良くなった。


「もうしばらく手を握ってて……」

「わかったよ」


タケルの弱々しい声に頷きながら達裄さんに追い付くと、真っ先に握られた手を見て不審なものを見る目になる。

もしかしたらホの字に間違われているのかもしれない……。


「何してんの君たち?」

「俺、超怖くて……」

「タケルが落ち着くまで」

「そ、そうか……」


この時ばかりは達裄さんもどんな反応にすれば良いのか困惑したのか、そのまま前を向いて歩き出した。


こんなアクシデントがあったのだが、キャンプが始まってみると大盛り上がりになった。

久し振りのテント張りも楽しかったし、達裄さんの妹自慢話や、俺とタケルの学校の話をして自然と怖い雰囲気も忘れていった。


「いやー、こういうとこで飲む酒は旨いなぁ」

「明日は飲酒運転にならない様にしてくださいよ」

「わかってるよ。きちんと最後に酒飲んで10時間近くは運転しないから」


達裄さんはチューハイ缶を開けて、肉を摘まんでいた。

俺とタケルはお茶やジュースである。

酒を勧められたが、「未成年なんで……」と断ったら「秀頼って未成年なんだ」と驚かれた。

中身は30近いけど、外見は高校生なので少しショックを受けたりもした。


「妹自慢ゲームしようぜー!」


和やかな雰囲気の中、少し酔った達裄さんがそんな提案をしてきた。


「いぇーい!」


タケルも達裄さんの悪ノリに乗って、ジュースを片手に賛成とばかりに声を上げた。


「ちょっと待って、達裄さんは5人の妹いて有利過ぎる」

「じゃあ葉子の自慢縛りでゲームするぜ。じゃあ俺、秀頼、タケルの順番だー!」

「おっしゃ!やるっすよ!」


こうしてキャンプファイアの前でシスコン自慢ゲームが始まった。

達裄さんオリジナルゲームとのことで、リズムに合わせて俺が星子の、タケルが理沙の、達裄さんがリーフチャイルドの自慢をしていく高尚なゲームである。

達裄さんのターンから始まった。


「妹自慢。葉子は独自の世界観持ち!」

「妹自慢。星子は守りたくなるお姫様!」

「妹自慢。理沙は友達想い!」


こんな感じでシスコンのバカ3人のゲームがテンポ良く進む。


「妹自慢。葉子は髪がサラッとしていて永遠に撫で続けられる!」

「妹自慢。星子はどんな曲を歌っても必ず95点は取れる!」

「妹自慢。理沙の黒髪は大和撫子そのもの!」

「妹自慢。葉子は2日に1回は黒くてエロい下着を履く!」

「妹自慢。星子は胸が小さいのを気にしてスタチャになると胸を盛りまくる!」

「妹自慢。理沙は下着が外れる事件が多発していてサラシを検討している!」


こんな感じで『妹自慢』と口にして、自分の妹の名前を呼んでシスター自慢をするという兄貴特権のゲームである。

妹がいない山本やマスターは絶対に混ざれない儀式である。


3時間もこんなことをしているとテンポが崩れたりもしてくる。


「妹自慢。えっと星子は……、スタチャの衣装に悩んだら俺にラインして俺好みの衣装を着てくれる!」

「妹自慢。理沙はえっと……教科書忘れた子に教科書貸して……、自分は教科書抜きで授業をする優しい子!」

「あれ?10分前に聞いたなそれ」

「えー?マジっすか!?じゃあ、理沙はチェス弱くて可愛い!」


後半になると、こじつけて褒めるという展開になっていた。


「俺、葉子と星子ちゃんだけじゃなくて理沙ちゃんの魅力にも気付いたよ」

「達裄さん……」

「今度、わんこラーメンに俺も誘ってくれよ」

「必ず」


タケルと達裄さんの友情度も上がっていた。


「リーフチャイルドの黒い下着姿見てぇ!」

「俺も理沙ちゃんの右胸にある黒子見てぇ!」


タケルがおっさんになったのか、達裄さんがガキになっているのかはわからないが、そんな頭の悪い会話までしているのであった。

気付けば夜も遅くなり、広いテントで川の字になり野郎が3人並んで眠りに付く。

特に車の運転の疲れと酔いが回ったのか達裄さんが1番最初に力尽きて寝てしまい、俺とタケルも自然とまぶたが閉じていく。












「秀頼ぃ……」

「……ん?」


気持ち良く熟睡していたのだが、タケルに揺すられ目が開く。

なんだと思い「何?」と聞き返すと、タケルから「トイレに着いて来て」という誘いだった。


「……なんでツレション頼むんだよ?」

「だって達裄さんは起こせないだろ……」


ビビりなタケルは俺を連れてトイレに向けて歩いていた。

静かになったキャンプ場は、深夜なのもあり静寂であり、より異世界感が強く感じる。

折角恐怖感も消えていたのに、またちょっと不気味なキャンプ場に見えてくる。

そんな道を歩き、用を済ませて手を洗う。

そこからテントに向かっていた時だった。






カン。

カン。

カン。






何か硬いものと硬いものがぶつかり合う音が川のある方向の林から聞こえてくる。

静寂だったトイレへ向かう時には聞こえなかった音なので尚更気になった。


カン、カン、カン。


無機質な音は続く。

それを聞いていたタケルは「これ、なんかの動物だったらヤバくないか?」と慌てた声を出す。


「確かにヤバいなぁ……。じゃあちょっと見に行かねぇか?」

「え?だ、大丈夫かな……?」

「こんないきなり聞こえる音を知らない振りしてるのが怖いよ。動物にテントに入られたら嫌だし」

「だなぁ……」


こうして、好奇心から2人で俺たちはその音がする方向へ向かった。




……まさか、これが死亡フラグ並みにヤバいやつだというのも知らずに。













タケルがホラー嫌いはこちらより。

第7章 プロローグ

第156部分 番外編、プロローグ1




タケルがヒロインな展開は続く……。






次回、死神ババアと無能骸骨が2人をガチで殺しにかかる……。

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