27、明智秀頼は幻滅されたくない

俺が教室を歩いていると見慣れた親友が頭を悩ませていた。

それを興味本位で声を掛けてみることにした。


「よっ、山本大悟」

「うぇーい」

「うぇーい」


山本に声を掛けるとこちらに視線が向く。

なんか話したそうにしていたので、彼の座っている席の近くに寄った。

どうせまたしょうもないことに悩んでいるんだろうなと考えつつ「どうした?」と声を掛ける。


すると、ちょっとだけ考え込む山本だが、周りをキョロキョロと見渡し、コソコソするように話かけてきた。


「なぁ、デートに女を連れて行く時ってどこ誘えば良いの!?」

「……」


30年間童貞の非モテ男に聞くとか嫌味か?

とは言えずに真面目に考える。


「やっぱりデスティニーランドじゃないか?」

「ガッツリだな!デスティニーランド誘えたら完全にやれるな!」

「山本やってんなぁ!」

「俺はやってねーよ!?」

「はは(裏声)」


俺にデートスポットを聞くだけ無駄である。

異性との放課後デートはないのに、異性との放課後修行でバッティングセンターに行く奴に案なんかあるわけない。


「他の案は?」

「んー。デスティニーシーじゃない?」

「だからがっつき過ぎるのよ!?俺にはデスティニー誘うレベルが足りないのよ!わかるか?そこまでの仲じゃねーのよ」

「長谷川雛乃のこと知らんからレベルとかわかんね」

「俺の彼女の本名言うなよ」


タケルに胸の大きさで理沙と比べられた女だ。

そんなゲームのヒロインやってる爆乳理沙やロリ巨乳三島と比べるのが酷だ……。

比べるなら見た目が幼い絵美や乙葉と比べてあげて……。


「レベルとか関係ないと思うけどね。スタブァの姉ちゃんに『行きたいところない?』って聞いたらデスティニーランドって行ってたし、女の子はみんなそうなんじゃないか?」

「お前は店員さんに何を質問してんだ!?だから仲良くねー奴とデスティニーって地獄じゃん!?気まずいだるぉ!?」


『気まずいだろ!?』じゃなくて『気まずいだるぉ!?』と強調する山本のセンスが光る。


「付き合ってる時点で仲良くねーって……。笑わせるぜ。MDTだな」

「MDT?」

「マジ童貞」

「うるせーよっ!お前もMDTだろ!?」

「ふっ、俺はマゾ童貞だよ。マジ童貞よりはランクが高いぞ」

「なんで格好付けるんだよ!?格好良くねーよ!」


山本がうだうだと頭を悩ませる。

そっか、他人事だと思ってたけど、彼女できたらデートスポットへ連れて行くリサーチ力が大事なのか。

…………俺にそのリサーチ力あるのか?


「真面目にデスティニー以外で案ない?」

「カラオケボックスとか」

「無難過ぎるんだわ。それくらい月2で行くしぃ」

「無難……」


俺と来栖さんのデートを否定された気分だ……。

山本的にはカラオケ以上、デスティニー未満のデートスポットに行きたいということだろう。

…………マジで案がない。

あれ?

俺、誰かと付き合ったら幻滅されない……?




『えー?秀頼君デートスポットないのぉ?』

『兄さんと比べて最悪ですね……』

『豊臣君は好きだったけど、明智君はあんまり……』

『KIKだな。貴様田舎に帰れ』

『秀頼さんって名前に反して頼りないですね……』

『姉者も私も響きません』

『元お兄ちゃん。現ゴミクズ』

『元師匠。現ゴミクズ』

『生きてるのがおこがましいよな明智?』

『明智さん、ないわー』

『クハハハハ!ウケるー!クハハハッ!』





「…………」


周りの女性陣に幻滅される図が頭に浮かんだ。

みんなとは付き合っているわけではないが、こんな冷たいこと言われたら俺多分引きこもりになるわ……。

マゾ童貞と断言してなんだが、知り合いに罵れるのだけは勘弁……。

罵れるのは見ず知らずの他人だから興奮するのであって、親しい仲から罵られたらただただ傷付くだけである。


『女子なんか気にすんな明智先生。なんでも奢ってやるよ……』と哀れみの目で優しくしてくれるタケルの姿を思い浮かべたらなんだか死にたくなってくるな……。


「や、やっぱり俺じゃなくて女子の意見大事よ山本」

「お?おお」

「だから女子に直接聞いてみようぜ」

「そんな……。でもどこにそんなこと答えてくれる女子が……」

「誰でも良いよ!あ、咲夜!咲夜、来てくれー!」


自分の席で小説を読んでいた咲夜を呼びつけると山本の席周辺にまで来てくれた。


「どうした、秀頼?」

「うぇーい」

「うぇーい」


咲夜に挨拶すると彼女も返してくる。

そして、俺の近くに山本がいるのに気付き、同時に山本と会話していたことにも察したらしい。


「よっ、大悟」

「いや、なんで名前……?」

「うぇーい」

「名前呼びに突っ込みがなくて困惑するわ!」

「すまんな山本。秀頼やタケルは名前呼びなのに今まで山本だけは名字呼びをしてしまっていた。お前とは、小学校から同じだったな……」

「変に気を遣わなくて良いよ!?別に谷川と俺は親しくないでしょ!?結局山本呼びしてるし!?」

「長い」


冷静な咲夜の突っ込みが入る。

なんか山本がクラスの女子と絡むのが新鮮であった。


永遠ちゃんと山本の会話とかイメージ出来なすぎる絡みなので見てみたい気もするけど見てはいけない気もする。


「それで?わざわざ山本との会話にウチを召喚してどうした?」

「山本が彼女とのデートスポットを探しているんだと」

「長谷川雛乃とのデートスポット!?」

「なんで谷川まで俺の彼女を本名で呼ぶんだよ!どこまで広がってんだよ!?」


いつの間にか長谷川雛乃が咲夜の耳にまで届いていたらしい。


「ウチは長谷川雛乃と同じ小学校だった。彼女はキッズ時代から妙にちっぱいだった記憶ある」

「小学生大体ちっぱいじゃない?」

「山本変態だな」

「え?」


山本は心外って顔をしている。

御愁傷様。

因みに山本と咲夜はこんなんでも小学校の時は同じ学校らしい。


「ま、ウチは長谷川雛乃と会話したことないけどな!」

「コミュ障娘……」

「谷川はなんで偉そうなの……?」

「お前、キッズ時代山本と会話したことあるの?」

「ない」

「ないのか……」

「ウチの小学生時代は秀頼としか話した記憶がないぞ」


俺、喫茶店通ってたの1、2週間に1回くらいなのにそれですら俺としか話した記憶がないのか……。

むしろ俺の方が咲夜とガキの頃に話した記憶がない気がする……。









山本の彼女の名前はこちらが初出。

第9章 連休の爆弾魔

第210部分 3、男の文化発表会




前のページのコメント、山本君への期待コメントがちらほらあるけどいつの間に人気キャラになったん……?

なんで野郎ばっかり人気になるんだろ……。





次回、咲夜のアドバイス!

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