2、遠野達裄はそっけない

俺とマスターで粗大ゴミならぬタペストリーについて話し合う。

マスターは本当にありがた迷惑って顔である。

センスがない柄をしているのは俺も認める。


「別に今回も咲夜にあげちゃおうぜ」

「咲夜だってそんなに何個も要らないよ……。しかもこれ3回目のタペストリーと同じ柄じゃん……」

「よく覚えてんなそんなの……」

「あの時も横浜旅行だったしね。絶対姉貴、柄見ないで買ってるよな……」


柄が被ってるとなると咲夜だって欲しいとは言わないだろう。

しかし、捨てる・売るには薄情過ぎる。

店に飾るにはセンスはない。

はてさて、困った……。


「なんで毎回タペストリー買うの?」

「形に残るお土産にしてるんだってよ」

「キーホルダーやストラップくらいなら使うんだけどタペストリーは本気で要らない……」


俺とマスターで困った顔にらめっこが始まる。

マスターが目で『秀頼君が貰いなよ』と語っている。

ブルブルと首を振って否定した。


「直接おばさんに『タペストリー要らね』って言えば?」

「弟が姉に勝てるわけねーだろ。嫌がらせの意味も込めてタペストリーなんだよ!」

「あんた立場弱そうだもんな……。もしかしておばさんに嫌われてる?」

「弟はいつだって姉に嫌われてるもんさ……」


マスターが困りと諦めをミックスさせた表情を浮かべる。

というかおばさんとマスターの会話が本気で想像できない……。


「はぁ……、本当に1000円くらいのクッキーみたいなので全然良いんだけど……」


マスターがため息を付いていると来客を告げるベルが鳴る。

俺とマスターで出入口に視線を向けると、俺の師匠の達裄さんが現れた。


「おっす!マスター!おっ、それに秀頼じゃん」

「お疲れ様です」

「おっつー」


達裄さんが俺の隣に座り込む。

そして、すぐにタペストリーを発見する。


「なにそれ?」

「達裄さんにプレゼントっす」

「センスねー」

「酷い……」


達裄さんの顔に『要らない』って書いていそうなくらいにジト目だった。


「達裄さんの妹さんにでも良いので是非!」

「俺が嫌われるよ」

「大丈夫っす!達裄さんが貰ってくれたら俺の好感度が上がるんで」

「俺に対する秀頼の好感度とか3くらいで良いんだけど……」

「酷い……」


ボロクソだった……。


「でも俺からの好感度0は嫌ってことっすよね!達裄は秀頼の好感度がカンストした」

「好感度の上がり方バグってんだろ」

「達裄さーん!俺、達裄さん好きなんすよ!」

「なんで俺にアタックするんだよ……。咲夜ちゃんとか絵美ちゃんとかタケルとかそっちにアタックしろよ……」

「なんでそのメンバーでタケルが入るんすか!?」


達裄さんと何年も修行した結果、いつの間にか俺の憧れの人が達裄さんになってしまったからである(強さ的な意味で)。

あと、ノリが軽くて乗ってくれて面白い兄ちゃんだと思う。


「あっ、そういえば達裄君!僕は見たよ」

「え?何が?」


ニコニコ笑っているマスターに達裄さんも不審がっている。


「こないだ店が休みの時にデパートでね」

「僕も帰ろ、おうちへ帰ろ、妹待ってるからバイバイバイ」


達裄さんがジャパン昔話で見たノリのテーマを口ずさみながら出ていこうとするがマスターが「まぁまぁ、コーヒーは飲んでいこうよ」と止められる。


「どうしたんすか?」

「達裄君がキレイな姉ちゃんと2人っきりで歩いていたんだよ。妹って感じじゃなかったから彼女だろうね」

「どんな娘でした?」

「金髪で2つ結いをしていてさ、清楚系な人だったなー。身長とか胸とか小さい感じ。絵美ちゃんみたいな雰囲気だったかな」

「ちっ……。うるせーな……。店買い取って売却すんぞ」

「君だと本当に出来そうだからガチっぽい反応やめて」


舌打ちしながら悪態を付いている様を見ているとガチっぽい反応である。

もう帰りたそうな顔になっている。

それでもマスターの彼女弄りは止まらない。


「達裄君が妹自慢していたら彼女さん死んだ目になって流してたね」

「それはいつものことだし」

「それはそれでどうなんすか……?」


ふてくされた反応をする達裄さん。

この人の返す反応は面白くて、格好良い時のギャップが凄いんだよね。


「ところで因みになんすけど」

「なに?」

「どれくらいのペースでやるもんなんすか?」

「週一」

「そっけない……」


週一でやってるのがそっけないわけではなく、達裄さんの反応がそっけなかった……。


「んなのどうでも良いんだよ。ところで例のやつは?」

「あぁ、今日からだよ」

「例のやつ?」


達裄さんがマスターに話を振ると、即返事をする。

なにか企んでいるっぽいが、俺には全容が掴めない。


「ふふん。咲夜にも内緒にしてあるプランがあってね」

「プラン?」

「実はこの店にバイトを雇うことにしたんだよ」

「え、えぇぇぇ!?」


マスターがついにバイトを雇う……?

ビックリするなと言われる方が無理であった。


「ま、マスターにバイト代が払えるの……?」

「何に驚いてるんだよ!?払えるよ!?別に君たち以外にも客は来てるんだからね!?」

「とりあえず看板娘ってことで若い姉ちゃんで料理上手雇おうぜって俺がマスターにアドバイスしたんだよ。ウェイトレスの制服も可愛いやつが店にあってね。これから軌道に乗ったらバイト増やしてとね。この喫茶店の改革ってやつよ」


達裄さんが楽しそうに解説してくれる。

マスターの店の改善を色々して、売り上げアップを決める算段らしい。


「もしこの店が成功したらメイド喫茶にするつもりなんだ。ふふっ、妹にメイド服着せてご奉仕してもらうぜ」

「いや、その野望は店長の僕もはじめて聞いたんだけど!?」

「マスター、パンダとペンギン入れて白黒メイド喫茶にしようよー」

「パンダとペンギンは諦めろ!相変わらず自由過ぎる師弟だな!」


もしかしたら達裄さんが来た理由もそのバイトの人の顔合わせかもしれない。

なんか面白い日に喫茶店に来てしまった。

ギャルゲー予定が崩れたのがどうでもよくなってきた。


「この店はリピーターが多いんだけど新規客が弱いんだ。だから新規客を呼び込むために俺が色々裏で動いているんだ。SNSも広告も使っていくし、スターチャイルドの名前も使う(許可済)。まぁ、その辺の経営コンサルをマスターにしてるんだよ。とりあえずタペストリーは店には要らないから」

「はぇー……。ちょっと何言ってるかわからない」

「ビジネスの最初ってそうなるよな。わかるよ」


達裄さんの仕事なんなんだろう?と疑問が無限に湧き続ける。

そうやって俺と達裄さんもお冷やを飲みながら雑談をしていた時であった。




『マスター!着替え終わりました!』


奥から女性の声が聞こえてくる。

バイトを雇った話は本当みたいだ。

マスターが「厨房来て」と指示すると、奥から足音を鳴らした女性が現れた。


「本日からバイトさせていただきます!よろしくお願いいたします!」

「うん、よろしくね。ヨルさん」

「うっす!」


銀色のペンダントを身に付け、赤茶色のポニーテールを揺らしながら頭を下げていたのはクラスメートのヨル・ヒルであった。

バイトってお前かい。

てかマスターと知り合いだったんかい。


頭を上げたヨルがカウンターへ向く。

そして、俺とガッツリ目が合い、ヨルの額に嫌そうな汗が出てきていた。


「って明智!?な、な、なんでお前がここに!?」

「明智じゃない、今の俺は客だぞ。秀頼様と呼ぶんだ」

「呼ぶか、バカ」


ウェイトレス姿のヨルから殺意の籠った目で睨まれた……。










達裄も約70話ぶりの登場。

野郎と会話してる秀頼君が楽しそうである。

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