第9章 連休の爆弾魔

1、タペストリー事件2

三島とも打ち解けてきた頃。

ついに高校で1番最初の大型連休のゴールデンウィークが始まった。


「あー!やりたいこと紙にまとめないと」


俺の前世からの癖であるやりたいことリストである。

これを作らないことに大型連休とは言えないと自負している。


「えっと……『ラブ☆スクール~1ヶ月の恋~』をやって、『シックスガール』やって、『革命将軍』やって……、あっ!『信号機恋愛』もやる予定だったな!」


休みの予定は7日間ずっと引きこもる予定である。

ふふん、宿題もゴールデンウィーク前に全部終わらせた。

陰キャのカレンダーは常に真っ白。


「はぁぁ!良いゴールデンウィークになりそうだ!今年は20人のヒロインは攻略したいよねー」


1作品4人計算だと5本ぶんか。

7日で5本クリアするなら毎日家から出ないと達成できるでしょ。

早速俺は『ラブ☆スクール~1ヶ月の恋~』という250円で買ってきたギャルゲーをプレイする。

ア●ゾン評価☆2で、メインヒロインが棒読みで頭に残ると言われているゲームだ。

ワクワクしながらPCを起動させようとする。


「あっ、秀頼。ちょっと……」

「おばさん?」


ワクワクした気持ちに水を差すようにおばさんが俺の部屋のドアをノックして現れる。

仕方ない気持ちを抑えて、ノートパソコンを閉じた。


「どうしたの?」

「昨日までおばさん達横浜行ってたでしょ?」

「うん」


叔父さんがゴールデンウィーク仕事だから、そのぶん休みが前に来たので、昨日まで2人で旅行に行っていた。

横浜土産も兼ねて、昨日の夕飯はシュウマイであった。

おばさんが不在だった明智家には絵美がご飯を作りに来ていて、そのお礼にと彼女も昨日の夕飯はおばさんが出してくれたシュウマイを食べては『美味しい、美味しい』と評判だった。


「弟にもお土産買ってきたから渡しておいて欲しいの」

「マスターに?」

「うん」


おばさんが頷くと俺に紙袋ごと渡す。

おばさん夫婦は俺の保護者だし、息子みたいなものだが、居候の身とも言える俺はおばさんの頼みは断り辛いのだ。

マスターに会えと言われたら会いに行くしか選択肢はないのだ。

7日で5本ギャルゲー予定は一瞬で不可能になった。


「何買ってきたの?」

「タペストリーよ」

「タペストリー……」


紙袋に大きくて丸められたタペストリーが納まっていた。

これで5回目くらいだが、マスターがタペストリーで喜んでいる場面を1度も見たことがない。


「マスターってタペストリー好きなの……?」

「好きそうじゃない?」

「さぁ……?」


疑問系で会話のキャッチボールが起きていた。


「マスターも食べ物の方が喜ぶんじゃない?」

「でも食べ物って食べたら終わりでしょ。形に残るお土産の方が弟も喜ぶと思うの」

「へぇ……?そうかな?…………いくらしたのこれ?」

「15000円くらいしたわ」

「たっか……」


マスターの嫌がる顔が思い浮かぶ……。


「ところでおばさんは毎回マスターを弟って呼ぶけど昔から弟って呼んでたの?」

「一緒に住んでた時は名前で呼んでたわ。ただ、この年になると名前で呼ぶの恥ずかしいじゃない。だから弟って呼んでるの」

「ふーん」


俺、そもそもマスターの下の名前知らないんだよね……。

谷川って名字しかわからない。

特に名前を覚えなくても問題ないからな……。


「じゃあお願いねー」

「行ってきまーす……」


ギャルゲーをプレイする時間がおつかいで削られる。

別にマスターと会話することもないし、ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと帰ろう……。

それからいつもの道を歩き、マスターの働く喫茶店へ辿り着く。






「いらっしゃい秀頼君」

「おっす」


俺はテーブルにタペストリーの入った紙袋を置いて、そのまま出入口に向かう。


「お疲れーっす」

「って、ちょっと待ってよ!?」

「え?」


マスターに呼び止められる。


「なんだよ!いつもは平気で3時間以上会話していくクセになんで今日は1分未満で帰ろうとするんだよ!」

「だって別に用事ないし……」

「薄情だねぇ……。コーヒー淹れるからくつろいで行きなよ」

「んなこと言われてもなぁ……」


来る度に3時間会話していくから、今日話す話題がないんだよね……。


「急にキ●●●ムーブして帰るのやめろよ……。暇なんだから僕と会話してってよ」

「わかったよ、お邪魔するよ」

「そうしろ、そうしろ」


昔は『売り上げ貢献しないでコーヒーばかり飲んで……』と文句言われまくったが、最近はマスターから利益にならないのにコーヒーを勧めてくる始末だ。

一応、俺以外のタケルとか永遠ちゃんなどの他のメンバーからはお代をもらっている。

例外として、俺が同行しているとコーヒーが無料になるので、彼らが金欠になってしまうと俺が巻き添えをくらう。


「んで?その紙袋は何?」


エスプレッソを渡されると、マスターが嫌そうな顔をして尋ねる。

多分もう、察している顔だ。


「おばさんからマスターへのお土産」

「ふーん……。どうせタペストリーでしょ?」

「どうせとか言うなよ!肉まんとかカステラとかかもしれないだろ!」

「そもそも紙袋からタペストリーはみ出してるじゃん」

「…………」

「無言で隠そうとするなよ」


こうして、再びタペストリー事件が始まった……。










秀頼とマスターの会話を描写をするのはかなり久し振りです。

描写をしてないだけで、度々会ってます。


第6章 偽りのアイドル編

第138部分 40、『キャラメイク』

以来なので約70ページ会話をしてませんでした。

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