23、病弱の代償・贅沢
収まらないドキドキした気持ちを引きずって、自転車で帰宅する。
本当はボクも電車通いをしたいんだけど、電車に乗って苦しそうにしている人を見てしまい、大変だけど学校と自宅を自転車で通っていた。
廃墟に着くのがちょっと遅くなったのに文句の1つなかった明智さんは優しいな。
それから30分くらい自転車を乗り回してようやく自宅にたどり着く。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
ボクのお母さんの声がする。
最近はお母さんの体調が悪くなるから近くに寄らない様に意識してるけど優しいお母さんだ。
他の家族はお父さんに3つ下の弟、あとはペットのネコである。
どこにでもいる普通の家族だ。
生まれつき病弱で体調を崩しがちで家族に迷惑を掛けて、少しでも元気になりたいと常日頃から元気に走り回る男子を見てそう願っていた。
ギフト陽性になるも、まだ能力が覚醒していなかったのかボクのギフトはわからず仕舞いだった。
ただ、高校生になる直前にギフトが突然開花した。
それ以降、ボクは体調を崩すことが無くなった。
しかし、ボクの『病弱の代償』とでも言わんばかりに周りの人が体調を崩してしまう。
家族も、クラスメートも、通行人にもみんなに迷惑を掛けるこのギフトは、ボクをドンドン孤独にさせていく。
クラスメートは誰もが『気持ち悪い』と噂して近寄らない。
中学までの友達からは察しろと言わんばかりに白い目で見られ嫌われた……。
それでも、ボクの家族はそんなこともせずに優しくしてくれる。
一緒に食事をしたり、一緒に居間でテレビを見ることが出来なくなったけど、ボクは家族が大好きです。
そんな時の今日の出会いは突然だった。
『安心しろ。俺がギフトの使い方をお前に教えてやる』
こんなに優しくて、頼りがいのある言葉は嬉しくて、ボクは多分一目惚れをした。
茶髪で、ちょっと目付きが悪い人なんだけど……。
王子様みたい、……なんて考えちゃった。
苦しい顔をしているんだけど、必死に助けてくれる行動力が頼もしい。
「っ…………!?」
今日、握られた手の温もりを思い出す。
ギフトに覚醒する前も後も、弟と父以外の異性からあんな風に触られる経験なんてなかった。
明智さんの手、ひんやりして気持ち良かった……。
ううう、……ダメだ。
ボク、ずっと明智さんのことが頭から離れられない……。
家族から隔離された部屋で食事をしながら考える。
ギフトのコントロールが出来るようになったら……。
……こんな生活ももうすぐで終わるのかな?
また、家族と一緒に食事ができるのかな?
また、中学の時の友達と仲直りできるのかな?
また、普通に学校に馴染めるようになれるのかな?
また、ペットに触れ合えるの?
ギフト覚醒後に失った生活にまた戻れる……。
そう考えるととても嬉しい!
…………けど。
明智さんはギフトがコントロールできるようになったら会ってくれないのかな?
スマホのラインを開く。
この連絡先も、目的が達成したら消されちゃうかな……?
「いやだなぁ……」
ワガママで、贅沢な話だけど……。
両方を失いたくなかった……。
明智さんはそんなつもり一切ないかもしれない。
ボクみたいな生きるだけで迷惑を掛けるような変な子なんか本当は縁を切りたいのかもしれない。
明智さんの縁が切れるのがとても嫌だ。
食事を終えて、お風呂に入る。
「うわ……」
ボクの顔真っ赤だ……。
ずっと明智さんのことを考えていたら妄想が止まらない。
絶対モテるよね、あんなに優しくて格好良いんだもん……。
「はぁ……」
ボクのため息は、お風呂の湯気の中へ消えていった……。
次の日。
今日は日曜日だ。
昼過ぎくらいに会おうという連絡を昨夜にラインでやり取りしていた。
どんな服装で行こうかなんて服を引っ張りだしてくる。
ボクは全然化粧なんかしないぶん、服装で少しでも女の子らしいコーディネートを考える。
ちょっとでも色気があるようにネックレスなんかも付けたりする。
「ま、また今日も明智さんに会えるんだ……」
また鏡に赤い顔が映っている。
自転車に乗りながらで良いから頭を冷やさないと……。
期待と不安を胸にボクは自転車で昨日の廃墟へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます