13、上松ゆりか

上松が俺の命を狙ってくる。

こんなところで殺されてたまるかっ!、と強い意思が沸いてくる。


刃2つを避けて、心臓を狙った3つ目の刃を素手で掴み取る。


「グッ……」


手のひらに刃が食い込み、出血する。

そのまま構わずに、上松まで走り抜き、彼女を押し倒す。


「なにっ!?」

「変態ストーカーの首、取った」


彼女の首元へ、氷の刃を突き付ける。

少しでも動いたら首をざっくりとれる位置だ。


「変態ストーカーではない、ストーカーだ」

「……」

「変態ストーカーではない、忍だ」

「ミスったな?顔赤いぞ?」

「ミスってない、忍だ」

「ごり押しやめろ」


うっすらと頬が赤い上松。

ミスが恥ずかしいらしい。


「…………処女取られる?」

「…………ごめん」


ずっと押し倒したままだった……。

だから顔色も赤かったのか……。

言い間違ったミスもあるかもしれんが、この態勢が1番恥ずかしかった。

氷の刃だけは寸止めしたまま、身体を横へ動かす。


「忍って言うと『忍者の山』とか『忍者の里』出身なの?」

「きのこ、たけのこみたいなものはない。我は駅前生まれです」

「……」


わりとその辺出身だった。

なんでくノ一の格好をしているのか、尚更よくわからん。

ギャルゲーの世界だからと言われたらそれまでだが……。


「まさか不意打ちもギフトも使ったのに、明智に体術だけで負けるとは思わなかった。我、降参」

「もしかしたら身体能力向上のギフトでも使ってるかもよ?」

「我はギフトが使用されたかどうか肌でわかる。明智からはギフト使用がまったく感知されなかった」

「あ?そうなの?じゃあ俺の勝ちね」


氷の刃をその辺に捨てると、アスファルトとぶつかり砕け散った。

上松は氷の刃が消失したのを見届けると、そのまま俺に頭を下げる。


「弟子にしてください」

「は?」

「我を弟子にしてください」

「いやいやいや……、ギフト狩りを弟子にするわけないじゃん……」

「過去の復讐から足を洗います。ギフト狩りを止めて明智じゃなくて……師匠の弟子になります」

「そんな都合の良い話があるかっ!」


無表情で淡々と告げるので、本気か嘘か全然わからない……。

というか、出番がなく死んだモブなのにくノ一は盛り過ぎだろ……。


ん?

そういえば『悲しみの連鎖を断ち切り』のアニメ2話で理沙が『クラスの上松さん、今日全裸の遺体で発見されたんだって……』というセリフを呟いたシーンの時、シルエットで忍者みたいな人が流れてたな……。

ネットで『なんで忍者が映ったんだ?』と盛り上がっていたが、まさかリアル忍者とは思わないだろ……。


「ほら、俺は別に忍じゃなくてただのゲーマーだから。忍は帰りなさい」

「忍ではない、ゲーマーだ」

「なにちゃっかり肩書き変わってんだよ!?俺に合わせんなよ!?」

「ししょー!」

「お、おまっ!?」


上松が俺に抱き付いてくる。

なんなんだよ、このインチキ忍者……。


「忍は強い者の下に就く定め。それはまさに師匠、明智秀頼様です!」

「帰れ」

「ししょー!お願いだから弟子にしてくださいよー!」


上松が背中から離れない。

女1人ぶんの体重が重くて帰れない。


「では、我を弟子に取ったらこんなメリットがあります」

「あ?」

「1週間に1回、我が肩たたきします」

「ほう」


忍が自分を弟子にするメリットを上げてきたので、話だけは聞いておく。


「それに1日1回、我がお風呂で背中を流します」

「実家暮らしだからやめてくれ」

「今なら我の処女破る権利が付いて……」

「帰れ!」

「待ってくだせぇ、師匠ぅ!」

「……」


俺の足元で懇願してくる上松ゆりか。

困った……、ここで殺しておくべきか……?


「じゃあじゃんけんしましょう。3回我が勝ったら我の勝利で弟子にする、10回連続で師匠が勝ったら師匠の勝利で我は撤退します。この条件でじゃんけん勝負です!」

「それ流行ってんの?毎回俺が不利側なんだけど」

「10回連続で我がじゃんけんに負けたら今日は引くと言ってるじゃないですか。ただ、明日にはもっと尊敬して師匠に付きまとうと思います」

「完全にストーカーじゃん」

「ストーカーではない、弟子だ」

「弟子でもねーし……」


仕方ない、俺がじゃんけんに10回連続で勝てば良いだけだ。


「いきますよ師匠!じゃんけんぽん!」


上松の勢いに任せてチョキを出した。













「明日には、必ず弟子にしてもらいますからねっ!」

「さよならー」


パーばかり出す忍に10回連続でじゃんけんに勝ちまくった。


「あと、学校ではギフト狩りの名前を絶対出すなよ。無駄に周りを心配させるな」

「承知。我、約束守る。では、また!シュッ」

「シュッって口にして消えるのか……」


しかし、……初日から変な奴に付きまとわれてばかりだな……。


エニア、ヨル、上松か……。

嫌な出会いばかりである。


しかし、上松が今日死ぬとは到底思えない。

多分今日は直帰するだろうし……。

そう考えると……。


「原作の流れでは、俺が上松を殺害していたってことだよな……」


あの原作の明智秀頼が、自分の命を狙ったギフト狩りを到底許すとは思えない。


上松ゆりかを果たして生存させてしまって良かったのか……。

そればかりを考えてしまう。

『あの時上松を殺しておいた方が良かった』、そんな未来がくるかもしれない……。

自分の中で、答えが見付からない。


しかし、タケルが日常の世界で遊んでいた裏で、秀頼はギフト狩りに狙われていたとか俺の存在はよほど世界にとって害悪でしかないらしい。

運命が俺を殺しにきてる。


でも、俺はギフトなしでギフト狩りを凌いだ。

確実に修行の成果が身に付いていたのを実感して、俺は握り拳を作っていた。

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