14、明智秀頼は嘘を語る

上松を見送り帰路を歩く。

殺意剥き出しの相手と対峙していた時はアドレナリンが分泌され痛さもあまり気にならなかったが、安心しきっている今は氷の刃を掴んだ手がジリジリする。


3日くらいは引きずりそうな痛さだ。

頬はもう出血は治まっているとはいえ、ちょっと目立つ。

あのなんちゃって忍ストーカー女め……。

クラスで会ったら許さねーぞ……。


家も見えてきて、ようやく帰れると思うと安心感が全身を包む。


「秀頼君っ!良かった……、生きてた……」

「あ?絵美か……?」

「手にこんなケガして……、治療しないと」

「大丈夫だよ、これくらい、自分で包帯巻くよ」


手を絵美に見せて笑ってみせるも、絵美は退くことなく、上目遣いで俺を見てきた。


「これくらいわたしにさせてよ」

「わ、わかったよ……、じゃあ頼む」

「うん!家から救急箱持ってきてたから」


俺の家の玄関に入り、消毒をしているとおばさんが驚いていたが、階段で転んだと嘘を付く。

忍者がギフトで襲ってきたとは色んな意味で真実は語れなかった。


「襲ってきた人はわかるの?」


絵美がおばさんが居なくなったのを見届けて、小声で尋ねてくる。


「クラスの奴だって。理由はなんか強い奴と戦いたかったって」

「は?」

「クラスの上松って奴。明日文句言ってやれ」

「上松さん?上松君?全然顔が出てこない……」


また絵美とおばさんに嘘を付いた。

俺はどれだけ周りに嘘ばかり語っているのかを考えると、俺は多分ロクな死に方をしないんだろうな……。


「秀頼君、助けてくれてありがとう。生きて、……帰ってきてくれてありがとう……」

「な、泣くなよ絵美……」


おばさんに絵美の泣き声が聞こえると悪いので、外に出る。

絵美にハンカチを渡すと、それで涙を拭う。


「怖かった……、帰らないんじゃないかってずっと不安だった……」

「大丈夫。帰るよ。……俺だって死にたくない。……絵美」

「ひ、でより……君?」


俺は絵美に抱き付いた。

帰ってこれた、絵美と触れあうことで、よりその実感が沸く。


「…………死にたくない……」

「秀頼君……、それが君の弱さなんだね。うん、わたしも死にたくないな……」

「絶対、生きて卒業しような……」

「何言ってるの秀頼君、大げさだよぉ」

「ははっ、ごめんな……」


俺も死にたくない。

でも絵美が1年間すら生きている姿が想像できないんだ……。

もしかしたら、俺以上に死に魅入られているはずだから。


「死にませんよ、わたしは。好きな人の子供を産むんですから」

「旦那は誰だよ?ははっ、絵美の子供とかどんな子になるか楽しみだな」

「…………バカっ」

「突然の暴言!?」

「ほら、治療しますよ。手出してください」


俺が絵美を開放すると、それからの彼女の動きはテキパキであった。

手に包帯を巻き、頬に絆創膏を貼り、絵美は治療を終えた。

すぐに絵美と別れて、俺は家で考えごとをしながらゴロゴロとしていた。


風呂に入る際は、自分で包帯を巻き直しなどしながら、不便に思いながら今日は早めにベッドで眠りに付く。


ついに、明智秀頼が俺に干渉してきた。

人を殺せと脳に指令を送ってきた。

いつか、俺があいつに支配されるんじゃないかとビクビクしながら、意識はいつの間にか途切れていた。





その日、俺は1つの夢を見た。


それは、今日死ぬ運命を辿るはずだった哀れな少女の末路。




ーーーーー




「【絵美っ、避けろ】」

「っ!?」


後ろから風を切って投擲されたナイフの様なものが絵美に一直線に狙っていたのを察知して、ギフトで強制的にそれを回避させた。

おそらく絵美は狙われたことにすら気付いていなかっただろう。


「何者だてめえ?」

「我は忍、ギフトを刈る死神だ」


こそこそと女を狙う卑怯者に声を掛けると物陰より凄い露出をしたバカみたいな女が現れる。


「お前からは強いギフトの力を感じる。学校の時からお前をずっと付け狙っていた」

「おー、ストーカーみてーなもんか」

「ストーカーではない、忍だっ!」


ギフトを使用しようと彼女は力を集中させている。

しかし、俺はその瞬間を見逃さずにギフトを使用する。




「【服従しろ】」

「なっ……に!?」

「【ギフトを使用するな】、【頭を下げろ】」

「バカな……」


女が命令に従っていく。

身体が動かなくなっているのをひしひしと感じているのだろう。

そのままギフトを使用し、大人しく俺の家に連れ込んで行く。

勇敢な顔付きをしていた彼女も、今や顔を青くさせて絶望に満ちた顔をしている。


「ギフト狩りとかいうやってることただの人殺しなんか止めてさ、俺の家でもっと楽しいことしようぜ露出狂の姉ちゃんや。誘ってる格好してるし、そういうことだよなぁ?」

「ち、ちが……」

「【返事はイエス】だ」

「は、はい……。さ、そいました……」

「じゃあ絵美も一緒に付いてこいよ」

「わかりました」


彼女を部屋に連れ込み、そのまま部屋の真ん中へ彼女を投げ捨てた。

お楽しみの時間だ、何をしようかシチュエーションを考える時間が本当に楽しい。


絵美もいる。

逃げられない空間。

俺がこの部屋の主であった……。









凄く初期っぽい流れでシリアス移行。

短編だったりと意図せずにノリも初期っぽい7章。

色々な意味で1、2、4章みたいなノリ。

8章はまた5、6章みたいに長編になります。

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