32、偽りのアイドルは捨てられる

私が家に帰ると、地獄だった。

落書きまみれ、窓ガラスが石を投げられていた。

電話線が切られていた。

部屋がめちゃくちゃになっていた。


地震の被災地みたいな家と錯覚してしまう。


「っ!?」


家に入るとお母さんが泣いていた。

その目の前におばあちゃんが倒れていた。


「お母さん……、どうして……?」


声をかけるとお母さんは振り返ってーー。



パチーン。



頬を叩かれた……。




「あんたのせいでおばあちゃん死んだわよ」

「え……?」

「投げられた石が目に当たっていて……、ガラスも浴びて血塗れで……」


お母さんは泣きながら私を睨み付ける。

そこには強い殺意が見えた。

はじめて親に殺されるという恐怖が過る。


「あんたなんか引き取らなければ良かったっ!」

「え……?」

「星子を引き取る際に結婚を約束していた人に逃げられたのよ!?他人の子供なんか、育てたくないって……。私、あんたのせいで婚期も逃して……。それでも、大事な妹の娘だから引き取ったのに、そんなのあんまりじゃない!」

「おかあ……」


お母さんが恨みを込めた目で、私の肩に手を置く。


「なんで!?なんで育てた恩を仇で返すの!?なんなの、明智の血なんか滅べよ!」

「……っ」

「あんたの親父が関わってから家は散々よ!疫病神!クズっ!人殺し!」

「……」


私、人殺しも恐喝も何もしてない……!

なんでみんな私が悪いって責めるの……?


「私は妹が大事であって、あんたなんか大事でもなんでもないっ!お母さんも殺されて、家もこんなになって、仕事にも行けなくて……。もう……、私に関わらないで……。お母さんって呼ばないで……」


ふらふらとした足取りでお母さんは私の前から消えていく。

私は『待って』と引き留められなかった……。


「さよなら……」


もうお母さんと会うこともないんだなと悟った。





それからタンスを漁るも通帳が消えていた。

私の給料は全部お母さんが管理していたから全部持っていったんだ……。

おばあちゃんの財布と私の財布のお金を数える。


「5万円か……」


普段からちょっと多めに財布にお金を入れていた。

しかし、生活するには足りなすぎる。

でも、お金は必要だ。

財布をバックに仕舞う。


「スマホ、どうしよう……?」


ずっと電源を入れるのが怖かった。

ラインにもどうせ酷いことが書かれているんだろう。


小学校の友達だったユメちゃんからも『クズ家族』って連絡がきていたくらいだ。

友達みんな、私を軽蔑しているだろう。


私はスマホを家に置く。


制服で身バレは怖いから着替えておこう。

頭にこびりついた卵を流すために軽くシャワーを浴びる。


最後にテレビを付ける。


『スターチャイルド、ギフトで姿を偽っていたことが判明』そんなニュースが流されていた。

流石に私の顔写真までは写ってないが、SNSで晒されているだろうと思い、乾いた笑いが出る。


スターチャイルドの元ファンの反応。

『整形どころかチートだった』

『メッキ剥がれて草』

『あなたは偶像☆わたしは被害者☆』

『うわー、絶対正体ブスじゃん』


私は見ていられなくて、テレビを消す。




偽りのアイドルは消えて……。



人殺し家族の娘という肩書きが残った。





もう、何も感じないまま、家を出た。

誰にも弔ってもらえないおばあちゃんが心残りだった。




明日からどうしようか?

……いや、明日より今だ。


もう、わからない……。



バスを使う?

電車を使う?

また卵を投げられるかと思うと……。






そうやって考えて歩いていると1台の車が、私の横に停車する。

誘拐!?と警戒したが、見覚えのある車だった。







「星子ちゃん。……ようやく見付けた」

「…………達裄さん」

「もう、何もかもが手遅れだ。ごめん……。とりあえず乗って」


達裄さんが申し訳無さそうだった。


クラスメートに非難され。

お母さんに捨てられて。

達裄さんに拾われた。


もしかしたら、彼も裏切るかもしれない。

ーーもう、今更どうでも良い。


達裄さんの運転していた車の後ろの席に座り込んだ。

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