33、偽りのアイドル・スターチャイルド
車に乗り込むと、達裄さんが車を走らせる。
「大丈夫だったか?」「これからどうする?」、そうやって言葉に真っ向からぶつかってくれた。
本当に、理想のお兄ちゃんみたいだ。
私の家族は、何もしてくれなくて。
私の生き甲斐だったアイドルの姿を奪って。
それでも、お前は人殺しの家族だと追い詰める。
最低の父。
最低の兄。
兄のせいで大騒ぎになったのに、そのトリガーは勝手に死んでしまった。
明智秀頼という男は身内の私から見てもクズだ。
「俺の養子になるか?今は独身だけどずっと付き合ってる彼女も居るしこれを機会に結婚するかなー。どうせ俺には妹5人抱えてるし1人増えようが気にしない」
良い提案だ。
兄みたいな人を父と呼ぶのは変な感じだけど、楽しい人生になるかもしれない。
リーフチャイルドとも身内になるのか、素敵な生活だ。
「すいません、これは明智の問題です。これ以上、達裄さんを巻き込めません」
「…………そうか。君の選択だ。強制はしないさ」
達裄さんにも大事にしている妹がたくさんいるし、付き合っている彼女もいる、巫女さんもいる。
達裄さんは強いとはよくリーフチャイルドも巫女さんも言っていた。
ただやはり家を不在にする時はあるはずだ。
というか、今現在もそうだし。
その時に、家族を守れなくて達裄さんに恨まれる方が嫌だった。
もう、お母さんみたいな目を向けるのは嫌だった。
多分、達裄さんと会うこともないのかな?なんて考える。
そのまま車をずっと走らせる。
「あと、今後の生活についてだけどギフトを使って顔を変えて生きろ。もう細川星子の顔もスターチャイルドの顔も使えない……。ネットに晒された……」
デジタルタトゥー。
1度ネットに上がった画像や動画は完全な削除が不可能だ。
しかも、画像が消えても保存した人も居るし、記憶にも残る。
私の2つの顔は、いまや国中で敵になった。
「正直、凄い勢いで燃えてるな。君の父親はともかく、最低な兄だな」
「最低……」
「ギフト所持者で1番の被害者が多いクズとしてネットで総スカンだ。後にも先にもこんなクズが出てくるもんかね。俺が大嫌いな部類だ」
「……」
「本当、なんなんだろうな世の中って……」
それ以降、達裄さんは車を停めるまで口を開かなかった。
そのまま隣の県まで車を走らせた。
ちょっと長い時間のドライブであった。
「この辺かな。これからこの地で生きていくんだ」
顔は既にギフトで変化させた。
達裄さんの車にあった雑誌から地味な感じのモデルの顔をそのまま拝借した。
「俺はオリジナル星子ちゃんの顔も好きだったんだけどね。まぁ、いいや。いつでも力になるから連絡してよ」
はじめて会った時と同じ名刺を渡された。
電話番号がある。
本当に彼には感謝しかない。
「あとは、星子ちゃん……」
「はい……」
「死ぬなよ。君はあんな父親と兄貴に負い目を感じる必要なんかない。君はスターチャイルドでも、人殺し家族でもない。細川星子だ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、またいつか」
そのまま彼は車を走らせた。
本当は、彼の養子になった方が100倍良い生活になっていたと思う。
それでも、もう裏切られるのが怖かった。
さようなら達裄さん。
私を見付けてくれた巫女さん。
私を色々助けてくれた達裄さん。
迷惑ばかりですいません。
偽りのアイドル、スターチャイルドは死にました……。
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